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82.詐欺師 VS 情報屋(2)

前回の話

イスラの屋敷の周囲に怪しい人物が現れた。

その人物の存在には孤児院の院長であり、情報屋であるリウラが関わっているとイスラは予想した。

三次選考の通達が来てから数日、俺は屋敷の周囲をうろつく不審者を泳がせながら、その雇い主をファラに探らせた。

そしてファラからその件に関する報告を受けた。


「お前の予想通りだ、イスラ・ヴィースラー。屋敷の周りにいた奴から二人ほどの男を経由して、最後に報告を受けた女が孤児院に入っていくのを確認できた」

「やはりね」


どうやら俺の予想は当たっており、孤児院の院長であるリウラとの対決は避けられなさそうだ。


俺にはレアという特大のウィークポイントがあるため、その存在を知られてしまっては一生優位に立つことはできない。


ならばいつレアの存在を知られるか怯えて待つよりも、先手を打ってリウラを排除する方がこの先のことを考えるとベストな選択に思えてきた。


とはいえまだまだ準備に時間は必要だし、リウラの思惑も知りたい。


「ファラ、メッツを呼んで。これから孤児院に向かうわ」


とりあえず一度リウラに会ってみよう。

話はそれからだ。


屋敷を出て数十分ほどで俺は孤児院に到着し、手近にいた職員に話を聞いた。


どこかで見たことのある顔だと思ったが、よくよく思い返すとこの前来た時にも応対してもらった女だった。

確か名前は……。


「サリーさん? だったかしら? リウラ院長はいるかしら?」

「この前いらっしゃた貴族の方ですね。えーと……」

「イスラ・ヴィースラーよ」

「そうでした、イスラ様! リウラ院長に御用でしょうか? 少しお待ちください」


俺はギリギリのところで名前を思い出したのに対し、サリーは俺の名前を忘れていたようだ。


名前を忘れられていたことについて、俺はあまり気にしていなかったが、サリーは罰が悪そうな顔をして逃げるようにこの場を去ってしまった。


少し待つと、サリーはパタパタとこちらに駆けてきた。


「イスラ様、お待たせしました。リウラ院長は院長室にいらっしゃいます。面会も問題ないとのことだったので、ご案内します」

「ありがとう」


事前にアポイントを取らずに来たが、リウラはまるで待っていたかのように俺の来訪を受けるそうだ。

相変わらず不気味な奴だ。


院長室までの廊下で俺はサリーにも話を聞いてみた。


「最近、リウラ院長のところに他の貴族が来たという話は聞かないかしら?」

「貴族の方は時々いらっしゃいますよ? 孤児院に寄付をしてくださる方も多いですし。そういえばイスラ様は今回は子供たちへのお土産はお持ちでないんですね」

「今日は少し急ぎの用事でね。また今度持ってくるわ」


元々期待はしていなかったが、サリーからは特に有益な情報は出なさそうだ。


孤児院にはサリーのようにリウラの裏稼業のことは何も知らずに働いているものと、リウラの手先として働く二種類の職員がいるらしい。

リウラの手先には余計なことを聞くわけにはいかないが、サリーは明らかに何も知らない一般人だ。


リウラはその程度の一般人の話から情報を抜けるほど甘い相手ではないということを改めて認識できた。


「イスラ様、こちらが院長室です。それでは私はこれで」

「ええ、案内ありがとう」


案内を終えたサリーはそそくさと自分の仕事に戻った。


俺は扉の前で一度深呼吸をして三回ノックすると、中から鈴の音のような声で『どうぞ』という返事が帰って来た。


俺は意を決して院長室の中に入る。

執務机の前に、見た目だけは清楚そのものな美女が座っている。


「失礼するわ」

「嬢ちゃんか。いきなり会いにくるなんて、そんなに私が恋しかったかい?」


先ほどの鈴の音のような声はどこへやら、耳にまとわりつくような声が俺を出迎えた。


リウラは最初こそ慈しみを感じるような微笑みを浮かべていたが、すぐにニヤニヤとした顔で俺のことを舐めまわすように見てきた。

正直、不愉快な視線だ。


「私の屋敷の周りに最近、不快な虫が飛んでいるの」

「それは災難だな。殺虫剤でも撒いたらどうだ?」

「あれ、あなたの差し金でしょう?」


リウラはいちいち会話を茶化してくるので、俺はそれを極力無視して要件を伝えた。

すると俺の質問にリウラは涼しい顔で答えた。


「ああ、そうだな」

「どういう意図かしら?」

「簡単なことさ。嬢ちゃんのことなら何でも知りたいって言ってきたやつがいてな。きっと嬢ちゃんのことが好きなんだろうと思った私は、微力ながら協力させてもらおうとしたってわけだ」

「要は他の貴族からの依頼があったから、お金で私を売ったということね」


予想はしていたが、リウラを使って情報を集めている貴族が私の情報を買おうとしているらしい。


リウラはふざけたやつだが、こういった場合に依頼主をそう簡単には教えてくれないのはよく知っている。

それならば質問を変えてみよう。


「他の貴族からの依頼があったのは分かったわ。だけど、どうしてあんな質の低い輩を使ったのかしら?」

「あれはただの忠告だよ。私は嬢ちゃんのことが好きだから、いきなり根ほり葉ほり調べるのは申し訳ないと思ってな。現に嬢ちゃんは私の忠告に気が付いてここに来た」


俺は雇い主についてのことを聞くことは諦め、気になっていたもう一つのことについて質問をした。


リウラ曰く、質の悪い人間を使ったのは『忠告』ということらしい。

わざと気づかせて、俺がここに来るように仕向けたということか。


俺は自分がリウラの思い通りの行動をとってしまったことに思わず顔をしかめてしまったが、リウラは対照的に楽しそうだった。


「私と嬢ちゃんの仲だ。簡単には他のやつに情報を売ったりしないさ。ただし、それ相応の対価は必要だけどな」


リウラはケラケラと笑いながら俺を見た。

顔は笑っているが、視線はまるで氷のような冷ややかさを感じさせた。


下手を打てば確実にまずいことになると直感が告げている。


「……いくら払えばいいのかしら?」

「それは嬢ちゃん次第さ。嬢ちゃんが私のことをどれくらい好きかで決めてくれ」


それならば銅貨一枚すら支払いたくないが、今はそう答える訳にもいかない。


本当に金で解決するとなると、恐らくは俺の調査を依頼した貴族がリウラに支払った報酬以上の金額が必要になるが、それがいくらか分からない。


(やはりリウラはここで潰す……!)


もし今回、金で解決できたとして、今後も同じ揺すられ方をしたら俺の金がなくなるまで搾り取られるに違いない。

もし俺がリウラの立場なら、確実にそうするからだ。


それを回避するためには、やはりリウラ本人を排除するしか方法はない。


「少し考えさせてくれないかしら? お金を用意するのにも時間がかかるの」

「そうかい。まあ、じっくり考えて答えを聞かせてくれ。……私の気が変わるまでに、な?」


どちらにしても時間を稼がなくては始まらない。

リウラも俺がこの場で返事をするとは思っていないようで、即決は求めてこなかった。


話が済んだので、退室しようとしたところ、リウラは執務机の引き出しから例の葉っぱを取り出し、火をつけて煙を吸いだした。

室内に独特の甘い臭いが満ちる。


「そういえば、嬢ちゃんは親の家督を継いで子爵令嬢から子爵様になったそうだな。おめでとさん」

「ありがとう」

「屋敷も継いだみたいだが、使用人は足りているのかい? 大勢解雇したみたいだけど?」

「…………」

「一体、何を隠しているのかな? お姉さん、興味津々だな」

「……今日は失礼させてもらうわ」


俺はリウラの問いかけを無視して院長室から退室した。

最後に牽制を入れて来るあたり、つくづく性格の悪い女だ。


(さて、どうしたものか)


リウラを倒すにしても、どういった作戦でいくか。

できれば複数の計画を用意して、並行して進めるのが最も確実だが、あまり悠長なことはできないので、確実な一撃が必要だ。


残された時間は、決して多くはない。

次回投稿日:5月11日(土)

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