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第17話 最悪に近い状況

「……おんな…のこ?」


 俺は困惑から一瞬警戒が疎かになる、それを見逃してはくれなかった。


 獣の姿をした女の子?が飛びかかって来る。


 速い!


 俺は咄嗟に急所を守る。


 しかし狙いが違うと分かった時にはもう遅かった。


 飛び掛る勢いのまま走り去るそれが咥えているのは、紛うことなき()()()()……。


 って!それはヤバいだろ!


 手に持っていたナイフ以外の荷物はほぼ全て鞄の中だ。


 実質的な生命線と言って良い、たがまさかそれを盗むモンスターがいるなどということは想定外だった。


 慌てて追いかけるが四足で走るそれの動きは速く、徐々に差は広がっていく。


 このままだと巻かれる、そう思った俺は咄嗟に手を伸ばしスキルを発動させる。


 現時点で速度の差はそこまで無いのなら、レベルを下げれば追いつけるはずだ。


 だが速度は変わらず、無情にも距離は開いていく。


 もしかしてスキルの射程距離でもあるのか?


 女の子?は薄暗い道も罠を発動させることなく駆け抜けていく。


 俺の方はそんな訳にも行かず、いくつもの罠に遮られ最早目視も難しい距離、何度目かの角を曲がった頃には完全にその姿を見失っていた。


「嘘だろ……」


 俺は愕然とする。


 14階層にてアイテムを奪われ、走り回ったせいで現在地不明……。


 やべぇ、どう考えても今の状況は最悪に近い。


 辛うじてで救いがあるとすれば、ナイフだけでも手元にあると言うことだろう。


 あまりの事に混乱する頭をどうにか落ち着かせ、今の状況を整理する。


 ダンジョン14階層にて謎の生物に鞄を奪われ持ち物はナイフのみ。


 そんな俺が取れる選択肢は大きく分けて3つ。


 他の冒険者と合流するか、上を目指すか、下を目指すか。


 アイテムの無いお荷物を抱えて一緒に帰還してくれる聖人君子が居てくれればいいが、下手をすれば殺される。


 ダンジョン内で起きる事件が外に漏れることはまず無い。


 表向きギルドにいい顔をしていても、悪い事をしている冒険者ってのは意外といるらしい。


 俺の運から考えてもそう言う輩に出くわす確率は低く無い。


 とすると選択肢は実質2つ。


 上か、下か。


 上を目指す場合は2日かけて降りてきた場所を物資が無い状態で戻ることになる。


 とは言っても知っている道を戻るのだから気は楽だろう。


 物資の不安は拭いきれないが、それでの2,3日くらいなら飲まず食わずでも何とかなるはずだ。


 下を目指す場合、探索は必須だが転移陣さえ見つかれば直ぐにでも帰れる可能性がある。


 幸いにもモンスターは倒せる強さ、なら先に階段が見つかった方くらいの決め方でも良いかもしれない。


 そうと決まれば動こう、体力がある内に出来るだけ探索をしてしまおう。



 △ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼



 いつも以上に警戒しながら進む。


 回復薬が無い以上はダメージを負えば間近に死が見えてくる。


 残念ながらこのダンジョンは飯になる物も回復薬もドロップしない、そもそも俺のドロップ率ではダンジョン内で物資を確保するのは不可能だろう。


 無いと思うと不安感が増していく、ちょっとした窪みが怪しく見える。


 息が浅くなり汗が首筋を伝う。


 ほんの少し前まで楽観的に捉えていたが、実際今の状況は非常に不味い。


 後ろから微かな物音が聞こえた気がして咄嗟に振り向く。


 しかしそこには何もいない、そんな事が何度か続けば苛立ちも増していく。


 あの女の子に対してか、いや違う。


 あれが何かは分からないがダンジョン内でイレギュラーは付き物だ。

 探索が上手く行き過ぎていて俺は間違いなく油断していた。


 師匠の元で修行していた頃には考えられないミス、自分の不甲斐なさに苛立ちを覚える。


「落ち着け俺、反省はダンジョンを出てからいくらでもすればいい、今はまずここから出る事に集中だ」


 深呼吸し心を沈め、慎重に歩みを進める。


 先に見つけたのは下へ降りる階段だった。


「……行くしか無いか」


 気を張り続けるのがこれ程キツいとは思わなかった。


 先に見つかったのが下への階段で良かったかもしれない。

 正直今から4階層も移動できるほどの体力があるとは思えない。


 時間の感覚も無くなってきている。


 この階段を見つけるのにどれ位の時間がかかっただろうか。


 階段が見つかった事で緊張の糸が緩んだのか、先程まで感じなかった空腹感が襲ってくる。


 1度意識してしまうとそれは徐々に強くなり、不快感へと変わっていく。


 モンスターから肉でもドロップしてくれれば、俺は階段に座り込み項垂れる。


 残念ながらこのダンジョンでドロップするのはほとんどが魔石、稀に落ちるものとしてモンスターのつけている武具なんてのがあるらしいが、魔石と比べると価値がなくハズレとされている。


 魔石が1番売れるのだからこのダンジョンは普段なら優良ダンジョンだ、しかし今の状況ではそれが逆に怨めしい。


 このダンジョンは食べ物が手に入らない。


 そう言えば、あの女の子は何を食べて生きているのだろう、ふとそんな事が脳裏に過ぎる。


 ぶっ飛ばした時に物凄く軽かったのは、食べるものがなくて痩せていたからなのか?


 なら定期的に冒険者から物を奪って食べている?


 いや考え過ぎか、よく考えたらモンスターは基本的に何も食べない。


 ダンジョン内のモンスターの生態はよく分かっていないが、食事はしないと言うのが一般的な見解だ。


「先へ進もう」


 空腹を押し殺して立ち上がる。


 少しでも早く転移陣が見つかる事を祈りながら、俺はゆっくりと階段を降りてゆく。

読んで頂きありがとうございます。

空腹空腹言ってると本当にお腹が空いてくるな…。


良かったら、

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