第16話 最高に訳が分からない
「せあッ!」
首筋に一閃、ナイフを切りつけた猿鬼が光の粒子になって消えていく。
13階層への階段はすぐに見つかり幸先の良いスタートをきれたのだが、今日は昨日と違い少し探索するだけでモンスターと遭遇し思うように進めない。
「中層のモンスターはやっぱり強いな」
猿鬼から落ちたレベル1の魔石を拾い溜息を着く。
中層の敵はやはり上層とは格が違うようで、スキルを使ってレベルを下げなければ倒すことが出来なかった。
中層クラスの魔石が手に入らないとなると、本格的に金策を考えないとまずい。
まぁ、どの道俺の運では殆ど魔石は落ちない、最初から魔石での金策には限界があると言う事は分かっていた。
それに良いことも分かった。
レベル1にさえしてしまえば、中層とは言え15階層までのモンスターに苦戦することは無いという事だ。
中層は基本的に5階層ごとに難易度は増していき、モンスターや罠の傾向も変わる。
15階層までの5階層はモンスターが強いだけで罠もそこまで無いらしい。
因みに光亮さん情報だ。
つまりモンスターからの奇襲にさえ気をつければ、今回の探索にそこまでの危険は無い。
16階層からはまた難易度が上がる、21階層以降ともなれば異常な難易度らしい。
何せ現在最高到達階層である22階層への階段を、1人の天才が現れるまでの約10年間、誰1人見つけ出すことが出来なかった程だ。
そんな化け物に追いつこうと言うのだから、こんな所で躓く訳には行かない。
「気合い入れて進むぞ」
俺は昨日までの不安感やら何やらを吹き飛ばすようにあえて声に出して言う。
月曜日からは講義がある。念の為月曜日もそこまで重要な講義は受講していないが、出なくてもいい授業という訳でもない。
無理する程では無いが出来れば今日中に14階層の探索は終えてしまいたい。
まずは14階層に降りないと話にならないが。
そうして慎重に、しかし大胆にダンジョン内を進んでいく。
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曲がり角の先、14階層への階段を見つけた。
しかしその手前には2匹の猿鬼が彷徨いている。
猿鬼複数との戦闘は初、不安要素が無い訳では無い。
無難にやり過ごすか……。
いや、こんな所でそんな考えでは先は無い。
俺はゆっくり呼吸を整えると一気に走って猿鬼との間合いを詰める。
奇襲に驚いている猿鬼の一体に手を向けレベルを1にしそのままナイフで首を掻き切る。
よし!まず一体!
そう思った瞬間、粒子になって消えていく猿鬼の腹から、蹴りが飛んでくる。
咄嗟に十字ガードをするがかなりの衝撃で体が宙に浮く。
最初から仲間ごと俺を蹴り飛ばすつもりでなければあの速さで蹴りは飛んでこない。
別にモンスターに仲間意識云々言うつもりは無いが何となく腹が立つ。
着地を狙ってくるパンチを掴みカウンターの蹴りを入れる。
怯んだ猿鬼に手を翳しレベルを下げその首にナイフを突き立てた。
周囲に敵がいないかを確認し俺は息をつく。
ズキンッ。
腕に痛みが走る。
戦闘中はアドレナリンが回っていて気づかなかったがどうやらヒビが入っているようだ。
俺は少し迷ったが傷を治すことにした。
迷宮探索はできる限りこう言う不快感は放置しない方が良い。
ポシェットの中からタブレットを1粒取り出し飲み込む。
しばらくして腕の痛みが引いていく。
最近発売された回復タブレット、荷物を少なくしたい冒険者にオススメの回復薬を凝縮したタブレットだ。
正直ビンを持ち運ぶのは辛いので超ありがたいのだが、お値段は何と同じ効力の回復薬の5倍もする。
ちなみに舌の上で転がすと、より回復の効力が高まるそうなのだがオススメはしない。
理由はただ1つ、死ぬほど苦いからだ。
しかしあれだな、やはりスキルを使う前に攻撃されるとかなり辛い。
複数匹いる時はどうしてもスキルを使うまでにラグが生じる。
出来れば同時に掛けれるといいんだが、ってそうだよ!
自分の馬鹿さ加減に頭抱える。
東御ダンジョンで1vs1に慣れすぎてその発想が完全に抜けていた。
同時にかければ良いだけの話じゃねぇか!
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2体の猿鬼が光の粒子になって消えていく。
このスキルの使い方は完全に理解した。
複数体をきちんと認識してスキルを使う。
これが出来ることが分かってから、俺は14階層で無双している。
最早怖いものは無い、レベル1の猿鬼が何体いようと恐るるに足らず。
意気揚々と1歩踏みだす。
カチッ
ヒュンッ
嫌な音がした瞬間、風切り音と共に目と鼻の先を何かが通過する。
壁を見るを矢が刺さっていた。
油断は良くない、絶対にだ。
今の罠で自分が浮かれていたことを思い知る、俺が踏んだスイッチはよく見れば分かる程度には他の床と違いがあった。
俺は気合いを入れ直して進もうとするが、ふと光亮さんの授業を思い出す。
確かこう言う分かり易いトラップの近くには、俺は目を凝らすと少し先に細い糸が張ってある。
丁度俺が踏んだスイッチを避けて踏み出すと発動しそうな嫌らしい位置だ。
俺は糸を飛び越えて先へと進んだ。
しばらく進んだ先、俺は微かな揺れを感じその場で警戒態勢をとる。
しばらく辺りを警戒するが特に異変は無い、何だったのか?
ふと背後に気配を感じ俺は身を翻す。
警戒態勢で無ければ気付けなかったであろうほど微かな気配。
振り向いた瞬間、目の前に白色の何かが飛びかかってくる。
咄嗟にそれを手で受け流すが思ったよりも重量が無く天井付近まで投げ飛ばしてしまう。
間合いからは外れたが得体の知れない物に自分から近づく訳にも行かず、俺はその白い何かを目で追いながらナイフを構える。
それは器用に天井を蹴り着地すると、警戒したように体勢を低くしている。
俺はその訳の分からない何かを見て困惑する。
「……おんな…のこ?」
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