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47.名は体を表す

前回の話

イスラはノインと静かな時間を過ごした。

ミレイヌが魔力で動かせる車、通称『魔動車』を開発してから2か月ほどの時間が過ぎたが、早くも実用化の目途を立てたとの知らせが届いた。

その試作機を見せてもらえるとのことだったので、俺は王都郊外の工場地域に向かった。


以前ミレイヌの個人的な研究所に案内してもらったことがあったが、魔動車の開発にはもっと大がかりな施設が必要だと思ったため、ナスルに依頼して廃工場を一つ格安で丸々譲ってもらった。


その廃工場の入り口には『関係者意外立ち入り禁止』の旨が書かれた看板があったが、俺はそれを無視して中へと入った。

敷地内は荒れており、とても人がいるようには見えないが、奥の方に足を踏み入れると、二人の人物が俺を出迎えた。


「あ、イスラ様! ようこそお越しいただきました」

「本日はご足労いただきありがとうござます」


俺に声をかけたのは、魔動車の開発を主導したミレイヌと、資金面で援助してくれたナスルだ。


「二人ともお疲れ様。それで、魔動車の実用化の目途が立ったと聞いたけれど、実物を見せてもらえるのかしら?」


俺は挨拶もそこそこに本題を切り出した。

俺の質問にミレイヌは待ってましたとばかりに顔を輝かせた。


「はい! もちろんです! すぐにお持ちしますね!!」


そう言い残し、ミレイヌは倉庫と思しき方にトテトテと走っていった。

自分の努力の成果を早く見てほしいと言わんばかりの様子に俺は思わず苦笑した。


「イスラ様、ミレイヌ嬢の魔動具に対する知見や情熱は素晴らしいものがあります。しかし、私にはどうしても彼女は危なっかしいと感じますが、イスラ様はどのようにお考えですか?」


残されたナスルが俺に問いかけた。

ナスルは慎重な男だ。魔動車の有用性は認知しつつも、ミレイヌのことはまだ信じきれないのだろう。


「確かにあの子は子供っぽさが抜けきらないところがあるわ。けど、そういうところも可愛いと思わない?」

「イスラ様、私は真剣な話をしています」

「そう怖い顔をしないで。私なら彼女の危うさも含めてコントロールすることができるから大丈夫。あなたに必要以上の負担はかけさせないし、面倒をかけたとしても利益という形で還元させるから」

「それならばいいのですが」


ナスルは渋々といった具合で俺の言葉を聞き入れた。


そんな話をしていると、魔動車に乗ったミレイヌがこちらに向かってきた。

ミレイヌが乗っているのは動力を司る車の部分と荷物を載せるための台車が一体となった形状のものだ。

運転席部分はコンパクトな箱形で、その後ろに直に荷台が付いている。


「こちらが試作型の運搬用魔動車です。どうでしょうか、イスラ様」

「よくできているわね。荷台にはどのくらいの荷物を積めるの?」

「あまり重いものを載せると、魔力の消費が激しいですが、農作物程度であれば荷台いっぱいに積んでもある程度長距離を走れます」

「運転者の魔力が切れたら立往生するのは少し怖いわね」

「ご心配なく。運転席部分は複座式にしたので、長距離の場合は途中で運転者を交代させることも可能です」

「なるほど。抜かりないのね」


ミレイヌは俺の質問に対して的確に答えた。

俺が想像していたよりもずっと実用的で無駄のない作りになっている。


「イスラ様も乗ってみますか?」

「いいのかしら。それじゃあ遠慮なく」


俺はミレイヌの言葉に甘えて実際に運転席に座らせてもらった。

ミレイヌは隣の席に座り、順番に説明をしてくれた。


「そちらの魔法陣に魔力を込めると進みます。止める場合はその隣の魔法陣に魔力を込めてください。方向転換は手元のレバーです」

「ありがとう。それじゃあ早速…………すごい、本当に動くのね」


ミレイヌの指示に従い、恐る恐る動力用の魔法陣に魔力を込めると、ゆっくりと車体が動き始めた。

そのまま真っすぐ進むと壁にぶつかりそうだと思ったので、手元のレバーを操作して旋回を試みると、レバーを倒した方に向かって曲がり始めた。


「イスラ様、お上手です」

「そうかしら? ありがとう」

「私は何度も操作を誤って壁にぶつけてしまいました」


隣に座るミレイヌは恥ずかしそうにそう言ったが、確かにその辺の壁をよく見ると、不自然な傷や凹みが散見される。

開発者が運転下手というのは少し面白かったので、思わず笑ってしまった。


「イスラ様、笑うなんてひどいです!」

「ごめんなさい、つい、ね」


そんなやり取りがありつつも、ひとしきり操作を確認したところで、俺は制止用の魔法陣に魔力を込めて停車させた。

車は問題なく静止し、俺たちは無事降車することができた。


「軽く触っただけだけれど、操作性に問題はなさそうね。むしろ自分で動かす感覚が癖になりそうかも」

「イスラ様にも気に入っていただけて良かったです!」

「気になったのは旋回の操作だけど、レバーじゃなくて例えば円盤状の操作盤を回すというのはどう? その方が直観的に操作できるんじゃないかしら。あと、手元のレバーが少し多い気がするわ。一部は足元に移して足での操作にできない?」

「なるほど……検討してみます!」


俺はミレイヌに運転の感想と改善点を伝えた。

初めての操作のはずだが、既視感と違和感が同時に主張をしてくる感じがしたのは、前世で似たような乗り物に乗ったことがあるからに違いない。


しかしそんな改善点を残しつつも、この魔動車は売れそうだと確信させる素晴らしさを感じた。


まず自分で操作するという感覚が他では味わえない。

馬車も馬を操って乗ると言えなくもないが、それよりも自分の意志が反映されている気がして面白い。


それに馬は餌をやらなければ走らないが、魔動車は魔力さえ込めれば好きな時に動き、好きな時に止まる。

早く量産して普及させたいものだが、どのくらいで生産体制が整うだろうか。


「ミレイヌさん、魔動車の実用化にはどのくらいかかりそうかしら?」

「今はまだ動力となる魔動具の職人の確保と、車体の生産で手一杯ですが、あと3ヶ月もすれば売り出すことができそうです」

「3ヶ月!? 流石ミレイヌさんね。行動が早い」


俺はてっきり来年か、早くとも半年はかかると思っていたが、その半分の期間で生産体制を整えるとはミレイヌの対応の迅速さには驚かされる。

この行動力は素直に賞賛すべきものだ。


生産が問題なければ次は販路の開拓の話になるが、それについてはナスル商会がどう動くかにかかってくる。

俺はナスルにも聞いてみた。


「馬車組合の方はどうかしら? まだ報酬の増額をしろと騒いでいるの?」

「ええ、相変わらずですね。今は交渉で時間を稼いでいますが、魔動車が導入され次第、馬車は減らしていきます。なので一刻も早く魔動車の実用化をしていただけると助かります」

「ということはミレイヌが生産した魔動車はあなたのところに出荷することになるということね」

「はい。当面はミレイヌ様が作られた製品は私どもで全て買い取らせていただく算段です」


ナスルの受け答えには迷いはなく、横にいるミレイヌも何も言わないので、それに関しての事前の調整は済んでいるのだろう。

それならば俺が口を挟む余地はあるまい。


あと他に気になる点といえば……。


「そういえば、ミレイヌさん。これから魔動車の生産、販売はあなたが中心になって行うことになると思うけれど、新しい商会を作らなくてもいいのかしら?」

「えっ!? 私の商会ですか!? ……確かに言われてみればあった方がいいですね。どんな名前がいいでしょうか?」


ミレイヌは自分の屋号を持つことが頭になかったようだが、すぐに前向きに自分の商会の名前について考え始めた。


「イスラ様のおかげでここまで来られたので、『イスラ商会』というのはいかがでしょうか?」

「ミレイヌさん、それでは私の商会みたいだからやめて。あなたの名前で『ミレイヌ商会』とでもしたらいいんじゃない?」

「そんな適当な。イスラ様の名前も入れたいです……と思いましたが、『ミレイヌ商会』でいいかもしれないですね」


ミレイヌはやたらと俺の名前に拘ったが、最後はあっさりと俺の提案を呑んだ。

少しばかり嫌な予感はするが、本人がいいと言っているのだからこれでいいだろう。


その日は解散となり、後日改めてミレイヌの立ち上げた商会の屋号が公開された。

その名も『ミレイス商会』。

始めは誤表記かと疑ったが、どうやらこれで正しいらしい。


(ミレイヌの奴、やりやがった)


確かに『ミレイヌ』と『ミレイス』は字面も音も似ているが、意味合いは全く異なる。

『ミレイス』ではミレイヌとイスラの頭を取っているので、俺の名前も冠していることになる。


『申し訳ありません、イスラ様。ミレイヌ商会で登録したつもりが誤って登録されてしまったみたいです。ですが、もう名前は公開してしまったので、このままでいきます!』


そんな言い訳をするミレイヌの顔が容易に想像でき、俺は深くため息を吐いた。

次回投稿日:1月27日(土)予定


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