第2話 最底辺のステータス
ついにこの日が来た。
俺が物心着いた時には日常の一環として受け入れていた。
ほんの50年前まではゲームや漫画の中にしか存在しなかった。
近代史の勉強で習ったことだが、50年前は石油とかいうものを使っていて、今では考えられないほどの不便な生活をしていたらしい。
どんな生活だったのか、俺には全く想像できない、ダンジョンの無い世界なんて。
…………
今日から夏休み。
そして俺は、18歳の誕生日を迎えた。
「いってきます!」
足早に準備を済ませると、俺は玄関を飛び出した。
「ちょっと源、あんたこんな朝っぱらからどこ行くのよ!もう」
母親の声にも耳を傾けず、俺は走り出す。
もう誰も俺を止めることは出来ない!
小さい頃からの憧れ、なりたい職業ランキング30年連続第1位。
『冒険者』
親の許可と実力者の斡旋があればその限りでは無いが、基本的に18歳未満の登録は出来ない。
俺の親は残念ながら許可を出してはくれなかったし、もし出してくれたとしても、斡旋してくれる実力者がいない以上、この誕生日を待つしか無かった。
「うお!!!俺は冒険者に!なる!!」
テンションが上がり、俺は町中なのを忘れてその場で飛び上がる。
朝早く散歩しているおじいさんに訝しげに見られ、おばあさんには微笑ましそうに笑いかけられてしまった。
恥ずかしくなり俺は挨拶だけしてその場からそそくさと退散する。
「テンション上がりすぎて、はしゃぎ過ぎた、けどやっとなれるんだ、冒険者に」
とは言え冒険者になる為にはまずはステータスを得ないと行けない。
ステータスを得られるかは運次第と言われているが、
体を鍛えている人やスポーツ選手は得やすいと言う情報もある。
俺はその為に毎日欠かさずトレーニングをしてきた。
これでも人よりは体力も筋力もあるつもりだ。
少なくとも、高校の体力テストではオールAを取っている。
そんなことを考えていると、冒険者ギルドに到着する。
その権威を示しているかのごとく巨大なビルを前に、少しだけ足が竦む。
ステータスが得られなければ、これまでの努力が水泡に帰すのだから、緊張するなと言う方が難しい。
意を決して、冒険者ギルドの自動ドアを潜り、窓口に進む。
「おはようございます、冒険者登録に来ました!よろしくお願いします」
受付でそう言うと、精一杯丁寧にお辞儀をする。
「冒険者登録ですね、ではあちらの端末で受付をお願いします。頑張ってください」
窓口の少し手前にある端末を指して、職員のお姉さんがにこりと微笑む。
「はい、ありがとうございます」
緊張でガチガチになりながら端末へと向かい、指示に従って受付を済ませる。
ポケットに入れてあったスマホが揺れる、画面には受付番号が表示されていた。
椅子に座って待っている間、中央にある巨大なモニターが目に入る。
そこに書かれているのは冒険者ランキング、強さやダンジョンでの総獲得金額等で決まっているらしい。
その1番上に表記された名前。
漆原 冴
同じ高校3年生にも関わらず、16歳で冒険者デビュー、たった2年でレベル99に到達した、本物の化け物。
「同年代なのに随分の差があるよな、でも俺だって」
拳を強く握り締め、俺は決意を固める。
待つこと15分。
「「38番でお待ちの方、13番の窓口へお越しください」」
俺の番号が呼ばれた。
ついにステータスが決まる。
そう思うと喉がカラカラに乾き、手が震える。
何とか自分を落ち着かせて窓口まで進む。
「冒険者登録ですね、ではこちらの機械に触れてください、もしステータスが得られれば画面が浮かび上がります」
最初に案内してくれた職員とは、別の眼鏡をかけた畏まった男性職員が、水晶にも機械のようにも見える不思議な玉をこちらに差し出す。
「はい!」
俺は返事をすると機械に手をかざす。
すると機械から画面が浮き上がる。
これでステータスは獲得できた、一安心して俺は自分のステータスを確認する。
レベル 1/1
HP 13/13
MP 1/1
STR(筋力) : 11
VIT(体力) : 14
AGI(素早さ) : 12
DEX(器用さ) : 10
INT(賢さ) : 15
LUK(幸運) : 9
経験値0/1
スキル : なし
頭が真っ白になる。
初期ステータスは10で凡人、18を超えていれば天才、20を超えれば化け物と呼ばれる。
つまり俺のステータスは平凡も平凡、VITとINTは少し高めだが、驚くほどでは無い。しかもLUKは記憶が正しければ、平均45程度、最低でも15だったはず。
何よりも
「うわ、レベル上限1って……」
職員がぼそりと呟く。
「失礼しました、冒険者証を発行しますので、番号が呼ばれるまでお待ちください」
その後のことはあまり覚えていない。
もう一度番号が呼ばれ、冒険者証を受け取り、簡単な説明を受け、最後に。
「これで登録は完了です、ダンジョンに入れるようになるのは高校卒業後になります。機会がありましたらダンジョンの受付に冒険者証を提示してください」
無いと思いますが
実際には言われた訳では無いが、俺にははっきりとそう聞こえた。
気づくと俺は自分のベッドの上にいた。
枕が濡れていて気色悪い、その気色悪さと手元の冒険者証が、現実を突きつけてくる。
ステータスは得られた、しかしレベルの上がらない冒険者に未来は無い。
レベル上限の最大は99、冒険者として活躍するなら40は必要だと言われている。最低でも20、それでやっと日銭が稼げる程度。
レベル上限1で冒険者を名乗ろうなんて、笑い話にもならない。
それから夏休みの半分が過ぎた。
習慣ってのは恐ろしいもので、こんな状況でも日々の筋トレは続けていた。
……もう意味は無いのに。
「……意味が無いかは、これからの行動次第だろ」
気持ちを切り替えるのに10日以上かかってしまった。
ステータスはついた、確かにクソみたいなステータスだが、レベル20以上必要ってのも一般的な話だ。
レベル1で冒険者、普通に考えれば頭おかしいが、誰だって最初はレベル1だ。
ステータスだって、STRは筋トレで、AGIの無さは知識による先読みで、DEXは反復練習で、INTは人一倍勉強して、VITとLUKは根性と泥臭さで補えばいい。
ステータスがついた高校生はダンジョンに入れない間、現役の冒険者に訓練を付けてもらうのが一般的だ。
「まずは師匠を見つけるところからだ」
幸いなことに、まだ夏休みは半分も残っている。
師匠さえ見つかれば何とかなるかもしれない。
そう思い、俺は冒険者ギルドへ向かうことにした。
△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼
足が重い、この扉の先で絶望を味わったのだから当然と言えば当然だ。
それでも俺は冒険者ギルドへ足を踏み入れた。
結果から言えば、世の中そんなに甘く無い。
『ステータス見せてみろよ、うわっ』
『お前には無理だよ、冒険者は諦めるんだな』
『覚えてるぞ、お前レベル上限1の奴だろ、帰りな』
『暇じゃねぇんだ、冷やかしてんじゃねぇよ』
10人程に声をかけて見たが、皆反応は似たようなものだった。
レベル上限1という事が分かると、それだけであしらわれてしまう。
当たり前と言えば当たり前だ、冒険者も暇では無い。
未来の無い若者にかける時間などありはしない。
「よう、お前だろ?レベル上限1の癖に師匠を探してるってのは」
へらへらと笑う胡散臭い男が話しかけてきた。
金色の髪をオールバックにし、サングラスをかけている。
「ええっと、はい」
警戒していると、男はさらにニヤニヤと笑みを浮かべる。
「まぁ、そう警戒しなさんな、いい事教えてやろうと思ってよ」
男はしれっと横に座ると、ニヤニヤと笑いながらメモを渡してくる。
「この住所に行ってみな、冒険者ランキング第3位 狂拳士の住処だ。あの人は変わりもんだからな、お前みたいな奴でも弟子にしてくれるだろうよ」
そう言ってメモを俺に押し付けると、まるで面倒事が済んだとばかりに、立ち上がって伸びをする。
「まぁ、後はお前次第だ。必要なのは負けん気と根性、死にそうでも逃げない事。それさえ出来れば、冒険者としての道が見えてくるかもな」
男はヒラヒラと手を振ってどこかへ去っていく。
余りの怪しさに、その場でスマホを開き検索してみる。
「普通にMAPに乗ってるのかよ」
天明道場 師範 天明 杏香
読んで頂きありがとうございます。
面白いと思った方、
いいね、ブックマーク等、評価をよろしくお願いします。




