第34話 最低限の努力
朝早く電車に揺られる事1時間。
渋谷ダンジョンの攻略を一旦休みにし、今日は足を伸ばして鎌倉まで来ていた。
その理由もちろん。
「あ!等々力くんこっちです」
時計台の前で手を振っている漆原さんを見て俺は下を向く。
「あれ?おーい等々力くん!と・ど・ろ・き・くん!」
「分かったから、そんな大きな声で何度も名前を呼ばないで!」
俺は急いで漆原さんの前まで駆け寄る。
案の定広場の人達の視線が物凄い集まってしまっている。
「おはよう等々力くん、今日はよろしくね」
漆原さんは随分とオシャレをした服装で楽しそうにしているが、今日の目的は先日約束したダンジョン攻略だ。
「待ち合わせは鎌倉ダンジョンの予定だったと思うんだけど」
盛大に溜息をつきたいのを我慢し、辺りを気にしながら少し小さな声で話しかける。
「そうだったけど、あまりにも雰囲気のいい街だったから、ダンジョンまで散歩がてら一緒に行こうかと思って連絡しちゃった」
無邪気な笑顔をこちらに向けながら、なんとも可愛らしいことを言ってくる。
連絡しちゃった、じゃないよ。
これが付き合いたてのカップルなら喜ばしい光景だろうけど。
「確かに雰囲気のいい街だけど、尚更あんなに大きな声で呼んじゃダメでしょ」
「確かに、ちょっとはしゃぎ過ぎだったかも。それにしてもどうして鎌倉ダンジョンなの?ダンジョンなら東京にも沢山あるのに、待ち合わせだって別に寮の近くでも良かったと思うんだけど」
この人まじで言ってるのか。
そんなことしたら俺が漆原さんのファンに殺されるわ!
「もしかして、態々待ち合わせを鎌倉ダンジョンにした理由を分かって無かった感じ?」
「それは、お出掛けって感じがするからだよね」
怖いよ、あれか?これが箱入りお嬢様の発想って奴なのか?
いやまぁ確かに態々近くを待ち合わせ場所にせず、少し離れた場所を指定してからの方が、お出掛け感はある気はするけどね?
1時間の距離は少しとは言わないと思うんだよ。
「漆原さんはもう少し、自分が有名人だって事を理解した方がいいと思う」
「それクランメンバーにもよく言われるんだけど。確かに私は有名だと思う、でもそれは冒険者の中だけの話でしょ?そこまで気にする必要は無いと思うんだよね」
なるほど、冒険者としてずっと生きていると、一般的に冒険者がどういう立場なのか知らずに育つのか。
これは教えてあげた方がいいのか?
冒険者ってのは憧れの対象で、ランキング1位ともなれば誰でも知ってるって。
けどクランの人たちがそれを教えてないって事は、何か考えがあるのか?
なら俺が勝手に教えるのはまずいよな。
そうこう話してるうちに噂を聞き付けたのか、漆原さんを一目見ようと人が集まってきている。
「とりあえずダンジョンに向かいますか」
この話は1度持ち帰ってから考えよう。
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鎌倉ダンジョン。
日本にある数少ない西洋系のモンスターが出るダンジョンだ。
ダンジョンは基本、その国の特徴を強く受けていることが多く、例えばアメリカにはエイリアンの様なモンスターが出るダンジョンが多くあったり、イギリスでは赤と白の滅茶苦茶強い二匹のドラゴンがいるダンジョンがあったりする。
日本も同じく古来より話が出てくる妖怪や何かがモンスターとして出てくるダンジョンがほとんどなのだが、人気すぎるゲームやアニメの影響なのか、所謂スライムとかゴブリンとかドラゴン何かが出るダンジョンが各地に少しだが存在している。
取り敢えず、ダンジョンの受付嬢から物凄い訝しげな目を向けられながらも受付を済ませ、指定されたロッカールームへ向かうことにした。
「はぁ、何かどっと疲れた。まだ今からダンジョン探索があるって言うのに」
俺は1人で使うには少し広すぎる気もするロッカールームでため息をつく。
ランカーともなればそれなりの待遇をされる、その1つがこのロッカールームだ。
普通の冒険者が、拠点にしているダンジョン以外を攻略しようと思うと、大荷物を抱えて移動しなければならないず、しかも装備に着替えるためのロッカーも争奪戦の末勝ち取らなければ着替えもままならない。
しかしランカーともなれば、事前に申請しておくことで個人用ロッカールームを用意してもらえ、その上荷物もその中に運んでおいてもらえる。
まさに至れり尽くせりだ。
装備に着替えてロビーで待つ事10分。
白を基調にした装備を纏った漆原さんが歩いてくる。
辺りの冒険者の視線を一身に受けて。
「お待たせしました、それでは行きましょうか」
「ああ。うん」
胃が痛い、もうこんなのファンクラブの耳に入らない訳が無い。
木を隠すなら森の中。
冒険者の中なら目立たないとか思ってたけど、舐めてたわ。
最低限の努力はしたつもりだったけど。
やっぱり駄目だったか、もうこうなったら吹っ切れて攻略に勤しむしかない。
「良し!漆原さん、一気に攻略してさっさと俺の誤解を解くぞ!」
「はい!頑張りましょう」
「あ、わかってると思うけど、漆原さんは程々にね、俺の実力を測りに来てるわけだから」
「……え、あ。そうだよね、頑張って等々力くん」
心配だ、超心配だ。
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物凄い衝撃音が木霊する。
俺は夢でも見てるのだろうか。
「何でこの人がここにいるんだ?」
まさかダンジョンに入る前は、こんな光景を見るなんて思ってもいなかった。
読んでいただきありがとうございます。
次回より鎌倉ダンジョン探索だ!
うおぉ、頑張ってダンジョン探索するぞ!




