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第27話 最悪の勘違い

「アクティベーション"猿鬼"!!」


 俺の声に反応しガントレットが形を変える。


 実験の時のような鈍い音はしない。


 機械が駆動する音と共にガントレットが猿鬼の腕の形を象る。


 そのまま殴りかかって来る千國(せんごく)の拳を迎え撃つ。


 衝撃音がダンジョン内に響く。


 撃ち抜くつもりで放った拳がぶつかり合う。


「ハッ!やっぱり玩具じゃねぇか!」


 押し勝ったのは千國の方だ、得意気に笑みを浮かべる。


 猿鬼の力により俺の筋力は上昇しているはずにも関わらず簡単に押し負けた。


 それ程までに千國の鬼化は強力という事になる。


「どうした?クソザコ野郎!」


 勢いそのままに千國は何度も殴りかかってくる。


 その攻撃をいなしながら俺は思う。


 どうしてと。


 レベル1でこれだけの力、噂じゃ千國のレベル上限は相当高かったはず。


 レベルを上げて行けば間違いなく上級冒険者として名を馳せたに違いない。


 そんな奴がどうして悪事に手を染めているのだろう。


 そんな奴がどうして俺なんかに憎悪を向けているのだろう。


「テメェみたいなクソザコはそうやって縮こまってれば良いんだよ!」


 荒れ狂うような連打の中でとどめを刺すかの如く威力を重視した大振り。

 俺はそれを叩き落とすと千國の顔面に拳をめり込ませる。


「甘ったれてんじゃねぇよ」


 こいつは俺をクソザコと呼べるだけの力を持っている。

 にも関わらず勝手に不貞腐れて八つ当たりまでしてきてやがる。


 俺は正直自分の事を弱いと思ってる、だからバカにされるのは別に良い。


 だが俺が喉から手が出るほど欲しても手に入らない力を持ってるこいつが、こうして腐ってるのがどうしようもなくむかっぱらが立つ。


「お前に何があったかなんて知らねぇがな。進むのを諦めた人間が他人の足を引っ張るな!」


 フラフラとよろめく千國が俺の言葉を聞いて踏みとどまる。


「テメェに何が分かる。師匠に恵まれて順風満帆な冒険者生活を送ってる奴にっー」


 俺は千國が喋り終える前に問答無用で殴り飛ばす。


「だから知らねぇつってんだろ!力があるのに腐ってる甘ったれ野郎のことなんか分かりたくもない」


 もしかしたら事情があるのかもしれないがそんなことはどうでもいい。


 どんな理由があったとしても最後に諦めたのはこいつ自身だ。


 そんな奴に同情してやれるほど俺は暇じゃない。


「師匠に認められなきゃ冒険者にはなれねぇ!テメェも知ってるだろ!」


 まだ喋ろうとする千國を殴ろうとして手が止まる。


「……何言ってんだお前?」


 千國の言っていることが訳分からなすぎて俺は聞き返す。


「冒険者として生きていくには東冒大に入るしかない。だがその為には優秀な師匠からの斡旋が必要なんだろ?師匠に見捨てられた人間は冒険者にはなれない!そんな巫山戯た話があるかよ!」


 そんな巫山戯た話……ある訳ねぇだろ。


 あまりの事に空いた口が塞がらない。


「お前それ……オレオレ詐欺並に使い古された典型的な詐欺の常套句じゃねぇか」


 いやもう本当に冗談じゃない。

 こんなバカみたいな理由で絡まれてたとか。


 冒険者は強くなればかなりの額が稼げるようになるというのは周知の事実だ。


 だからこそ強い奴は憧れと共に妬まれもする。


 妬みが行き過ぎて実力のある奴に嘘を吹き込んで冒険者を諦めさせる奴なんてのもいるぐらいでだ。


「高二の時に冒険者講習で説明受けただろうが」


 もちろん優秀な冒険者が減ってしまうような状況を冒険者ギルドが放置するはずもなく。


 高校2年の冬に冒険者を目指す目指さないに関わらず講習会を受けることになっている。


 そこで詐欺の注意喚起も聞かされている。


「いや……どうせ冒険者にはなるつもりだったからよ、講習会なんて寝ちまってたんだよ」


 千國は物凄いバツの悪そうな顔をしながら目をそらす。


「千國お前……巫山戯んなよ!そんな馬鹿みてぇな理由でずっと俺に突っかかって来てたのかよ」


 あまりの馬鹿さ加減に力が抜けて座り込む。


 なんだこの肩透かしな状況は、冒険者になるつもりだったなら尚更しっかり講習聞いとけよ。


「……おい、詐欺ってのは嘘じゃねぇだろうな」


 この場の空気に耐えられなくなったのか、千國がそんなことを聞いてくる。


 こいつマジかよって顔で千國を見る。


「……悪かったよ」


 俺の無言の圧力に負けてボソリと呟く。


「別にいいよ、もう戦う理由もねぇし、怒る気にもなれねぇからな」


 千國の肌の色が元に戻り、額の角も消えてゆく。


 もう見ていられないほど落ち込んでいるのがわかる。


 俺はため息を着く。


「東冒大は毎年通常の入学枠とは別に、ある程度レベルが上がった時に有用スキルを発現させた奴ように枠を用意してある。多分まだその受付は間に合うはずだぞ」


 俺は千國に手をかざすと一視同仁を解除し、元のレベルに戻す。


「情けのつもりか?」


 千國が睨みつけてくるが、俺はもう正直興味が無い。


「強い奴が燻ってるのが許せねぇだけだ、さっさと行け」


 そんな事よりも何とかしなければならないことがある。


 俺は腰のポシェットから回復タブレットを取り出す。


「おい、それよりもこっちの方がいいだろ」


 そう言って千國が回復ポーションを投げ渡してくる。


「こんなもんで借りを返せたとは思ってねぇ、この借りはきっちり返す」


 別に、忘れてくれていいのに。


 千國が去っていく音が聞こえる。


 多分この子が回復した時に自分が居たら怖がられるとでも思ったのだろう。


 俺は千國から渡されたポーションを確認したあと、倒れた女の子へゆっくりと飲ませる。

読んで頂きありがとうございます。

勘弁してくれよ千國くん。


良かったら、

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