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第10話 最下層のBOSS

 まずはゆっくりと深呼吸をする。

 腹を膨らませ、肺に空気が流れ込む。

 血流に乗り酸素が運ばれる。

 その酸素を使いエネルギーを生み出す。

 そのエネルギーを使い筋肉を動かす。


 呼吸は深く、それでいて早く、より多く取り込む。

 その酸素を使う量を増やし、力を維持。


 酸素使用量50パーセント。


「せい!は!そりゃ!……ぶふぇっあっっ」


 渾身の力で師匠に殴り掛かり、そして思いっきりぶん殴られる。

 天明流体術の修行が本格的に始まって3週間、俺は未だに何も掴めずにいた。


「何度言ったら分かるんだ?今のはただ力任せに殴ってるだけだ。呼吸を意識し酸素を意識し力へ変えろ」


 天明流体術の特徴は、


『如何なる時でも疲れを知らず、最大の力でそれを打つ』

 

……何度考えても訳が分からない。


 人間が疲労するメカニズムは、酸素を使わずエネルギーを生み出した結果、体内が酸性の状態になり筋疲労を起こすからだと言われている。


 なら、どんな時でも酸素を使ってエネルギーを得られれば、栄養がある限り疲労しないだろ!

 科学的?に言うとそんな感じの考え方らしい。


 ちょっと何を言ってるのか分からない。

 エネルギーの生み出し方をコントロールするとか出来る分けないだろ。


「師匠!言ってる事が全く分かりません」


 今まで飯を死ぬほど食わされたり、死ぬほどきつい訓練をしたのは、このコントロールを自然に行える様になる為のものでもあったそうなのだが。


「お前、致命的にセンスがねぇな。ここまでの訓練についてこれた奴なら、多少なりとも物にできてるはずなんだがな」


 センスが無いと言われてしまえばそれまでなのだが、正直そんな事が出来るビジョンが全く浮かばない。


「たくっ、今日はここまでだ、明日は最下層に挑戦するんだろ?さっさと休め」


 最下層への挑戦、その言葉に俺は息を飲む。


「何緊張してんだよ。お前は強いよ、ちゃんとな」


 師匠の言葉に心が熱くなるのを感じる。

 俺も中々にチョロいのかな。



 △ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼△ ▼ △ ▼



 今日、俺は最下層へ挑戦する。

 正直フレイムウルフ後はそこまで苦戦する敵はいなかった。

 大半の敵は俺と変わらないか小さいくらいの大きさで、魔法やスキルにさえ気をつけて何度か避ければ、後はどうとでもなったからだ。


 しかし、最下層の敵ともなればそう簡単には行かない。


「遠近感がバグる体格というか、いやでもデカいな」


 20階層に着いてすぐ、広間の真ん中にいつものようにBOSSが佇む。

 その顔は猛禽類のような嘴を持ち、人の子供のような体格、しかしながらその大きさは2メートルを優に超えており、脇からは翼が生えている。

 左手に鋭い剣を携えたそのモンスターの名は、


 ()()()


「神通力を使う厄介なモンスターだが、俺のスキルならそれもあってないようなもの、問題は体格の差だな」


 デカいってのはそれだけで強い。

 何より天狗ともなればそもそものパワーも人より格段に上だ。


 一視同仁(いっしどうじん)を天狗に発動し、ナイフを取り出し構えると、慎重に距離を詰めていく。


 刹那、目の前に大天狗が現れ、その剣を突き立ててくる。


 咄嗟にナイフで軌道をずらすも、あまりの重さに体勢が崩れる。


 崩れた体勢をあえて利用し、転がるようにして内腿目掛けてナイフを走らせる。


 しかし、まるで読んでいたかのように剣で弾くと、俺の腕を目掛けて剣を振るう。


 鈍い音を立て左腕に痛みが走る。

 咄嗟に利き腕を庇いガードした、師匠から支給されている戦闘服のお陰で剣は受け止められたが、どうやらヒビが入ったようだ。


「この程度の痛み、こちとら慣れっ子なんだよ!」


 俺はもう一度ナイフで太腿を切りつける。

 硬い皮膚を切り裂かれ鮮血が流れ出ると、大天狗は後ろに飛び退き不思議そうに首を傾げる。


「自慢の神通力がもう使えなくなって困惑してるってとこか?悪いがこのまま一気に行くぞ」


 追撃の為に直ぐに距離を詰める。

 それを嫌った大天狗が振り下ろす剣を避けながら、腕から脇にかけてナイフを走らせる。


 浅い。


 左腕の痛みからか力が入り切らなかった。

 いくら皮膚が薄い場所を狙っても、動脈に届か無ければ致命傷にはならない。


 超近接戦闘を嫌ってか、大天狗は俺を蹴り飛ばして距離を取ろうとする。


「そんな適当な蹴り、師匠の蹴りを何発も食らってる俺に、効くわけないだろ」


 その蹴りを潜り抜けながら、内腿に深々とナイフを突き立てる。


「これでどうだ!」


 急所に入った、だがそれで怯む大天狗では無かった。

 ナイフを引き抜こうとする前に、筋肉で締め付け固定し、横凪に剣を振り抜いてくる。


 咄嗟にナイフを離し両手でガードする。


 その威力は言わずもがな、思い切り吹き飛ばられ離れた壁に叩きつけられる。


 背中を強打し呼吸がままならない。

 左腕に激痛が走る、どうやら完全に折れた様だ。


 ただの一撃で満身創痍、例えレベル1になろうと大天狗の力は伊達では無いというわけか。


 フラフラと立ち上がろうとする俺に、余裕を見せる大天狗はゆっくりと近づいてくる。


「くそ…………万事休すか」


 何とか呼吸を整えようと深く呼吸をする。

 深く、早く、より多くの酸素を、血を巡らせて身体に行き渡らせる。


 一瞬が長く感じる。

 死が1歩1歩近づいてくる。


 こんな所で負けるのか、こんな所で死ぬのか俺は。


 それにしても遅すぎる、思考が加速している?

 師匠の所で臨死体験をしている時とは、何か違うような。


 大天狗を睨みつける。


 違う!ナイフだ、内腿に深々と刺さったナイフのせいで、あいつも上手く動けないのか。


 何やってんだ俺は、奴に俺の攻撃は届いてるんだ。

 師匠も言ってたろ、俺は強い!ちゃんと!


 ジンジンと体が痛む、俺を奮い立たせるように、体に血液が勢いよく流れるのが分かる。


 俺はポーチの中から取っておきのアイテムを取り出す。

 俺は勝つ、来い!大天狗!


 ゆっくりと大天狗との距離を詰める。


 先に攻撃を仕掛けてきたのは大天狗、大きく振りかぶった剣を思いっきり振り下ろす。


 ボロボロのはずの身体はその攻撃をするりと交わす。

 思った通りに体が動く、俺はまだちゃんと戦える。


 右手を握りしめ、俺はさっき取り出したカプセルを握り潰す。


「食らえ!光亮(こうすけ)さん考案、大天狗対策アイテム、鯖ボール!」


 カプセルの中に凝縮されていた鯖のエキスが大天狗の顔に飛散する。


 途端、剣を投げ飛ばし顔に付着した鯖エキスを全力で拭い取ろうと掻きむしり始める。


 その隙を見逃さない、一気に踏み込み大天狗の腕を掴むと、それを軸に膝裏目掛けて思いっきり蹴りを放つ。


 堪らず膝が落ちる大天狗の内腿からナイフを引き抜き、その目を抉るように上からナイフを振り下ろす。


 深々とナイフが刺さる、それと同時に、大天狗は光の粒子となって霧散する。


 単独による20階層BOSS討伐成功。


 東御(とうみ)ダンジョン完全攻略達成だ。

読んで頂きありがとうございます。

いやぁ……。

セコいって?

そんな事ないよ、弱点を着くのは基本中の基本でしょ?


良かったら、

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