第11話 最短ルート
「それで?一応言い分を聞いてやるよ」
師匠の前で正座をさせられ、物凄い圧で凄まれる。
ボコボコにされて腫れ上がった顔が痛む。
横で倒れている光亮さんはさっきからピクリとも動かない。
「師匠、言い訳とか言い分はボコボコにする前に聞くものだと思うんですが」
「あ?」
「いえ、なんでもないです」
やだこの人怖すぎるんですけど。
師匠が何に怒っているかと言えば、最下層の大天狗に使った鯖ボールの事だ。
「そこに勝ち筋があるなら、使わない手は無いと思いました」
天狗の弱点は鯖らしい、光亮さん曰く一部地域で信じられていることらしく、もしもの時は使ってみろと言われていた。
「まぁ確かに、その考え方を否定する気はねぇ、勝ち方に拘れなんて言うつもりもねぇよ。だが大天狗は今のお前の力なら勝てる相手だ」
師匠の言わんとする事は分かる、フレイムウルフの時にも怒られたが、東御ダンジョンは修行の場として攻略している意味合いが大きい。
なればこそ実力で勝利することに意味がある。
しかし、俺は自分が勝ち方を選べるほど強くなったとは思えていない。
「アイテムに頼るなとは言わねぇが、アイテムが無くちゃ戦えないような奴にはなるな」
ダンジョンにはイレギュラーが付き物、俺の身軽な戦闘スタイルを維持する為には、持てるアイテムに限りがある。
師匠の言葉はまさにこれからの課題になる。
これからも勝つ為ならアイテムに頼る、それでも極力はこの身で戦える様になろう。
「今日はこの辺にしておいてやる。光亮、てめぇは後で修行の付け直しだ、覚悟しとけ」
その言葉に反応するように光亮さんの肩が微かに揺れる。
どうやら死んだふりをしていたようだ。
死にゆく戦士に敬礼。
「おっと、忘れるとこだった。スキルありきとは言え東御ダンジョン完全攻略者になったわけだ。お前の名を聞いてやる」
師匠の言葉にキョトンとしていると、光亮さんに肩を叩かれる。
そう言えば、もう半年以上一緒に生活しているのに、まだ名乗ったことが無かった。
「えっと、等々力 源志です」
なんか今更感があり過ぎてむず痒い。
てか、よく考えたら冒険者証は見せたことがあるんだから、師匠は俺の名前を知ってるのでは?
「良かったな源志、天明流において師匠が弟子に名乗りを許すのは、その力を認めたって事なんだぜ」
光亮さんにバシバシ肩を叩かれる。
そう言われると、じわじわと心の奥底からなにが湧き上がってくるものを感じる。
自分の名が、妙に誇らしく思えてくる。
「そういや源志、お前最近ダンジョンと修行に明け暮れてたが、入学の準備は出来てんのか?」
おお、なんか師匠に名前を呼ばれるの新鮮すぎてヤバいな。
って、今入学って聞こえたような。
「ええっと、入学ってなんのことですか?」
入学、普通に言えば大学の話だけど、俺は受験も何もしていない。
「言ってなかったか?東京冒険者大学への入学の事だよ」
は?東冒大に入学?嘘だろ??
ああ、もうちょっとこう、名前を呼んで貰えた感動を噛み締める時間というか、そう言うのが欲しかったんですけど!
「聞いてないですよ!東冒大って言ったら、新人冒険者が通いたい大学No.1の超一流大学じゃないですか!そもそも俺受験してないですよ?」
いやもう分かってるよ、師匠は意外とこういう事を言い忘れたり勝手に進める人だって。
トップランカーの師匠が推薦したことで入学が決まったのだろう、けどそういう大事な事はちゃんと伝えておいて欲しい。
「細かい事は良いだろ、入学式までもう1週間切ってんだからよ、ちゃんと準備しとけよ」
ああくそ、東御ダンジョン完全攻略も、師匠に認められた事も、東冒大に入学できることも嬉しいけど!
もっと感動できる時間をくれ!!
俺が頭を抱えている内に師匠はその場を去ってしまう。
「姐さんはああ言う所あるからな」
そんな事を言いながら隣で笑う光亮さんを俺は睨みつける。
いやまぁ、分かってますよ?これだけ一緒に暮らせば師匠にそう言う所があるのは、でももうちょっとこうあるじゃないですか。
そんな俺の無言の圧に光亮さんは苦笑いを浮かべる。
「まぁ真面目な話、師匠が東冒大にお前を入学させる理由は分かってるよな?」
その言葉の意味を少し真面目に考える。
普通に考えれば俺のステータスでは入学出来ない、間違いなく大学内でも相当浮くことになる。
そんな悪環境だと分かっていながらも、師匠が俺にやらせたいこと。
「渋谷ダンジョンですか?」
俺の頭に浮かぶ答えはこれしかない。
「そう、未だ誰も最下層にすら到達していない、人気過ぎて探索制限がかけられることもしばしば、東京のど真ん中にある日本国内最大規模のダンジョン、通称『渋谷大迷宮』その完全攻略」
つまりは日本でも数少ない未踏破ダンジョンの攻略。
東冒大の在学生と卒業生は、トップランカーの次に渋谷ダンジョンへの優先的な探索権が得られる。
「はは、それが出来れば確かに箔が付きそうですね」
大迷宮はその広さが尋常ではない、モンスターの強さ云々よりも次の階層に行く為のマップ把握が尋常じゃなく難しいらしい。
そのせいで正確なマップは高値で取引されていたりもする。
「おいおい、出来ればなんて弱気な発言はいけねぇな。お前は姐さんに認められたんだからよ、東冒大の奴らの度肝を抜いてやれ」
光亮さんに発破をかけられたからと言う訳では無いが、元々東冒大への入学は願ってもない事だ。
俺にしては運が良すぎる気もするが、最上級冒険者への最短ルートと言っても良いこのチャンスを逃す手はない。
「やれるだけの事はやってみます」
読んで頂きありがとうございます。
これにて第1章は終了となります。
次回からは第2章 大迷宮の闇編 へ突入します。
新キャラの登場に今からワクワクしております。
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