32.ハッピーバースデー(4)
前回の話
レティシアの誕生日を取り巻き全員でお祝いした。
※全話で誤字報告いただいた方、ありがとうございました。
楽しい時はすぐに終わると言うが、レティシアの誕生日を祝うために開催した茶会はあっという間にお開きになった。
レティシア以外の取り巻きは全員客間を退室し、屋敷の出口に向かっていた。
「イスラ、今日はありがとうな」
珍しくユフィーが真面目な口調で俺にお礼を言ってきた。
「何のことでしょうか?」
「レティシア様へのプレゼントだよ。私たちまでアクセサリーをもらっちゃったけど、いいのか?」
「もちろんです。レティシア様にも申し上げましたが、この星は私たち自身なのですから。……ユフィー様、なくさないでくださいね」
「なくさないよ! けど本当にありがとうな!」
ユフィーは照れくさそうに笑って自分の首から下がる星を手に取ると、俺の方に掲げて見せてくれた。
それにつられてか、ノインとミレイヌも俺への礼を口にした。
「……私のような者にまでこのような品をいただきありがとうございます」
「素敵なプレゼントを頂きありがとうございます。レティシア様も喜んでくださいましたね。流石はイスラ様です」
三人とも満足してもらえたようだが、俺のやるべきことはまだ残っている。
「そういえば、レティシア様にお伝えしなければならないことがあるのを忘れていました。皆さんは先にお帰りになっていてください」
俺はわざとらしく何かを思い出したかのような素振りを見せて他の三人を尻目に客間へと戻った。
「あれ、イスラちゃん、どうかしたの?」
客間に戻ると幸いなことにレティシアはまだ残っていた。
「私としたことが、レティシア様にお伝えしていなければならないことを言い忘れておりました」
「一体何のことかしら?」
レティシアは何のことか全く心当たりがないようだが、当然だ。
これは俺が用意したサプライズなのだから。
俺はレティシアの元に近づくと、彼女の首から下がっている星のアクセサリーに手を伸ばした。
先ほど俺たち取り巻きからレティシアにプレゼントしたものだ。
「失礼します」
俺はその星を手に取り、表と裏を両手で挟み込み時計の針のように回転させると、表面の部分がスライドし、そのまま引っ張ると二つのパーツに分解させることができた。
「イスラちゃん!? これはどういうことなの!?」
「ご心配なく。これはこういう設計のものなのです」
壊れたと思ったレティシアが驚きの声を上げたが、俺は落ち着いてこの星のアクセサリーの隠された仕様を説明した。
「レティシア様に差し上げたこのアクセサリーは特別仕様で、このように分解することが可能です」
「そうだったのね。でも一体どうしてこんな風にしたのかしら? 他の皆とは違うものなの?」
「はい。この仕様は中に物を仕舞うことができるようにするためのもので、レティシア様の星だけのものです。他の四人の星はこのように分解することはできません」
レティシアは一体なぜこのような仕様になっているか理解が追い付いていないようで、俺の説明を聞いても困惑した表情をしていた。
確かにこれだけでは意味が分からないのは当然のことなので、俺はレティシアの疑問を解消するための答えを取り出した。
俺が取り出したのは指輪ほどの大きさの小さなシルバーリングだ。
装飾は控えめにしているが、小さいながらも意匠を凝らした一品だ。
「こちらは私からレティシア様へのお誕生日プレゼントです」
「イスラちゃん、プレゼントは二つもいらないわ。一つで十分よ」
「いえ、この星のアクセサリーは友人一同からですが、こちらのリングは私個人からのものです」
レティシアは俺が二つ目のプレゼントを用意したことに抗議したが、俺はそれを屁理屈で流した。
レティシアは余計に困惑しているが、リングを手に取ってくれた。
そしてリングの内側に彫ってある文字に気が付き、目を細めて読んでくれた。
「『最愛の親友へ イスラより』……っ!」
レティシアは読み終えると目を見開いて目に涙を浮かべた。
俺は先ほど分解した星の中の空洞をレティシアに見せた。
「そのリングはこちらの星の中にお納めください」
レティシアは言われるがままにリングを星の中に仕舞ったので、俺は分解されていた星を再び元の状態に戻した。
取り巻き含めた五人の友人関係の中に俺とレティシアという二人だけの秘密の関係が隠れているという構図を上手く表している。
「それと、改めて言わせてください。レティシア様、お誕生日おめでとうございます。そして、生まれてきてくれてありがとうござます」
それまで涙を目に貯めていたレティシアは勢いよく俺のことを抱きしめて、
「イスラちゃん……イスラちゃん……」
と泣き声で俺の名を呼び続けた。
レティシアの温かさ、柔らかさ、匂いを間近で感じることができたが、耳元で時折鼻を啜るズルズルという音を立てられたので雰囲気は台無しだ。
「私はここにいますよ」
俺はあやすようにレティシアの頭を優しく撫でてやった。
彼女のしなやかな髪の上を指が滑る感覚は悪くなく、他にすることもないので何度も撫でた。
しばらくすると、レティシアは泣き止んだようで俺から離れるとハンカチで涙と鼻水を拭った。
「イスラちゃん、ごめんね。私ったら嬉しくて取り乱してしまったわ」
ようやく普通に話せるようになったが、レティシアの目と鼻は赤く腫れていてひどい顔だ。
泣いたことで気が抜けたのか、いつもの気品の高さよりも年相応な幼さを感じさせた。
本来、彼女ほどの年の小娘であればこのくらいの力の抜け方が普通だと思うが、いつもはもっと大人びた振る舞いをしている。
つくづく歪んだ成長の仕方をしていると感じさせられる。
「でも、本当にありがとう。今日は今までで一番嬉しいプレゼントを貰えた日として一生忘れないと思う」
「喜んでいただけて良かったです」
心から嬉しそうにするレティシアに対して俺も笑顔で応えたが、内心ではそろそろ次のステップに進んでもいいのかもしれないという思いを抱いていた。
レティシアと出会って一年近くが経った。
この一年で俺はかなりレティシアと親密な関係になれたと思う。
しかし、俺の狙いはあくまでアバン王子であり、その婚約者のレティシアは本来、排除の対象であるが、ここまで彼女の信頼を得られた今ならばいくらでも手は打てるはずだ。
(来年の今日にも今回と同じような祝い事はしないで済むようにしたいものだ)
今年中には何かしらの形でアバン王子とレティシアの婚約破棄のための計画を進める決意を固めつつ、俺はレティシアに偽りの優しさを振りまくのだった。
次回投稿日:12月16日(土)か17日(日)予定
※時間もいつもとずれる可能性があります。
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