第21話 最狂再び
硬く冷たい床に座り、薄暗い部屋で自身の掌に張り付いた結晶をじっと見つめる。
暫く過ごしていたとは言えない、こんな空間でも実家の様な安心感を覚えてしまう俺は随分と変わった奴なんだと思う。
埃っぽい空気がダンジョンでの記憶を思い起こさせる。
勝利とも言えない勝利の後、俺は病院のベッドの上で目覚めた。
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白い見知らぬ天井を見ながら『知らない天井』と言いかけた所で、白衣を着たおっさんが入ってくる。
「そろそろ目を覚ます頃だと思ってたよ」
髪はボサボサ、無精髭を生やし丸メガネを掛けた気のない顔をしたおっさん。
着ているのが白衣ではなく柄物のシャツなら、ヤのつく人に見えそうだ。
「知らないおっさんだ」
ヤバっと思い口を塞ぐ。
「いやいや良いよ、合ってるから。でも一応感謝はしてくれよ?俺じゃなきゃ死んでたからね君」
頭を掻きながらじーっとこちらを見ている。
死んでた?
……そうだ、俺はダンジョンでヤバいモンスターと戦って、それから。
そこで初めて右手をずっと握りしめていたことに気づく。
確か最後に魔石を握って、誰にも盗られないようにと。
手を開くとそこには小さな魔石。
「全く開かなかったから何かと思えば、魔石を握って離さなかったのかよ」
おっさんの呆れ声が聞こえる、しかしそんな事より俺は魔石が気になって仕方なかった。
だって、
埋まっているから。
右手に。
取り敢えず引っ張ってみるが、どうやらしっかり皮膚と同化しているようだ。
「あの、何か、同化してるんですけど」
おっさんは俺の掌見て、眉をひそめる。
それから手を掴むと、軽く触り、指で魔石を弾いてくる。
「イテッ」
俺が痛がるのを見て、何か考え込む。
「痛いか、なら駄目だな。それはそのままだ諦めろ」
匙を投げられた。
まじか。
手を握って開いてを繰り返してみる。
少し皮膚が引っ張られる感じはあるが、動かしづらいというほどでは無い。
「まぁ、冒険者は続けられそうか」
その言葉を聞いておっさんが笑う。
「冒険者を続けられるのは、お前をここまで運んできた嬢ちゃんのおかげだぜ」
嬢ちゃんのおかげ、そうだ、ダンジョンから俺を連れ出してくれた人はいたはず、確かにあそこで野垂れ死んでいたら冒険者は続けられなかった。
「あの、俺を助けてくれた人は誰ですか?名前とか」
15階層で人1人運んで生きて帰れる程の実力者、お返しできるようなものを俺は持っていないが、せめてお礼を言いたい。
「悪いな、匿名希望なんだ」
ガラガラと音を立てて部屋の扉を開けながら適当にあしらわれる。
「さ、起きたなら帰った帰った、俺の病院にゃ若い男を寝かしとくスペースはねぇだよ」
さっさと病院から追い出されてしまいなんとも言えない気分になる。
とは言え元気は元気、怪我も治っているし医者が追い出すなら問題ないのだろう。
俺はスマホを取り出し時刻を確認しため息をついた。
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結果的に言うと俺は1週間大学を休んでいた。
ダンジョンで助けられたのが多分日曜日、そして目覚めたのがその週の金曜日の夜。
俺は病院から出たその足で師匠の家に転がり込んだのだった。
戸が開き薄暗い部屋に光が差し込む、眩しさで目を細めると次の瞬間。
寝ぼけた意識が一発で目覚めるほどの冷水をぶっかけられる。
「おら、いつまで寝てやがる、起きろ!」
桶を持った師匠の姿に少しほっとする。
「何気持ちわりぃ顔してやがる、さっさと朝飯食って訓練だ、渋谷ダンジョンでどれくらい力をつけたのかそれとも鈍ったのか見てやる」
帰ってきたという実感からつい顔もにやけてしまった。
「はい!師匠!」
師匠特製の超ボリューム肉盛を喰らい、はち切れそうな腹を抱えて稽古場へ移動する。
気合いを入れて扉を開けた瞬間、目の前に何かが飛んでくる。
すんでのところで躱したそれが師匠の拳だと気づいた時には次の一撃が放たれる。
つま先のバネを利用し攻撃の勢いを殺しながら後方へ跳び回避する。
「ほう?それなりに動けるじゃねぇか、てっきりダンジョン攻略に煮詰まってウダウダしてんのかと思ったんだがな」
ウダウダか、しているかしていないかで言えばしているのだろう。
ダンジョン攻略が上手くいっていない訳では無い、あのイレギュラーが無ければ予定通り探索ができてたと思う。
しかし実際にはイレギュラーを対処出来てこそ1人前、俺はやはりまだまだなのだと思う。
「師匠、人とモンスターが混じったような存在を知っていますか?」
師匠の動きがピタリと止まる。
「お前の言う混じったってのがどんなのかは知らねぇが、人型のモンスターはそう珍しくないだろ」
何となく師匠の言い回しが何かを避けているように聞こえた。
「地下14階層で白い虎と人が混じったような女の子に出会いました」
俺の言葉を聞き師匠の表情が変わる。
小さな舌打ちをしたかと思うと稽古場の中へと入っていく。
「あまり聞いて気持ちいい話じゃねぇぞ、それでも聞くか?」
師匠の真剣な声音に一瞬怯む。
しかしここで聞いておかなければ喉のつっかえが取れず探索に集中できない。
「お願いします」
俺は意を決して稽古場へ入り、扉を閉めた。
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