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第1話 最低なファーストコンタクト

「クソったれ、何でこう俺は運が悪いんだ!」


 全速力で走りながら、俺は叫ぶ。

 頭に過ぎるのは自身のステータス、

『LUK(幸運): 9』

 聞いた話だが、これまで観測された幸運値の最高は90、最低は15だったらしい。

 つまり全く嬉しくないが最低値を更新してしまったのだ。


「待ちなさい!待ちなさいって言ってるでしょ!」


 後ろで叫びながら追いかけてくる彼女を俺はよく知っている。

 冒険者ランキング第1位 太陽(ヘリオス)の二つ名を持つ最強の冒険者。

 漆原 冴(うるしはら さえ)だ。

 同じ大学に通っているが話したことは無い。

 所謂高嶺の花で俺も態々近づこうとは思わない。


 では何故今俺は追いかけられているのか。


 答えは ()()()()()だ。


 会うなり、よく分からない事を言われ、剣を向けられ。


『あなたを拘束します、抵抗しない方が身のためです』


 と言われたので、全力で逃げている最中だ。


「ちょっとこら!罪を認めて投降しなさい!と言うか、とりあえず止まりなさいったら!」


 何か叫びながら、息を切らして追いかけてくる。

 ランキング1位がこのザマとは情けない。

 いや、他の奴と比べれば大分マシだろうか。

 何せ今の漆原さんは()()()1()なのだから。


 史上最速でレベル99まで到達した才女。

 人類最速の剣士。

 等と持て囃されていても、日々の鍛錬は欠かしていないのだろう。

 ほぼ素のステータスで20分近く追いかけてきている。

 しかも少しづつとは言え距離を詰めてくるのだから相当だ。

 まぁ、俺の計算と記憶が正しければ、もう追いつかれることは無いだろう。


「この!絶対に捕まえてやる!」


 そんな声が聞こえてくると同時に、足音も近づいてくる。

 勝負を仕掛けて来たという事は限界は近いはず。

 この勝負はやはり俺の勝ちのようだ。

 俺は20分間走り続けて、やっと目的の曲がり角へとたどり着いた。

 勝ちを確信し角を曲がった瞬間、気が抜けたのだろうか、足がもつれる。


 最強の冒険者は伊達では無いようで、その一瞬の隙を見逃さず、全力でタックルをかましてくる。


 俺は体勢を崩し、そのまま倒れ込むと、馬乗りに抑え込まれてしまう。

 そして、俺たち2人は光に包まれる。


「さぁ、話を聞かせて貰えるかしら?」


 漆原さんは俺の首に剣を突き立てる。


挿絵(By みてみん)


 と同時に、辺りがガヤガヤと騒がしくなり始める。


「何だ何だ?喧嘩か?」

「え、どこだどこだ」

「ほら、あの転移陣の上」

「おいあれ、太陽(ヘリオス)じゃねぇか!」

「え!うそ!漆原様?どこよ!」

「おい本当かよ!抑え込まれてる羨ましい奴は誰だ?」

「あの額のハゲ方、厄災(ロキ)じゃねえか!」

「何?ランカー同士の喧嘩だと!これは見物だな!」


 どんどんと騒ぎが大きくなっていく。

 最後にトチったが、概ね計画通りだ、そしてどさくさ紛れにハゲって言ったやつの顔はしっかり覚えておく。

 言っておくが俺は禿げてない、髪質が少し固くて全体的に髪が浮いているせいで額が広く見えるだけだ、断じて禿げてない、そもそも俺は18歳、禿げてるわけが無い。


 おっと話が逸れた、俺が目指していたのはダンジョンの各所に設置されたロビーへの転移陣。

 地下15階層と言う、ほとんど人のいない場所ではなく。

 人目に着く場所。

 冒険者だろうと関係ない、ここは日本、喧嘩も決闘も基本的にはご法度。

 人目に付く場所まで逃げさえすれば、逃げ切ったも同然。

 まぁ、最後に失敗して、大騒ぎになってしまったが。


「はっ!?いえこれは、違うんです皆さん」


 ギャラリーに気づいたのか、漆原があからさまに狼狽し始める。


「これは一体なんの騒ぎですか?」


 そこへ騒ぎを聞きつけたギルド職員が駆けつける。

 状況についていけていないのか、漆原さんは目を泳がせたまま黙ってしまう。

 仕方なく俺が変わり状況を説明することにした。


「俺が魔物に襲われ転移陣に逃げ込もうとしたんだが、運悪く太陽(ヘリオス)が居て事故っちまったんだよ」


 俺は馬乗りにされて動けないながらも、手を広げて、お手上げポーズをとる。


「私には太陽(ヘリオス)があなたを脅しているように見えますが?」


 ギルド職員は訝しげな目を俺たちに向けている。


「いきなり走ってきた男に突っ込まれて御覧の体勢だ、冒険者なら剣を抜いたっておかしくないだろ?」


 俺が戯けてみせると、漆原さんは俺から飛び退く。

 どうやら俺の言葉でようやく状況を理解してきたようだが、よく見ると少し頬が赤くになっている。

 それを見た職員はため息を着く。


「であれば、転移陣近くへ魔物を誘導した事による違約金と、人を巻き込んだ事による賠償金が発生しますがいいですね?」


 ギルド職員は少し威圧的な態度で俺を睨んでくる。


「ああ、構わない、その方が良いだろ?」


 俺の言葉にギルド職員は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 俺と違って品行方正ギルドの顔、と言っていい漆原さんが犯罪を犯したともなれば、ギルドの面子も立たない。


「分かりました、ではそのように処理します。太陽(ヘリオス)も良いですね?」


 職員は目を瞑り、心を鎮める仕草を見せると、漆原にそう問いかける。


「あ、いえ、私への賠償金は必要ありません、事故とはいえ剣を向けてしまいましたから。申し訳ありませんでした」


 漆原は剣を納め、こちらに頭を下げてくる。

 どうやらこちらの意図に気づいて茶番に付き合ってくれるようだ。


「いや、こっちこそすまない、今後は気をつけるよ」


 俺は立ち上がると漆原さんと職員へ頭を下げる。


「2人とも、以後このような事が無いようにお願いします。さぁ、皆さんも解散してください」


 職員は俺たちに注意をすると、集まっていたギャラリーを散らし始める。


 その隙に俺もトンズラ、

 しようとして首根っこを捕まえられる。


「今回は助かりました。が、それとこれとは話が別です」


 漆原に睨みつけられ、俺はため息を漏らす。


「わかった、但し剣は無しで頼む。俺の行きつけの喫茶店で良ければ話はしてやる」


 諦めたとばかりに俺は両手を軽く上げて漆原の方へ向き直る。


「分かりました、では行きましょうか」


 意気揚々と外へと歩き始める漆原。


「そのまま行くつもりか?」


 そんな漆原を俺は呼び止める。

 冒険者だろうと法律を守らなければいけない。

 銃刀法違反になりたくなければ、ギルドへ装備を預けるのが基本だ。

 しかも装備は結構斬新なデザインが多い、私服に着替えず外に出れば、コスプレ感満載の格好で外を歩くことになる。


「いえ、着替えてきます。いいですか?15分後にここで集合です。逃げないように!」


 恥ずかしさを隠すようにして、漆原はその場からそそくさと退散していく。


 しかし、めんどくさい。

 本気でバックれようかとも思ったが、後がさらに面倒そうなので思いとどまる。


 俺は視線をギルドの真ん中にある巨大なモニターへ移す。

 そこには冒険者ランキングが表示されていた。


 ランキング第5位 等々力 源志(とどろき げんし)


「やっとここまで上り詰めたってのに、本当、運だけは最悪なんだよな」


 ふと、ギルドに始めてきた日のことを思い出す。

 嫌な思い出だが、俺の原動力。

 俺が今ランキングに名を刻める事となった、あの原点を……。

読んで頂きありがとうございます。

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