第3話 最狂の師匠
電車に揺られる事2時間半、そこから徒歩で30分。
田んぼだらけの道をぬけ、小高い丘を登った先。
ぽつぽつと家はあったがほとんど人とすれ違わなかった。
道路は整備されているようで、歩きづらいという事は無かったが、それでも思ったより時間がかかってしまった。
スマホの時計を確認すると15時半を過ぎている。
ギルドを12時半頃に出発したから、3時間以上かかったことになる。
「初めての場所に無計画で来るもんじゃないな。今の時代にここまでアクセスの悪い場所があるなんて」
思ったより急な坂道を登ったせいで、少し息切れを起こしている。
しかし、目的の場所にはたどり着いた。
『天明道場』
少し薄汚れているが、立派な門にそう書かれた板が立て掛けられている。
いや、これを少しとは言わないか、各所に歪みが生じており、穴も空いている。
ネットで調べていたから読めるだけで、看板すら何か汚れて読みづらい。
「これは、騙されたのか、俺」
壁や門に空いた穴から中を覗いて見るが、人の気配は無い。
「……帰るか」
無駄に長い駅までの道をまた歩くかと思うと気が重い。
そんなことを考えていると、物凄い軋む音と共に門が開き、そこから同年代位の男が出てくる。
「あっ、どうも」
一応挨拶をしてみるが、気に止める様子もなく歩いていく。
かと思うと立ち止まり、ぼそりと何かを喋っている。
もしかしてやばい人か?
「君もその門を潜るなら覚悟しろ!あそこには、鬼がいる!!」
こちらに振り向いた男の顔は、憔悴しきり絶望していた。
ボロボロと涙を零しながら俺を、いや、俺の後ろの門を眺めている。
何故かその表情が、俺の心に突き刺さる。
そして、ギルドで会った金髪の男の言葉が脳裏に過ぎる。
『後はお前次第だ、必要なのは負けん気と根性、死にそうでも逃げない事』
彼はきっと、逃げてしまったのだろう。
俺はとぼとぼと歩いていく男の背中を見送ると、意を決して門を潜た。
「すみません、誰かいらっしゃいますか?」
声をかけしばらく待つと、奥の方から人がやってくる。
「はっ、またヒョロっちいガキが来たもんだな」
180cmはあるだろうか、和風の家屋に似合わない黒いタンクトップにカーゴパンツという風貌で、ボサボサの赤い髪を後ろで纏めている。
タッパの割に意外と細い印象だが、出るところはしっかり出て主張している大人なお姉さんが現れる。
って俺はどこを見てるんだ。
「あの、ここなら俺のステータスでも修行を付けてもらえると聞いて来ました」
俺は気合いを入れ直しそう告げる。
冒険者のインタビューとかで見た事がある、この人がこの道場の師範、天明 杏香さんだ。
「なるほど、入門希望者か。ちょいとステータスを見せてみな」
やはり、ここでもステータスは確認されるのか。
俺は恐る恐る冒険者証を差し出す。
そのステータスを見て、女性は薄ら笑いを浮かべている。
やはり、駄目だろうか。
レベル上限1の俺に時間を割いてくれる人など、いるわけが無い。
「あの、やっぱり帰ります、お時間取らせてすみませんでした」
別に師匠がいなくても、努力はできる。
俺はそう腹を括って、渡した冒険者証を返してもらおうとする。
しかし。
「まぁ、待ちな。修行ならつけてやってもいい」
伸ばした手を止められ、冒険者証を上に持ち上げられる。
「えっ?」
半ば諦めていたこともあり、俺は惚けた声で聞き返してしまう。
いま、修行を付けてくれると言ったのか?この人。
「もちろん条件はある。このステータスだ、無条件って訳にはいかねぇ」
俺を見つめる真剣な目に、少し怯む。
とは言え、このステータスだ、条件があるのは当たり前だろう。
「条件、とは何でしょうか?」
俺は唾をゴクリと飲み込む。
この際だ、多少無茶な条件でも飲んでやる。
「今日から高校卒業までの間、ここに住むこと」
意外とまともな条件に拍子抜けする、と言うか、そこまでして修行を付けてもらえるなら、寧ろありがたい位だ。
学校へは少し遠くなるが、それでも通えない距離では無いだろう。
「それからその間、この屋敷から出ることは禁止する」
俺は提示された条件に首を傾げる。
とりあえず俺は疑問を投げかけてみることにした。
「あの、今は夏休みなので良いですが、9月からは学校が始まるんですけど」
そう、俺は学生だ。半年も学校に行かなければ単位もやばい事になる。
ダンジョンに入れるのは高校卒業後、一部例外はあるが、これは年齢的な縛りだけでなく、高校卒業資格が必要という事なのだ。
「そこは安心しな、あたしは冒険者ランキング第3位の上級冒険者だ。つまりダンジョンに潜るための高校卒業資格を出してやれるし、お前が望めばその後の冒険者大学への斡旋もできる。知っての通り、現1位の太陽も、その仕組みを利用して、高校には通っていない」
確かに、上級冒険者の斡旋が受けられるメリットの1つが、この制度だ。
しかし、急に言われても困る。
「あの、1度家に帰って考えさせてもらっても良いですか?」
暫くここに泊まるにしても、家を空ける事になる以上は親にも説明が必要だ。
それに、もし冒険者になれなければ、休んだ分の学校生活を取り戻すのは相当苦労することになる。
まさに今後の人生に関わってくる。
「好きにしろ。但しさっきも言った通り、今日からこの屋敷を出ることは禁止だ、つまりこの屋敷から出た時点で私の弟子になるのは諦めるって事だ」
つまり、今帰ったらもう終わりってことか!?
多少無茶な条件は飲むつもりだったが、これは理不尽すぎる。
「いや、待ってください、こんな大事な事そんな簡単に決められませんよ!」
人生がかかった決断を今しろと言われても、そんな事できるはずがない。
とりあえず、1日だけでも時間が欲しい。
「甘ったれんなよガキが」
思いっきり睨まれ、背筋が凍るのを感じる。
3位の実力は伊達では無い、弱いモンスターならこれだけで簡単に逃げ出す事だろう。
余りの威圧感に俺は尻もちをつく。
「良いか?お前のようなクソみてぇなステータスの野郎が冒険者になりたけりゃ、1度のチャンスを掴み取るしかねぇんだよ。レベル1の冒険者に訪れるチャンスなんぞ1度でもあれば良い方だ。そのチャンスを逃せば待ってるのは死、ダンジョンってのはそう言う所だ。チャンスだと思ったら迷わず掴め、無い幸運を恨むな、掴むべきチャンスを見極めろ!」
俺は余りの圧力に声が出ない。
でも確かにそうだ、さっきは自分でも鍛えられるなんて言ったが、学校に通いながら出来ることなんて限られる。
上限冒険者へのツテが他にない以上、これを逃せば本当に終わりなのだろう。
「まぁ、とは言っても、まだ学生の甘ちゃんには難しいだろ。だから安心しな、学校への説明も親への説明もきっちりしといてやる。だから今決めるんだ、残って冒険者になるか、帰って冒険者を諦めるか」
肩に手を置かれ、ニコリと微笑みかけられる。
あぁ、そうだよ、これだよ。
ここでこの悪魔の様な微笑みに俺は騙されたんだ。
「なります!冒険者に!」
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