50.終わりの始まり(3)
前回の話
イスラたちはレティシアの提案で、旅行に出かけたが、そこでレティシアから突然の別れを告げられた。
イスラはレティシアを説得し、自分のことを信じさせることに成功した。
レティシアと別れてから2か月ほどの時間が過ぎた。
季節はすっかり夏となり、暑い日が続いた。
あれからレティシアとは一度も会っていないし、連絡も来ていない。
本当にアバン王子によって俺達との交流を絶たれているのだろう。
そんなある日、自室で机に向かっていると、いつになく慌てた様子のメッツが部屋に入ってきた。
「イスラお嬢様、大変です。レティシア様が行方不明になったとのことです」
「そう。それは大変ね」
メッツはその言葉の内容とは裏腹に、いつもの調子で淡々と報告し、俺もそれに軽く返事をした。
「イスラお嬢様、これからいかがいたしますか?」
「まずは静観ね。今は下手に動くべきではないわ」
色々と考えなければならないことはあるが、まずは各方面の人間の出方を確認するべきだろう。
万が一にも俺が疑われた時には早急に対応しなければならない。
その後俺は数日かけて今回の事件の顛末に関する情報を集めた。
調査の結果をまとめると、こんな感じだろうか。
・レティシアの屋敷には覆面を被った数人の集団が押し寄せ、使用人を拘束後に金品の強奪、レティシアの誘拐を実行した。
・犯人グループの数人は既に逮捕されているが、犯人同士で互いの面識はなく、レティシアの居場所は未だ分かっていない。
・主犯となる人物は実行犯に指示だけ出していたようで、現在調査中ではあるものの、特定できる可能性は極めて低い。
できる限り詳細な情報を確認しようと試みたが、どこの筋からも犯人に関する有力な情報は出てきていない。
それならば、そろそろ動いてもいいかもしれないな。
「メッツ、馬車の用意をお願い」
俺は尾行に注意しつつ、とある場所へと向かった。
俺が向かったのは、王都郊外のとある一軒の小さな家で、木造二階建てのその家は、築20年以上のボロ屋といっていい風貌の建物だ。
俺はその家の扉を開けて中に入ると、建物の見た目からは想像できないほど綺麗に修繕された内装と、美しすぎる使用人姿の女が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、イスラちゃん」
出迎えてくれたのは渦中の人物であるレティシア本人だ。
メッツが着ているものと同じデザインの給仕服を着てもらっているが、本人の高貴な雰囲気と全く合っていない。
「いらっしゃい、ではなくておかえりなさい、でしょう?」
「ごめんなさい、確かにその通りね。ところで、王城の様子はどうかしら?」
レティシアは早速自分がいなくなった後の王城の様子を少しだけ不安げに聞いてきた。
「騒ぎは続いているけれど、想定の範囲内ね。誰もあなたの居場所を知らないし、誰も私がやったことだと気付いていないわ。それと、アバン王子はあなたがいなくなったショックで寝込んでしまったらしいわ」
「そう。それは少し気の毒なことをしてしまったわね」
「後悔している?」
「ううん。あの夜、私はイスラちゃんを信じるって決めたから。それに、約束通りイスラちゃんは私を王子や両親から解放してくれたから」
そう答えたレティシアの顔はどこかスッキリとした雰囲気を感じ取れた。
彼女の言葉の通り、今回の公爵令嬢誘拐騒動は俺が仕組んだものだ。
事前にレティシアが自分の屋敷に戻る日を確認し、彼女の家族をできるだけ外に出すよう根回しした上で、その日に強盗が押しかけるようゴロツキ共をけしかけた。
その隙に便乗して俺とメッツは強盗集団と同じ覆面を被り、レティシアの自室に忍び込み、彼女を屋敷の外に連れ出した。
その後はこのボロ屋にレティシアを匿い、今日に至る。
今までも面倒なことはたくさんあったが、今回の件はその中でも最大級に面倒だった。
やらなければならないことが多かったのもそうだが、自分の素性をできるだけ明かさずに準備を進めるのは大変な手間だった。
しかし、その甲斐あってこうしてレティシアをアバン王子から引きはがすことができた。
俺が感慨に耽っていると、レティシアは突然クスりと笑った。
「何かおかしいことがあった?」
「ううん、イスラちゃんが敬語なしで話してくれるのが嬉しくて」
「何を言っているの? これからは一応あなたは私の使用人として振る舞ってもらう訳だから、早く慣れてちょうだい」
「かしこまりました、イスラお嬢様」
レティシアはわざとらしいお辞儀で返事をした。
今後はレティシアの存在が他人にばれないよう、彼女を人前に出す際には変装させた上で、使用人として連れまわさなければならない。
その時のために今から練習してもらっているわけだが、この調子では使用人としての振る舞いが板に付くまでどれだけ時間がかかることやら。
「そういえば、あなたには偽名を使ってもらわなければならないわね」
「確かにそうね。それならイスラちゃんが私の新しい素敵な名前を考えて」
レティシアは期待の眼差しを俺に向けてくる。
慣れ親しんだ自分の名前を捨てることに対しても悲観的な様子がないのはこちらとしては助かるが。
「そうね……。レア、というのはどうかしら?」
名づけのセンスがない俺は、結局メッツの時と同じような命名の仕方をしてしまった。
「レアか。悪くないね」
レティシア……いや、レアは新しい自分の名前をかみしめるように何度か呟いた。
気に入ってもらえたなら問題はないが、こんな適当でいいのだろうか。
一抹の疑問を感じつつも、俺とレティシアは互いに新しい関係となったことを認め合った。
「改めて、よろしくね。レア」
「私は全てを捨ててイスラお嬢様に付き従うと決めました。だから、これからもずっとお側に置いてくださいね」
そう言って俺に向かって微笑みかけてくれるこの女は、もう公爵令嬢でもアバン王子の婚約者でもない。
俺はついにアバン王子とレティシアの婚約の解消に成功したのだ。
これでようやく俺自身がアバン王子の婚約者として認められるようになるという最終目標に近づくことができる。
そう思うと、多大な達成感を得ることができた。
しかし現状、俺はアバン王子にはあまり好かれていない。
新しい婚約者として王子や周囲に認められるには様々な壁が立ちはだかるだろう。
だが、今までもそういった壁を乗り越えてきた自負がある。
これからはさらに様々な手段で周囲を欺き、成り上がってやる。
俺は心の中で静かに次の目標に挑む決意を固めた。
(さあ、ここからは第二幕の始まりだ)
次回から第二部に突入します。(全二部構成予定)
引き続きご愛読いただけると嬉しいです。
次回投稿日:未定
※2月5日(月)には更新できるよう努力はします。
続きが気になる方は是非ブックマークしてお待ちください。
高評価、いいね、感想をいただけたら励みになります。




