第15話 最悪の前の静けさ
「なんじゃこりゃ」
突然だが俺にはお金が無い。
高校の後半から師匠の所で修行を初め、大学に入ってからも、まだ1ヶ月経っていないくらい。
上層にいる小鬼をちまちまと倒して得た小さな魔石程度ではさほどお金にもならない。
東御ダンジョンでの魔石も少しはあったのだが、強いはずの魔物のレベル1の魔石、なんて言う不思議な物をその辺で売る訳にもいかず、その扱いを師匠に一任していた。
その為上層のマップですら買えず、それなりの実力はあってもまだ中層に行けずにいたのだが……。
『預かってたレベル1の大天狗の魔石だが、それなりの額で売れたから口座に振り込んどいてやったぞ』
と師匠から電話がかかってきたのでATMまで来ていた。
一、十、百、千、万、十万、百万。
3,000万円ほど振り込まれていた。
俺は夢でも見てるのか?
師匠から聞いてはいたが、実際に見ても目を疑いたくなる。
通常の大天狗の魔石は凡そ1,000万円で取引されているなのだが、その3倍とか意味がわからない。
一応理由としては、世界に一つだけしかないと言う希少性と、とある魔導具開発者が欲しがった事で値がつり上がったらしい。
希少性とか物は言いようだな。
エネルギー量だけ見たらゴブリンの魔石よりも低いのに。
後で詐欺だと訴えられなければ良いが。
とは言えありがたい臨時収入。
これだけの金があれば中層までの地図は買うことができる。
地図さえあれば上層なんてのは距離があるだけでただの散歩と変わらない。
その距離に関しても、何階層か毎にある転移陣をアクティベートして行けばそれ程問題にはならない。
だが中層からはそうはいかない。
強力な罠も増えてくるし、モンスターの厄介さも上層とは比べ物にならない。
広さも上層の倍以上に広くなりまだまだ探索がされていない場所も多い。
つまりマップも情報が貴重すぎて殆ど売られていないか、売られていても億は下らない。
因みに渋谷ダンジョンは10階層までを上層と呼び、それ以降を中層、現時点で最高到達階層は22階層、未だに下層は発見されていないらしい。
中層探索には転移陣を使わずに帰れる帰還石も必要になってくるが、マップとそれを買ったらこのお金も殆ど無くなってしまうだろう。
高いからと帰還石を買わない冒険者も居るらしいが、中層以降は必須と言ってよく、帰還石を買えるだけの実力があるかという意味で、中層を探索出来るかの試金石としても見られがちだ。
因みに値段は大体500万円程度、俺の探索済みの3階層までを除いた上層のマップが大体2,300万円程。
残った金で他の装備を整えるとして。
この金を全て使えば中層に乗り込めるが、果たしてこんなぽっと湧いてでた泡銭を使って中層に行っていいものか。
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「まぁ、行かない選択肢の方が無いよな」
もう見慣れた苔むした煉瓦造りの道、しかし1階層変わるだけでなんだか空気が重い気がする。
結局殆ど迷うことなく地図と帰還石を購入し、1週間程で一気に上層を攻略。
殆ど講義を入れていない金曜日と、休日である土日を使い中層の探索をすることにした。
「それにしても所々暗かったりして何かマジで不気味だな」
3m程ある広めの道は上層と変わらず、天井から謎の暖色系の光が放っているからそれなりに明るいのだが、少し脇道に逸れるだけで薄暗くなり、懐中電灯で照らさなければ数m先も殆ど見えない。
そういう場所にはトラップも多く、俺の様なソロの冒険者はあっさり死んでしまうことがある。
準備はしてきたがいざ足を踏み入れると息が詰まる。
とは言え突っ立っていても仕方ない、慎重に進もう。
念の為に腰のシースからナイフを抜き取り、状態を確認しつつ直ぐに取り出せるように装備し直す。
上層ではほとんど使わない為、適当につけていた懐中電灯もホルスターに付け直し位置を確認する。
恐る恐る前へと進む。
出来れば初日は中層に慣れつつ、今回の探索で次の転移陣をアクティベートしておきたい。
今まで転移陣があった階層は、3、7、11階層。
前回の探索で、中層の転移陣を直ぐに見つけられたおかげで、今回初日から中層に挑める。
おそらく次の転移陣は15階層辺り、今日中に12階層に到達してセーフルームを見つけるのが目標だ。
まずは明るめの道を探索しつつ中層のモンスターと戦いたい所だ。
11階層にいるモンスターは猿鬼、小鬼の上位種だと言われている角の着いた猿だ。
力は強いが大天狗ほどでは無い、大きさも小鬼とそう変わらないのでまず負ける要素は無い。
1時間程歩き回り、運良く12階層への階段を見つけることが出来た。
階段近くにはあまりモンスターは現れないのでそこで少し休憩を取る。
その後12階層を探索、だが俺は違和感を感じていた。
モンスターに遭遇しないのだ。
11階層探索から12階層の探索にかけて、もうかれこれ休憩を挟みながら6時間。
普通に考えても有り得ない、どうも俺の運の悪さが嫌な方向に向かっている気がする。
そこから更に3時間、やはりモンスターとは遭遇せず、セーフルームを見つけることがは出来たのだが嫌な予感は増していく。
引き返すべきだろうか、あまりにも不自然過ぎる。
近くに他の冒険者がいる場合は狩り尽くされているということもあるが、それでも戦闘音くらいは聞こえてくるものだ。
まぁ、何をするにしても今日は休んで明日に備えるべきだな。
一応は計画通りに進んでいるんだ、初めての中層で警戒し過ぎてるだけかもしれない。
俺は味気ない携帯食料を腹に詰め込み、さっさと寝ることにした。
明日のことは明日考えよう。
読んで頂きありがとうございます。
源志くんにしては運が良すぎる?
何やらおかしな事が起こりそうな予感。
良かったら、
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