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第13話 最大値って凄過ぎる

 子供の笑い声にも聞こえる音を鳴らし、虫食いの林檎の様になった歯を剥き出しにしてくる。


 その音を聞いていると何となく心がざわつくのを感じ、ゆっくりと深呼吸をする。


「なるほど、これが渋谷ダンジョン名物、小鬼(しょうき)の鳴き声か」


 目の前には体長1m程の鬼が3匹、まるでこちらを煽るように奇妙な動きをしている。


 ちなみにこいつらは小鬼であってゴブリンでは無い。


 よく混同されがちだが、いくつかの違いがある。


 その特徴の一つがこの鳴き声、人の心を惑わし神経を逆撫でする。


 普通のゴブリンだと思って戦っていると、怒りの感情に支配され思わぬ事態を招くことになる。


 渋谷ダンジョンで最も有名な初心者殺しだ。


 逆に言えばそれさえ気をつければ、ただのゴブリンと何ら変わらない。


 むしろこいつらは武器を使わない分、弱いまである。


「悪いがこんな上層の敵に手間取ってられないんでね、さっさと倒させて貰うぜ」


 ナイフを構えると同時に、1匹の小鬼が飛び掛ってくる。


 硬質化し歪んだ爪が振り下ろされるが、威力も無ければスピードも無い。


 最小限の動きだけで避け、瞳にナイフを突き立てる。


「まずは1匹」


 光の粒子になって消え去ると、小指の爪程の小さな魔石が床に落ちる。


 仲間がやられて怒ったのか、残りの2匹も飛び掛ってくる。


 ともすれば単調な攻撃、薙ぎ払うように同時に蹴り飛ばし、ナイフでとどめを刺す。


 残念ながらドロップはしなかったようだ。


「こんなものかな」


 戦闘を終えナイフをしまうと、後ろから控えめな拍手の音が聞こえてくる。


 即座に振り向き飛び退きながら、音の正体について思考をめぐらせる。


 上層にいるモンスターの中でこんな音を出すやつはいただろうか。


 警戒しながら目を向けた先に居たのは、早瀬(はやせ)さんだった。


「凄いね、モンスターをあんなに簡単に倒しちゃうなんて」


 肩透かしを食らった俺は警戒をとく。


「まぁ、これくらいの敵ならな」


「強いんだろうなとは思ってたけど、びっくりしちゃった」


「びっくりって言うなら、早瀬さんが東冒大にいた事の方がびっくりしたよ」


 そう、卒業式の日に早瀬さんの言っていた、すぐ会えると言うのは本当だった。


「サプライズ成功かな?」


 悪戯っぽく微笑む早瀬さんに少しドキッとする。


 いつもの大人しめのファッションもよく似合っているが、スチームパンク感のあるオシャレな戦闘服がダンジョンに映える。


「ここで立ち話も何だし、セーフゾーンまで一緒に行かないか?」


 ダンジョンは危険な場所、あまり立ち話をしているとモンスターに襲われかねない。


 セーフゾーンはそんなダンジョンに存在する、モンスターが湧かない不思議な広場の総称だ。


「それなら私が案内するよ、まだレベルは高くないけど敵意感知とマッピングが使えるから」


 敵の居場所が分かる敵意感知に、自分の歩いた道を記憶出来るマッピング。


 どちらもダンジョン探索時に1人はいて欲しい、超有用スキルだ。


「それは頼もしいな、前衛は任せてくれ」


 装備を見る限り早瀬さんはサポート系の様だし、少しばかり格好つけさせてもらおう。


「ありがとう、頼りにしてるね」


 こうも直接的に言葉にされるとむず痒いな。

 いかん、ダンジョン内では集中しなければ、そう思っていたのだが。


等々力(とどろき)くん、そこの角を曲ってすぐ、1匹隠れてる」


「了解」


 いると信じてそこに殴り掛かる。

 意表をつかれた小鬼はノーガードのまま吹っ飛ばされ、そのまま光の粒子になって消えていく。


「残念、またドロップはしなかったか。それにしても早瀬さんの探知力が凄すぎて探索が楽すぎる」


 ここまで来る間に3度敵と遭遇したのだが、その全てをかなり遠くから察知している。

 もう俺は早瀬さんの事を信じて身を任せているだけだ。


「でも油断はしないでね?罠感知は出来ないから」


 早瀬さんの言う通りダンジョンは危険な場所だ、いくらモンスターの居場所が分かるからと言っても気は引き締めておかないとな。


『もしかして、等々力くんの幸運値って凄く低いのかな。さっきからあんまりドロップしてないけど』


「あぁ悪い、先に言っておけば良かったな。俺の幸運は9しか無いんだよ」


 痛い所をつかれて鼻を掻く。

 ドロップ率は幸運値に比例しているらしく、実際感覚的に20体くらい倒すと1回ドロップすると言った具合だ。


「口に出すつもりは無かったんだけど、ごめんなさい、気を悪くさせたよね」


 ハッとした表情をして口を手で覆うと、早瀬さんは申し訳なさそうに頭を下げる。

 むしろ謝りたいのはこっちなのだが。


「気にしないで早瀬さん、これだけドロップしないと言いたくもなるよな」


 申し訳なさ過ぎて慌ててフォローを入れる。

 本当に気にしなくて良いのだがどうしたものか。


「そうだ、それならラストアタックを早瀬さんに任せてもいいかな?」


 俺が相手の注意を引き付け早瀬さんに倒してもらえば、今よりも間違いなくドロップ率は良くなるだろう。


「任せて!私頑張るから」


 てかあれ?これ俺いるか?

 まぁ、早瀬さんが元気になったなら良いか。


 そうして探索を続けた結果。


「早瀬さんってもしかしてめちゃくちゃ幸運高かったりする?」


 その後の戦闘は俺がスタンを取り、早瀬さんの魔導ガジェットでとどめを刺すと言う形になったのだが、これが嵌りまくり結局今日1日一緒に探索することになった。


 その間に倒した敵の殆どからドロップしていたのだから相当だ。


「実は、幸運値は90あるんだ」


 俺の10倍!と言うか最高値じゃん!これはマジで申し訳なさすぎる。

 俺が倒した敵のドロップも早瀬さんならしていたという事だ。


 道理であの武器が使えるわけだ。


 魔導ガジェットは魔石を消費して魔力弾を打ち出す武器だ。


 魔石さえあれば攻撃し続けられ威力もそこそこ高い、初心者にも扱いやすく狙いも定めやすいし、何より遠距離武器の中で断トツに安い!


 カタログスペックは最高なのだが問題がある。


 まずさっきも言ったが幸運値によってドロップ率は決まるから、魔石は毎回落ちる訳じゃ無い。


 さらに基本的に魔石はお金になるから、1個消費して1個ゲットしていては割に合わない。


 小鬼の魔石で5発程度撃てて、倒すのに3発直撃させなければならない。


 プラスにするのは至難の業だ。


「それじゃ、今日分の魔石は半分ずつってことで良いかな?」


 早瀬さんがそう提案してくれる、二人で探索すれば報酬の話になるのは当たり前だ、しかし。


「良いわけないだろ、俺殆ど何にもしてないし、俺のドロップ率からすると1つでも貰えたらいい方だぞ」


 どう考えても貰い過ぎだ、流石にこれに甘える訳には行かない。


「等々力くんが敵を引き付けて弱らせてくれたから、私が一撃で倒せたんだよ?だからこの魔石はきっちり等分に分けます」


 まぁ確かに、もし早瀬さんが1人で倒していた場合の魔石の使用量を考えると、多少は俺も貰う権利はあるかもしれない。


「だからって半分は貰い過ぎだ、そもそも早瀬の武器のことを考えれば、魔石は多いに越したことは無いだろ」


「ならまた次も手伝ってよ、実際居てくれると助かるんだよ?」


「それは俺からお願いしたいくらいだけど、それとこれとは別だろ」


「良いから、そんなに気にするなら今度なにか奢ってよ、それで決まりね」


 そう言って魔石の半分を俺に押し付けると、はにかみながら手を振って、その場から走って行ってしまう。


 意外と強引だな、仕方ない次の機会までにどこか美味しい店でも探しておくか。

読んで頂きありがとうございます。

早瀬さん!

今回は怒涛の早瀬さんでございます!


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