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83.詐欺師 VS 情報屋(3)

前回の話

イスラは孤児院の院長であり、情報屋であるリウラとの対決を決心した。

リウラを潰すために最も効果的な策は何か。

結論から言えば、俺の考えではあの葉っぱの取引を押さえるのが一番良さそうだ。


俺がリウラの執務室である孤児院の院長室に訪れた際は、ほとんど必ず引き出しから葉っぱを取り出し、火をつけて煙を吸い始める。


あの葉っぱは過去に中毒者を多く輩出しすぎており、その取引や使用は法で禁止されたという経緯がある。


そんな物を所持、使用している証拠を押さえれば、いくらリウラといえど簡単には言い逃れできないはずだ。


気になる点があるとすれば、あまりにわざとらしい弱みの露呈ではあるので、罠である可能性も捨てきれない。

しかし、他に有効な手段も思いつかないため、今回はこのプランでいこう。


「メッツ、今から出かけるから車を出してちょうだい」

「かしこまりました。行先はどちらに?」

「王城と、知り合いの貴族の屋敷を片っ端に」


そうと決まればすぐに行動だ。

情報はリウラから買うことも多かったが、そのリウラを討つためには自分で動かなければならない。

俺はリウラを追い詰めるための情報を探しに屋敷を出た。


意気揚々と屋敷を出たものの、成果は散々なものだった。

王城で知り合いの使用人に声をかけたり、社交界で知り合った貴族の元を訪れたりしたものの、中々情報が集まらない。


ほとんどの人間がリウラの表の顔しか知らず、美人でお淑やかな女性だという評価を口にするだけで、どうでもいいような噂すら聞き出せない。


このままでも打てる手がないわけではないが、かなり強引な形になってしまうのは否めない。


何でもいい。

もう少しだけ俺に有利に働く情報があれば。

そんな願い空しく、時間だけが過ぎていく。


俺は諦めを感じつつも王都を奔走していたが、今いる場所がミレイス商会の本部の近くであることを思い出し、せっかくなのでミレイヌのところにも顔を出すことにした。


相変わらずミレイス商会の受付には美人の女がおり、俺の顔を見るなり、


「イスラ様ですね。ミレイヌ様にお取次ぎいたしますので、応接室でお待ちください」


と笑顔で挨拶をされた。


名乗っていないにも関わらず、俺が誰かを一瞬で判別できるとは、よく教育されているのだろう。


俺は言われた通り応接室に入り、適当な椅子に座ってミレイヌを待った。

少し待つと、ミレイヌはすぐにやって来た。


「イスラ様、お待たせしてしまい申し訳ありません」

「突然押しかけてしまってごめんなさい。近くを通りかかったものだから、会いに来たの」

「わざわざ会いに来てくださるなんて……感激です!」


ミレイヌは突然の来訪にも上機嫌で迎えてくれた。

そして空いている椅子はいくつかあったものの、迷わず俺の隣の椅子に座ったと思ったら、自然な動作で腕を絡めてきた。


「私もイスラ様のことが恋しくて、会いたいな、って思っていました。そしたら本当に会いに来てくれました。きっとこれは運命ですね」

「そうかもしれないわね」


ミレイヌは勝手な論理で勝手に盛り上がっているが、俺はそんな話には興味がない。

今知りたいのはリウラに繋がる情報だ。


「ミレイヌさん、少し質問してもいいかしら?」

「何でしょうか?」

「最近、孤児院に関することで何か気になることはないかしら?」

「孤児院……ですか……?」


ミレイヌは目を瞑って何かを思い出すような素振りを見せたが、この様子だとダメだろう。

俺の腕を掴んで離さないミレイヌをどのように振り払うかを考えていると、ミレイヌは目をパチリと開いて言った。


「そういえば最近、孤児院の敷地に魔動車が入っていくのを見ました。最近は貴族の方への魔動車の販売も増えているので、その影響ですかね」

「そう。…………ちょっと待って、敷地に魔動車が入ったと言ったかしら? どんな車だったか覚えている?」

「ええっと、普通の荷車タイプのやつですね」

「そのタイプは貴族向けに販売していたかしら? 貴族向けのやつは荷台の付いていないもののはずだけど」

「確かにそういえばそうですね」


ミレイヌの証言は大したものではないように思えたが、よく考えると違和感がある。


荷車タイプの魔動車を使っているのはナスル商会だけだ。

そしてナスル商会は孤児院に荷物を運ぶ際に敷地に入ることはしていなかったように思う。


では、一体誰がそのようなことをしているか。


「ミレイヌさん、確か魔動車を販売する際はシリアルナンバーを付けて車両と購入者を紐づけしていたわね」

「はい、そうですが……」

「荷車タイプの車で、ナスル商会以外に販売した相手の情報をすべて頂戴。大至急で」

「分かりました。イスラ様がそこまで仰るなら」


他のどの貴族に聞いても掴めなかったリウラの尻尾がまさか魔動車から掴めるかもしれないとは、手がかりは意外なところに落ちているものだ。

ミレイヌは渋々といった様子で俺の腕を離して応接室出ると、数分後に紙束を持って戻って来た。


「こちらが対象者のリストですが、数十人はいますよ?」

「構わないわ」


俺はその紙を手早くめくっていき、目と頭をフル回転しながら中身を見ていった。

そしてあるページで手を止めた。


「ミレイヌさん、このギメーノ婦人という女は誰かしら?」

「その方のことは覚えています。旦那さんがギメーノ商会という小さな商会を経営しているようで、その商売の助けになるかもしれないと言って購入されました。今思えば確かに不思議な方でしたが、現金の一括払いだったため、そのまま販売しました」

「小さな商会の経営者には魔動車は高価過ぎる気がするけれど、それを現金一括ね。多分、こいつだわ」


わざわざ身分を偽ってまで、荷物運びに特化した魔動車を買うとは、よほど素性を知られたくない事情や、中身を知られたくない荷物があるのだろう。


例えば、孤児院の院長が裏では違法な葉っぱを売買しているというような。


「ありがとう、ミレイヌさん! このお礼は改めて!」

「? はい、分かりました」


俺はその車のシリアルナンバーを控えてミレイス商会の建物を飛び出した。

ミレイヌは不思議そうな顔で俺のことを見送ってくれた。


次の日、俺は現在王城で登録されている商会の名前を片っ端から調べたが、やはりギメール商会などという名前の商会はなかった。

もしかしたら届け出を出していない闇商会かもしれないが、直感がそれを否定した。


(必ずこの件にリウラは関わっている)


その後、俺は数日かけて偽名で購入された魔動車が頻繁に置いてある場所を特定して準備を進めた。


そしてようやくその日が訪れた。


その日は例の魔動車が朝からいなくなっていたという情報を聞き、その車はきっと違法な荷物を積んで孤児院に戻って来ると予想した。


春の陽気が存分に感じられる日差しの中、俺はメッツとファラを連れてひたすらにその車が帰還するのを孤児院の側の建物の影で待った。


永遠にも感じるほどに時の流れが遅い。

今か今かと待ち続け、日が傾きかけた頃、ようやく一台の魔動車が孤児院の近くに向かってきた。


車は孤児院の敷地に入ろうと減速している。

俺は使用人二人に目配せをすると、一目散にその車をめがけて駆けだした。


そして運転席の扉を無理やりに開けて中にいる人物に声をかけた。


「初めまして、“ギメール婦人”。こんなところで何を運んでいるのかしら?」

「イスラ・ヴィースラー……!!」


運転席の女は露骨に憎々しげな表情を見せた。

直接話したことはないが、以前に孤児院の中で見かけたことのある顔だ。


俺は無理やり運転席にある停止装置を起動させて車を停止させた。

そうしている間にメッツが荷台に飛び乗り、積荷を検める。


「イスラお嬢様、『当たり』です」

「ありがとう、メッツ。ファラ、違法薬物所持の現行犯でこの女を捉えて」


どうやら俺の予想は当たっており、ファラは俺の指示を聞くと運転席の女を引きずり出して組み伏せた。


これで状況はこちらが有利になった。

後は本丸を落とすのみ。


「ファラ、そいつを逃がさないように。メッツは打ち合わせ通りに動いて。……私はリウラの元に向かうから」


日も落ちて暗くなってきた中で、俺は一人で歩き出す。


もうここまで来たら引き返すことはできない。

やるか、やられるか。

一世一代の大勝負のため、俺は院長室を目指した。

次回投稿日:5月14日(火)

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