第22話 最暗の闇
「ダンジョン内には法が無い。お前も冒険者なら知ってるだろ」
胡座をかいた師匠がつまらなそうに語り出す。
「正確にはダンジョン内で起こった犯罪の立証は難しいという事だ、特に殺人はな」
何となく理由は分かっている、俺の目の前で殺られた冒険者は光の粒子になって消えていった、それも装備ごと。
ほとんどの場合は証拠が残らない。
何かあった場合でも正当防衛を主張すればそれを否定する材料は殆ど無い。
昔動画配信者がビデオを持ち込み、それに証拠が写っていた何て事もあったらしいが、ダンジョン内でビデオを持って探索できる実力者は限られる。
それに見ざる聞かざる言わざるが冒険者として安全に生きていく条件の1つにもなっている。
今どきカメラを持ってダンジョンに入る自殺志願者もそうはいない。
「そんな法もへったくれもない場所にはどうしたって闇が潜む。そしてそういう輩は必ずと言っていいほど連みだし、人が集まれば馬鹿な事をしだす」
馬鹿なこと、それとあの子に何か関係があるという事だろうか。
「ダンジョン内のモンスターで遊び始めたのさ」
モンスターで遊ぶ、弄ぶ。
なるほどそういう事か。
俺は自分の掌で光る結晶を見つめる。
あの白い虎の人間に対する途方もない憎悪はそういう事だったのだろう。
「最初はまさかモンスターと人間の間で子供が産まれるなんて事は思ってもみなかっただろうがな」
なるほど確かにあまり気持ちのいい話では無いな。
だが正直な話、それだけの話かとどこか他人事にも感じてしまった。
人並みの正義感ってのはあるつもりだが、倫理的にどうこうって話にはあまり興味が無い。
「それでいい、関わっても陸なもんじゃ無いのさ」
俺の表情を見て師匠は呆れたように嗤う。
その後師匠に完膚無きまでにボコボコにされた俺は、さっさと帰れと道場から摘み出されるのだった。
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「ただいま」
久しぶりに寮に帰ってきた俺は、狭い部屋にいる同居人へ声をかける。
フードを被りその上からヘッドホンをした尖った感じのファッションで、いつも通り機械にまみれたデスクの前に座っている。
「ちっ、生きてやがったか」
鋭い眼光でこちらを一瞥すると憎まれ口を叩いてくる。
それだけで興味を無くしたようにまたキーボードを叩き始める。
残念ながらこのギークって感じの同居人とはまだ仲良くなれていない。
一応は相互不干渉って感じで上手くはやれていると思う。
俺は適当に部屋着へ着替えるとベッドへ横になる。
久々のベッドに身体が蕩ける、寮に入って直ぐの頃は気になって仕方なかったキーボードを叩く音も、今や子守唄がわりだ。
微睡みの中で見覚えのある魔石が目に入る。
「……レベル1の大天狗の魔石?」
意識が途切れそうになる最中、同居人がこちらに近づいてくるような気がしたが、俺は眠過ぎてそのまま瞼を閉じ……。
「おい」
瞼を閉じて。
「おい」
瞼を開ける。
「おい、今お前」
瞼を閉じる。
「おいって言ってんだろ起きろボケ!」
もう一度瞼を開けると何か微妙に頬を赤くしてこちらを睨みつける同居人が目の前にいる。
え、怖。
「今お前、レベル1の大天狗の魔石って言ったよな」
フードの先端を引っ張って目元を隠しながらそう問いかけてくる。
「ああ、言ったけど、それそうだろ?」
今まで同居人の方から話しかけてくる事は無かったのだがどういう風の吹き回しだろう。
「そうだよ、だがこれは特殊な筋から調達したもんだ、世には出てねぇ。なんで知ってやがる」
意外にもちゃんと喋れるんだなこいつ、とか考えながらもどうしたもんかと思案する。
俺が取ってきたんだから知ってて当然だろう。
なんて正直に言う訳にも行かないよな。
「いや待て。そういや、お前のレベル上限も1だったな」
おっと、何か雲行きが怪しくなってきた。
フードの影からこっち睨んでるし、怖いし。
「最近ランキングも一気に上がってたよな。確かダンジョンで稼いだ金額が一気に3000万アップだったか。魔石の買価も丁度3000万だったよな?」
ふっ、お前のような勘のいいガキは嫌いだよ。
さて、まじでどうしようか、師匠からはあまり大っぴらにするなと言われてるんだよな。
「もしまだレベル1の魔石を持ってるなら売ってくれ、大天狗の魔石と同じ様に通常レベルの魔石の3倍出す!」
俺の様子からもう察しが着いたのだろう、めっちゃ顔を近づけて迫ってくる。
「近い近い、分かったから少し離れろ」
ハッとした顔をして物凄い勢いで離れていく。
いやそんな離れんでも、不器用かよ。
何か今までの印象と違ってちょっと面白いなこいつ。
「あんな特殊な方法で売ってるんだ、お前のダンジョンに潜ってる回数からしてもそれなりに在庫抱えてんだろ。普通に売ったって二束三文なんだ、需要のあるところに売っておけよ。もちろんちゃんと買取証明はギルドに出してやる」
急に早口で捲し立ててくる。
まぁ、実際悪い話じゃない。
「売ってやっても良いが幾つか条件がある」
もうこうなったらいい条件で売るしかない。
どうもこいつにはレベル1の魔石が必要な様だしな。
「条件?言っとくが値段の交渉には応じないぞ、その魔石に価値を見出さんのは俺くらいだからな」
やはりこいつにとってはレベル1の雑魚な魔石に価値があるらしい。
「値段の交渉じゃねぇよ。売る条件は俺がどうやって魔石を手に入れているかの詮索や調査をしないこと。それから俺がこの魔石を手に入れられることや売っていることを誰かに話す事も禁止だ。もし俺がそれを守られていないと判断した場合は取引を中止させてもらう」
基本的に通常の3倍の値段で買うって奴が態々人に話すことは無いだろうが保険は必要だ。
「あ?そんな事で良いなら約束してやる、願ったり叶ったりだ、そんじゃあ交渉成立だな」
そう言って俺に握手を求めてくる。
律儀だなこいつ、だが。
「いや、まだだ。売るかどうかはレベル1の魔石を何に使うのか、それを聞いてから判断する」
俺の言葉に同居人の動きがピタリと止まるのだった。
読んで頂きありがとうございます。
いやぁ、同居人君可愛くないですか?
え?シリアスどこ行ったかって?
知らない子ですね。
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