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48.終わりの始まり(1)

前回の話

イスラとミレイヌは魔動車の開発を進め、ミレイヌ名義の新しい商会を立ち上げた。

雨の時期は終わりを告げつつあり、暑い日差しが降り注ぐことが増えた。


そんな折、レティシアから一通の手紙が届いた。

なんでもレティシアの別荘に一泊二日で泊りの旅行に行かないかという誘いだった。


また二人での旅行かと思ったが、手紙をよく読むといつもの取り巻きメンバーも一緒とのことだ。

最近は定例の茶会や二人きりでの逢瀬の誘いもなかった中でのこの旅行。

気になるところはあるが、俺はすぐに了承の旨の手紙を返した。


旅行当日。

俺達は一度レティシアの屋敷に集合し、大きめの馬車に数時間揺られて王都から離れた森の中にあるレティシアの別荘にやってきた。


湖のほとりに立っている別荘は王都にあるレティシアの屋敷と比べると少し小ぶりではあるが、それでも十分な大きさであり俺は思わず圧倒させられた。


「やっと着いた!! これから何して遊ぶ!?」


馬車の中でも元気だったユフィーは降りてからもピョンピョンと飛び跳ねたり無駄に大ぶりな手の動きで楽しさを表している。


「……少し休息が必要だと思います」

「お茶でも飲んでゆっくりするのはどうでしょう?」


ノインとミレイヌは馬車による移動の疲れからか、普段より少し元気がない。

むしろあれだけの元気を維持できるユフィーが異常なだけか。


ユフィー、ノイン、ミレイヌの三人は概ねいつも通りの振る舞いだが、一人だけ明らかに普段と違う様子の奴がいる。


「レティシア様、どうかされましたか?」

「…………」


俺は一人上の空だったレティシアに声をかけてみたが、レティシアはボーっとしていて返事を返さない。


「レティシア様?」

「えっ、ごめん。何か言ったかしら?」

「お加減でも悪いのでしょうか?」

「ううん、そういうわけじゃないの。大丈夫」


少し大きめの声で呼びかけると、レティシアはようやく返事を返した。


移動の最中も終始こんな感じで明らかに旅行に集中できていない。

心ここにあらずといった様子だ。


「レティシア様!! この後何して遊ぶですか!?」

「……休息を取りましょう。湖畔で本を読むのがいいと思います」

「まずは腹ごなしですよ。お菓子でも食べましょう」


レティシアの様子は気になるが、他の三人まで集まってきてしまった。

考えるのは後にしよう。


「せっかくだし、湖で水遊びでもどうかしら?」


レティシアは少し考えた後、そう提案した。

俺達はレティシアの提案を断る理由もなく、全員水着に着替えた。


各自割り当てられた自室で着替えてから湖畔に集合ということになったのだが、一番乗りは俺だった。


改めて自分の来ている水着を見下ろすと、余計なフリフリの付いた極めて可愛らしいセパレートタイプのものだった。


この旅行の前、侍女のメッツに適当に水着を見繕ってカバンに入れておくよう指示したが、まさかこんな可愛い系のものを選ぶとは予想外だった。

俺はもう少しシンプルなやつを期待していたが、今更言っても仕方ない。


もう少し細かく指示を出しておくべきだったと後悔していると、ユフィーがやってきた。


「おお、イスラの方が先だったか。水着、可愛いな。似合ってるぞ」


そう言いながら現れたユフィーはシンプルなビキニタイプの水着だった。

運動が好きだからか、ユフィーは腰回りに余計な脂肪がなく線が細い。


そしてレティシアほどではないが、胸も大きめなため全体的なスタイルの良さは抜群だ。

その素材の良さが生かされた着こなしと言っていい。


「ユフィー様もお似合いですよ」

「そうか。ありがとう。この水着、早く泳げそうでいいよな」


当の本人は自分のプロポーションには無頓着で、機能性で語っているところがいかにもユフィーらしい。


「イスラ様、ユフィー様、お待たせしました!」


次にやってきたのはミレイヌだった。

ミレイヌはワンピースタイプの水着を着ている。


「イスラ様もユフィー様も素敵な水着ですね。私はお二人とは違って子供体型なのでこういったタイプの水着しか着られず、お恥ずかしいです」


ミレイヌはそう言っているが、俺の目から見れば小柄で愛らしい容姿をしている。

ワンピースタイプの水着もそんな彼女によく似合っていた。


「……お待たせいたしました」


その次にノインがゆっくりと歩いてきた。

ノインもセパレートタイプの水着だったが、布面積は大き目で、さらに白いパーカーを羽織っていた。


「……やはり水に入らなければだめでしょうか」


ノインは水に入るのが苦手なのか、少し物憂げな顔をしている。

しかしその表情がむしろ深窓の令嬢のような雰囲気を出していて赴き深い。


四人で談笑しながら待っていると、少し遅れてレティシアが現れた。


「みんな、待たせたかしら?」


俺達四人は一斉にその声のする方を見たが、全員が言葉を失っていた。


レティシアの水着は淡い青を基調としたビキニだが、腰回りにパレオを巻いていて上品さを演出している。

しかし、その圧倒的なプロポーションはデザインの上品さを補って余るほどの代物だった。

男女問わず思わず二度見するであろう立派な胸元や、健康的な美脚は美の象徴と言われるような彫刻作品すら霞むような美しさを備えている。


極めつけに水着の差し色として金の糸で刺繍がされている箇所があり、降り注ぐ日差しに照らされて文字通り輝いていた。


水辺の天使。

この世ならざる光景に思わずそんな言葉が頭に浮かんだ。


「みんな、固まってどうかした? もしかしてどこかおかしかった?」


レティシアは俺達が無言でいることに不安になったのか、自分の恰好をそわそわと確認しだした。


「いえ、その水着がレティシア様に似合い過ぎていて言葉が出なかっただけです」

「そう? なら良かった。だけどみんな少し大げさ過ぎ」


俺が何とか返事を絞り出したことで、レティシアは安心したように表情を緩めた。

そんな一挙手一投足すら見るものを魅了する。

正に魔性という言葉が相応しい。


しかし人間とは意外にも適応力が高い生き物であり、俺たちは次第にいつもの調子に戻っていった。


「うおおおおおお!!!」


ユフィーは準備運動もそこそこに水に飛び込み、バシャバシャと派手に泳ぎ始めた。


テニスは上手かったので、運動全般が得意なのかと思いきや、手足の大ぶりな動きに対してあまり前に進んでいない。

泳ぐのはそこまで得意ではないのかもしれない。


「ユフィー様、水が跳ねてますよ!」


ミレイヌは浮き代わりに水面に浮かんでいる丸太にしがみついて漂っている。

時折ユフィーが近くを通る時に跳ねた水がミレイヌにかかっているが、ミレイヌも文句を言う顔は笑っており、そこまで気にしていないようだ。


「…………………………」


最後まで水に入ることを渋っていたノインは結局湖のほとりの木の下に腰かけてボーっと景色を見ていたが、目はほとんど閉じており、時折首がカクンと動くのでほとんど寝ている状態だ。

日差しはそこそこ強く、日なたは暑く感じるが、時折優しい風が吹く水辺の木陰は昼寝に最適な場所となっているようだ。


俺とレティシアは湖の淵に腰かけ、足だけ水に入れてそんな三人の様子を見ていた。


「イスラちゃんは泳がないの?」

「泳ぐのもいいですが、レティシア様もご一緒にどうでしょうか?」

「私は別に…………いや、そうだね。せっかくだから私も泳ごうかな」


レティシアは一瞬顔を曇らせたが、すぐに笑顔に戻った。

その顔は分かりやすい作り笑顔だった。


今日のレティシアは明らかに様子が変だ。

そしてその異変は俺にとっては吉兆の可能性もある。

その原因を知りたい気持ちは逸るが、俺はそれを抑えて極力平静を装った。


必ずこの旅行中に勝負すべき場面はやってくる。焦るべきではない。


俺は先に水の中に入りレティシアに手を伸ばした。


「お手をどうぞ」


レティシアは遠慮がちに俺の手を取り、ゆっくりと水の中に体を沈めた。


その後は遊んだり休んだりしながら全員バカンスを楽しんだが、日が傾いてきたあたりで別荘の中に引き上げた。

別荘ではレティシアの使用人が夕食の支度をしてくれており、そのまま広間で夕食をいただくことになった。


そして夕食の終わり際に、レティシアは神妙な面持ちで全員に切り出した。


「今日はみんなに大切な話があるの」


それまで楽しい雰囲気で談笑していたが、俺を含めた他の四人はレティシアのただならぬ様子を感じ取り、静かに耳を立てた。

レティシアは静かに口を開いた。


「私はこうしてみんなと一緒にいられる時間が、とっても大好き。ずっとこのままでいられたらいいのにって思う。だけど、みんなとこうして会ってお話できるのは明日で最後になるの。こんな形での報告になってしまってごめんなさい」


レティシアはそう言って頭を下げた。


ユフィーも、ノインも、ミレイヌもレティシアが何を言っているのか分からないというような顔をしているが、俺には一つの予感があった。


その予感が正しければ、これは今までで最大のチャンスがやってきたということになる。

こんなシリアスな場面だというのに俺は口角が上がろうとするのを抑えるのに必死だった。


俺の予感が正しいかはまだ分からないが、一つだけ確かなことがある。

(勝負は、今夜だ……!)

次回投稿日:1月30日(火)予定


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― 新着の感想 ―
[良い点] レティシア攻略の勝負点! 頑張れイスラ、ここでたらし込まないとチャンスがなくなる。 この作品めっちゃ好きだから長続きしたら嬉しい
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