第35話 最弱の誓い
鎌倉ダンジョン第1階層。
日本の数少ない西洋系ダンジョンだけあり、パッと見で観光目的だと分かる冒険者達が多い。
どう考えても下層に潜る気はなく、上層でTHEダンジョンの雰囲気を味わいに来ている。
逆に言えば、そんな事ができてしまうほど上層は攻略が進んでおり、観光に使われているためその地図は普通のダンジョンと違って安く手に入る。
まぁ、安いと言っても観光地値段、パンフレット状になった5階層までの地図が1冊5000円。
昔は面白がって攻略する人達も多かったため、難易度は高いのだがそこそこ攻略者もいて、情報も手に入りやすい。
全20階層。
入り組んではいるが、1フロア毎の広さはほとんど変わらない所か完全に同一。
5階層毎にボスモンスターが配置された広めの部屋があり、その奥には必ず宝箱と転移陣、下に降りる階段が設置されている。
5階層毎にモンスターの強さが変わる事から、上層、中層、下層、最下層とされ、まさにレトロゲームに出てくるダンジョンの様な造りをしている。
モンスターも誰もがパッと名前が出てきそうなものばかりだ。
スライムに吸血バット、ビッグラット、etc...。
アトラクション化してしまっており、スポーン待ちの看板を持った行列の横を素通りし、俺たちは5階層まで降りていく。
「何だか凄い所ね、噂で聞いた事はあったけど、まさか列まで作ってモンスターを倒してる何て」
「通称ゲームダンジョンと呼ばれてるダンジョンに良くできる風景らしい。何でも他のダンジョンと違ってモンスターのスポーン場所が決まってるから、倒してみたい人達で列が出来るとか」
「へー、何だかダンジョンって言うよりテーマパークって方がしっくりくるかも、列の整理もギルド職員がしてるみたいだし」
「血の気の多い冒険者に勝手させてると、直ぐに喧嘩しだしたり、変な奴らが陣取ってお金を取り始めたりと、厄介事が絶えない。仕方なくギルドが出張って来て管理し始めたらしいんだが、今じゃ悪くない資金源になってるとか」
そんなこんなダンジョンとは思えないほど気軽に会話しながら歩いていると、ボス部屋が見えてくる。
「うわ、ここも並んでるの?」
「一、二、三、5組くらいか、早い時間なだけあってマシなくらいだな」
「先が思いやられるわ」
「そうでも無いぜ、5階層を過ぎると冒険者は殆ど居なくなるからな。このテーマパーク感が煩わしくて、その下の階層を目指そうって奴は今じゃあまりいないんだ」
「それなら良かった」
それから30分程して、俺たちの番がやってくる頃には、列はさらに伸びており、角を曲がってしまっているせいで最後尾がどこまであるのか見えない程だ。
「さて、行こうか」
「ええ」
ボス部屋には職員が1人必ず付き添いで入ってくる。
アトラクション化されているこのダンジョンならではの決まりみたいな物だ。
何かあった場合ギルド職員が対応出来るようにと言うことらしい。
5階層のフロアボスはオーク。
2m程の巨体、厚い毛皮、防御力は言わずもがな、見るからに太い腕によって振るわれる棍棒の威力も馬鹿に出来ない。
まぁ、あくまで初心者にとってはだが。
「さっさと倒し先へ進みましょう」
漆原さんがその凛とした声を響かせる。
ギルド職員が傍で見ているからか、大学にいる時の雰囲気と言った感じだ。
中央に鎮座するオークへ向かって走り出す。
「ちょっ、漆原さん、俺の実力確かめる目的忘れてません!?」
慌てて俺も後を追いかける。
そして立ち上がろうとしているオークへ、漆原さんの鋭い一撃が突き刺さる。
ことは無く、その厚い毛皮によって攻撃が阻まれる。
おかしい、Lv99の攻撃が、こんな雑魚に効かない訳が無い。
あれ、そう言えば俺、漆原さんのレベル戻したっけ?
そんな疑問が脳裏を過ぎる。
というか、今起きてる事を考えれば確定だろ。
俺はすぐさま手を伸ばしてスキルを解除する。
そのままオークと漆原さんの間へ滑り込み、オークの攻撃をナイフでいなす。
「漆原さん!」
声をかけた途端、オークが吹き飛ぶ。
一瞬遅れて風と轟音が響く。
そのままオークは光の粒子になって消えていった。
あぁ、ヤバい、振り向くの怖すぎるんだけど。
「先を急ぎましょう」
あれ?意外と怒って無さそうか?
声色はいつも通りのクールさで、流れるように転移陣をアクティベートし階段から下の階へ進む。
俺もそれに着いて6階層へ降りる。
「等々力くん、ちょっとセーフルームに寄ろっか」
「先を急ごうって言って無かった」
「寄ろっか?」
もう分かってたけど、目が全く笑ってない。
「はい」
セーフルームに着くまで無言の時間が続いた。
とりあえず簡単に休める準備だけ整え、漆原さんの前で正座する。
「聞かせてもらえるかな?」
「まぁ、その、なんて言うか。前回追いかけられた時に漆原さんにスキルを発動した後、今日まで解除するの忘れてた、的な?」
「ふーん、で?」
「大変申し訳ございませんでした」
土下座である。
もうそれは綺麗な土下座である。
もしも漆原さんがあの状態で渋谷ダンジョンの下層行っていたら、間違いなく命は無かった。
普通に考えて謝って済む問題では無い。
「ふふ、よろしい」
顔を上げると、漆原さんは笑っていた。
俺の土下座姿が面白かったのだろうか。
分かってる、そんなんじゃない、この人は本当に。
「相手が私で良かったね」
「いや、待ってくれ、そんな軽い話じゃないだろ。死んでたかもしれないんだぞ」
「ちゃんと守ってくれたでしょ?それに、謝ってもくれた。それで十分、はい、この話は終わり」
ああ、クソ、もっと怒って良いだろ、謝罪で終わりって。
「守るさ、何度だって」
最弱の俺が、最強に言う事じゃ無いかもしれない、けど、今決めた。
少なくとも、俺の前で、漆原さんは絶対に傷つかせない。
それが漆原さんに返せるせめてもの誠意だ。
「頼りにしてるね」
その笑顔を見て、俺はもう1つ決意を固める。
読んで頂きありがとうございます。
漆原さん、あー漆原さん、漆原さん。
頑張れ源志くん!




