第20話 最強の冒険者
「はい、分かっていますお祖母様、失礼します」
早朝から鳴り響いた電話の対応を終え、私はため息を着く。
冒険者ランキング第1位、漆原冴。
二つ名は太陽。
そんな肩書きを得るため、お祖母様に言われるがまま冒険者を続けてきた。
その道のりは険しく、普通の生活をしながら手に入るものではなかったと思う。
だからこそ冒険者大学に入って寮生活ができると聞いた時は、自堕落とまでは行かないにしてもある程度人並の生活ができると楽しみにしていた。
しかし結局待っていたのは周りからの羨望の眼差しと、毎日の様にかかってくるお祖母様からの電話。
やれ他者の見本になれているかだの、渋谷ダンジョンの攻略は順調かだの、大学生だからと浮かれることが無いようにだの。
結局ほとんど何も変わらず、私は誰かの為の漆原冴であり続けている。
でも一つだけ楽しみもあったりする。
早朝のささやかな楽しみ。
ランニングウェアに着替えると簡単なメイクをして日焼け止めを塗り出かける準備をする。
外へ出るとまだ冷たい風が頬を撫でる。
都会の空気を肺いっぱいに吸い込み、美味しくないなぁなんて思いながら小さく笑う。
私は世間が私に持つイメージほど完璧じゃないし完璧主義者でもない。
田舎の自然いっぱいの空気より都会の空気が好きだし、満開の桜より綺麗な新緑の葉桜を物悲しさを感じつつも見るのが好きだ。
こんな事を私が言っても嫌味にしか聞こえないだろうが、レベルが高くて強い人よりレベルが低くても努力して強くあろうとする人の方が好感が持てる。
父がそうだったからかもしれない。
お祖母様は父の話をすると顔を顰めるけれど。
まぁ何が言いたいかと言うと、朝のランニングでとても努力家の彼を見られのが楽しみだったりしている。
彼を見ていると自分も頑張らなきゃと思えるから。
私は彼の事を入学式の前から知っていた。
噂が流れてきたからだ。
レベル上限1にも関わらず冒険者を目指す馬鹿がいる。
そんなくだらない噂。
その噂は日に日に聞くようになった、まるで誰かが態と広げているような、態と風化させないようにしているような。
彼に対する噂は最初の頃はただ馬鹿にするものだけだった。
しかしその噂は次第に様相を変えていった。
『あの狂拳士の元で修行をしているらしい』
『東御ダンジョンを完全攻略したらしい』
『違法な方法でダンジョンを攻略しているらしい』
『裏口入学で東冒大に受かったらしい』
『詐欺まがいの方法で金を集めて冒険者ランキングを上げているらしい』
徐々に僻みが混じった何の根拠もない噂へ、もはや都市伝説扱いだ。
冒険者をやっていれば彼の噂は嫌でも耳に入ってくる。
火のないところに煙は立たない、なんて言うからか、私も最初は彼に対してそこまで良い印象は無かった。
ただ何となく、もし本当にレベル上限1でも真面目に冒険者を目指しているのなら、それはとても凄いことだとは思っていた。
そしてある日、事件?に遭遇した、と言うか私発信の事件というか、加害者側というか。
私の受けた講義に人が溢れ、それをファンクラブの人達が管理し始めてしまったのだ。
「だから何度も言ってるだろ、俺は講義を真面目に受けたいだけなんだ」
「それが信じられないと言っているのです、貴方が漆原様のファンでない証拠はどこにもありませんから」
「悪魔の証明じゃねぇか」
聞き覚えのある女性の声はファンクラブの会長のもの、そして言い争っている相手は件の彼だ。
私は何となく見つかってはいけない気がして隠れてしまった。
「とにかく皆抽選で席を確保しているのですから大人しく従ってください」
「頼むよ、俺には講義の知識が必要なんだ」
「ふっ、レベル上限1が何をしたって無駄でしょ?どうせ裏口入学で単位も必要ないんだから」
「確かに師匠が勝手に入学手続きはしてたから、裏口と言われればそうだが、それで卒業出来るほどこの大学は優しくない、知ってるだろ?」
「裏口入学は認めるんですね」
「上級冒険者の推薦で入学する事を裏口入学と言うならそうだな、因みにあんたらの大好きな漆原様ってのも推薦入学者だけどな」
「貴方と一緒にしないでください!漆原様は推薦されるだけの実力があります!ふっ、それよりも良いのですか?貴方が裏口入学をしたと認めた事が広まれば大学に居られなくなりますよ?」
「それで講義が受けられるなら好きに広めてくれ」
「聞こえなかったのですか!大学に居られないのだから講義も受けられないに決まっているでしょ!」
「なら賭けるか?その噂が広まって俺が追い出されればあんたの勝ち、追い出されなければ俺の勝ち。あんたが言うにはどうせ俺は追い出されるんだ、それなら俺が退学になるまで講義を受けされてくれても良いだろ?」
「賭けなっていません。漆原様と講義を受けたい人は山のようにいるんです、抽選で選ばれる事を祈っていてください、選ばれる確率は限りなくゼロですが」
なんだか話が拗れているなぁ、なんて感じたものだ。
それからしばらくして、早瀬さんに怒られてしまった訳だけど。
あの時は焦った、ファンクラブの会長さんはああ言ってたけど、思いっきり事情を知ってたからもう内心では謝りっぱなしだ。
実は2人が言い合いをしている後、私は個人的に気になって彼の事を調べてしまった。
今となっては本当に申し訳ないと思っている。
教授に言って彼の取っている講義を聞いたり、家の人脈を使って噂を当たってみたり。
まぁ結局分かったのは彼が至って真面目な青年だと言うこと。
それから彼の日課が私と同じ早朝ランニングだと言うこと。
本当か調べたくてランニングコースや時間を調整してみたりした結果、本当に走っていた。
そんな日々が続いて、私の中で彼に謝らなければという気持ちが強くなった。
それで昨日、勇気をだしてランニング中の彼に話しかけようとしたのだが、目が合ったことに驚いているうちに逃げられてしまった。
今日こそ謝って仲良くなれたら、一緒にランニングとかトレーニングをしてみたい。
そんなことを考えながらいつものコースを走る、しかし残念ながら彼と会うことは出来なかった。
ランニングを辞めてしまったのかとも思ったが彼に限ってそういう事は無いだろう。
なら、昨日の一件でコースを変えてしまったのかもしれない。
それから私はまた毎日ランニングコースを変えてみた、しかし残念ながら彼に会うことは出来なかった。
痺れを切らして大学で話しかけようかとも思ったけれど、私が話しかけることで彼が要らぬいざこざに巻き込まれてしまうかもしれないと思うと、話しかけることが出来なかった。
「いや私は彼のストーカーか!」
そんな声が自分の部屋に虚しく響く。
今までの自分の行動を振り返って途端に恥ずかしくなってしまった。
まぁでも、明日の日曜日は予定が入っている。
彼を探すのは中止するしかない。
新しくクランに入る冒険者のテストを頼まれている。
それなりに強いらしく、16階層でテストして欲しいそうで付き添いとして呼ばれたのだ。
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「いやぁ、まさか漆原さんに見て貰えるとは、光栄だな」
ただ単に皆忙しくて16階層に付き添えるのが学生の私くらいしかいなかっただけなのだが、そうとは知らないテスト生は無駄に誇らしそうにしていた。
「早く済ませましょうか」
正直冒険者の実力なんてステータスで大体判断できる、残念ながらこのテスト生は落第だ。
私が呼ばれたのはこの調子の乗ったテスト生に、16階層の厳しさを教える為でもあるのだろうと勝手に思っている。
16階層には直接行けないため転移陣を使って15階層まで降りる。
最初のT字路を曲がった先、浅い呼吸音が聞こえた。
警戒して角から覗くと、そこに彼が倒れていた。
それも相当重症、今持っているポーションでは治せそうにないほどだ。
急いで彼に近づき状態を確認する。
一番酷い怪我は左腕、骨も血管をぐちゃぐちゃ、下手に下位のポーションを使うと後遺症が残るかもしれない。
勝手に覚えた情もあり、彼には冒険者を続けて欲しいと思っている。
私は彼を抱き抱えると、転移陣へと向かった。
「ちょっと、俺のテスト中だろ!」
後ろからそんな声が聞こえてくる。
「すみません、緊急事態ですのでテストは中止です」
「はぁ?巫山戯んな!そいつ知ってるぞ、レベル上限1のクソザコだろ?ここで倒れてんのも自業自得だ、将来有望な俺のテストの方が重要だろ!」
テスト生の言い分に少しイラッとする。
どう考えても怪我人が優先だ、それに有望さを言うならレベル上限1にも関わらずこの短期間で15階層まで降りてきている、彼の方がどう考えても有望だ。
「現時点を持ってあなたは失格とします、そもそも実力も伴っていませんので。それでは」
手短に伝え、私は走り出した。
読んで頂きありがとうございます。
やっとヒロインが来ましたよ!
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