30.ハッピーバースデー(2)
前回の話
レティシアの誕生日を前にして、取り巻きだけでお祝いの方法を話し合ったのだった。
「よし、それじゃあ話し合いは終わったみたいだし、遊ぼうか!」
レティシアへの誕生日プレゼントに関する打ち合わせは大体俺が全部用意するという結論で終わったわけだが、すかさずユフィーが遊びの提案をしてきた。
この前俺が一人で来た時も同じような流れになったので特段驚くようなことでもない。
「ユフィー様、何をされるおつもりですか?」
「うーん、やっぱり難しい話をした後だから体を動かしたいな。天気もいいし、今日もテニスしないか?」
俺は何となくユフィーがテニスを提案してくることが分かっていたが、正直あまり気乗りはしない。
ユフィーはテニスがとても得意なので、相手をすると疲れる。
しかし、あの程度の打ち合わせが難しい話だと思われているというのは予想外だった。
ユフィーにはもう少し知性を付けてほしいと思う反面、馬鹿な方が扱いやすいからこのままでいいかとも思う。
どうしたものかと考えていると、ノインとミレイヌから意見が上がった。
「……テニスはこの前やりました。今回は室内でできる読書などいかがでしょうか」
「外は寒いのでお茶でも飲んでゆっくりおしゃべりでもしませんか?」
ノイン、ミレイヌからしたらユフィーはかなり格上の貴族令嬢なのだが、先ほどの言い合いで遠慮がなくなっているのか、当然のように自分の意見を言っている。
俺は恐る恐るユフィーの様子を確認した。
「えー!! 部屋の中でじっとしてるのは飽きたから運動したい!!」
ユフィーは二人の意見に不満を述べてはいるが、特に気分を害した様子はない。
もしかしたらユフィーは自分の意見が通らないことに怒るかもしれないと思ったが、杞憂だった。
彼女は馬鹿だが、自分の権力に無頓着で格下の者も対等に扱うことができる希少な貴族令嬢だ。
「……私たちはレティシア様の周囲にいるのにふさわしい知性を身につけなければならないと思います」
「せっかくの機会ですし、もっとお話ししましょうよ」
そんなユフィーの親しみやすい性格に充てられてか、ノインとミレイヌも引き下がる素振りを見せない。
そういえば、さっきもこんな感じで話がまとまらなかったな。
そして次の展開も同じになる気がする。
「イスラはどう思う!? テニスしたいよな!?」
「……本を読みましょう。イスラ様には私がとても勉強になった本をご紹介します」
「イスラ様もおしゃべりするの好きですよね? ついでに新しい商売を考えるのを助けて下さい」
案の定三人は俺に意見を求めてきた。
さっきの場合はどの意見も論外だったが、今回はどの意見を採用してもいい。
しかしあえて選ぶとなると、やはり角が立ちそうなので運に任せるのがいいだろう。
「それではこれから何をするかを、ゲームで決めるのはどうでしょう?」
俺はユフィーに頼み、屋敷にあったトランプを拝借した。
俺はそれをテーブルの上に扇状に広げ、スペード、ハート、ダイヤ、クラブの4つのスートの札がそれぞれ1~10、J、Q、Kの13枚ずつ、計52枚とジョーカーが1枚入っているのを全員で確認した。
「ここはわかりやすく、ポーカーの一発勝負でどうでしょうか? 一番役が高かった人の意見を採用ということで」
正直俺はこの後何をすることになろうがどうでもいいので、じゃんけんでもサイコロでも何でも良かったのだが、早く終わる勝負にするより、あえて多少時間をかけることを選んだ。
このゲームはあくまで先ほどの不毛な口論の決着をつけるための手段ではあるのだが、その手段を面倒にすることで、本来の目的である誰の意見を採用するかという目的を曖昧にしようという狙いだ。
早い話がトランプを配っているうちに、先ほどの不毛な議論のことなど全員が忘れてしまえばいいのだ。
そのために俺はあえて役の説明をしたり、カードの裏面に傷が付いていないかの確認をしたりしてゲームの開始までに時間をたっぷりと使った。
そしていよいよカードを配ろうかという時にミレイヌが口を出してきた。
「イスラ様、カードを配るのは私にお任せ下さい。イスラ様はおかけになってお待ちいただければ大丈夫ですよ」
「そう? ありがとう」
ミレイヌは自然な気遣いといった雰囲気で俺に手を差し出した。
これが絶対に負けられない勝負であれば、カードの扱いを他人に預けるなど考えられないが、誰が勝ってもいい勝負なので俺は素直にミレイヌにカードの束を渡した。
ミレイヌはトランプを受け取ると、小気味よくシャッフルを始めた。
(……こいつ、イカサマする気か)
ミレイヌのシャッフルは一見すると普通の動作だが、よく見ると一番下のカードがずっと下に残り続けている。
さっき全員で確認した時に、一番下にあったカードはジョーカーだ。
ポーカーのルールでジョーカーはオールマイティ、つまり最強の札だ。
ミレイヌはシャッフルを終えると、全員にカードを配り始めたが、案の定自分の前に配る札の一枚をこっそりと一番下から取り出していた。
その間、ミレイヌはいつもと何も変わらない笑顔でいた。強かな女だ。
(ここはミレイヌに勝ってもらうか)
正直に言うと、俺としては読書が一番楽なのだが、テニスよりは茶を飲みながら話すだけの方が楽なので、ミレイヌの勝利は俺にとって悪い話ではない。
他の二人はミレイヌの不正に一切気が付いていないようなので、俺も何も言わずにゲームを開始した。
手札を確認したところ、俺の手札は3,7,7,10、Kの五枚だった。
通常であればペアの7を残し、他の3枚を交換してスリーカードやフルハウスを狙うのが定石だ。
「4枚交換で」
しかし俺はあえて3を残し、他の四枚を裏向きにして捨てた。
この勝負は誰が勝っても構わないのだが、唯一俺が勝つことだけはできない勝負なので、あえて負けにいくための手を打った。
引いたカードは5、5,7、Qだったので、俺の役は5のワンペアだ。
(普通にやっていたらフルハウスか)
無駄に運を使ってしまったことにモヤモヤしつつも、勝負を捨てている俺は他のやつらのプレイを見物させてもらうことにした。
まずはミレイヌ。
「二枚交換しますね」
ミレイヌの交換が二枚。彼女の手札にはジョーカーと何かの数字のペア、つまりスリーカードがあることは確定だろう。
交換した二枚の札を見てもミレイヌは特に表情を変えなかった。
見事なポーカーフェイスだ。
次にノイン。
「……四枚交換します」
ノインの交換は四枚。あまり初手は良くなかったのだろう。
さしずめペアがなかったので、一番強いカード一枚を残して交換、といった具合か。
終始表情は変わらなかったが、ノインはいつも表情の変化に乏しい。
こいつも見事なポーカーフェイスだ。
最後にユフィー。
「うーん、一枚でいいや」
ユフィーの交換は一枚。普通に考えれば既にツーペアができているか、ストレートやフラッシュを狙っていると見るべきだが、如何せんあのユフィーのプレイだ。セオリーを大きく逸脱している可能性も捨てきれない。
「おー!!!」
そしてユフィーは交換したカードを見るや否や声を出して感嘆を露わにした。
目当てのカードを引けたのが丸わかりだ。
本来のポーカーであればここからがベット、レイズ、ドロップの駆け引きが生じる一番面白い部分なのだが、今回はお遊びのため、その一番面白い部分が省略される。
「それではカードをオープンしましょう」
味気ないオープンを宣言した俺は無様なワンペアを晒して他の三人にもカードの公開を呼び掛けた。
「皆さんの手はいかがでしょうか?」
「私はスリーカードです」
ミレイヌの晒したカードは3,9、A、A、ジョーカーで、エースのスリーカードだ。
フルハウスこそ逃しているものの、かなり強力な手だ。
「……ツーペアです」
ノインのカードは2,2、4,K、Kのツーペア。
初手でKを残したら運よくツーペアまで伸びたといったところか。
「私もスリーカードだ!」
ユフィーの手札は6、6、6、J、Jで6のスリーカード……いや、よく見たらフルハウスだ。
「ミレイヌもスリーカードなんだな。これはどっちの勝ちなんだ?」
しかし当のユフィー本人はそのことに気づいていない。
「ユフィー様、その手はスリーカードではなく、フルハウスです」
「え、スリーカードじゃないのか? 結局誰の勝ちなんだ?」
「ユフィー様の勝利です」
「そうなのか? やったー!!」
ポーカー勝負は勝者が勝利を自覚しないまま終わるという盛り上がらない幕切れで決着した。
ジョーカーをイカサマで自分の手元に引き込み、Aのペアを引いた上で負けてしまったミレイヌはポーカーフェイスを崩して悔しそうな表情をのぞかせていた。
「さて、ゲームで遊んだことですし、そろそろお開きに……」
「ちょっと待ってくれ、イスラ。私が勝ったってことは、テニスしてもいいってことだよな!?」
俺はさり気なくこの場を解散させようとしてみたが、ユフィーはこのポーカーの目的を忘れてはいなかった。
目をキラキラさせて俺に勝者の特権を確認してきた。
「そうでした。私としたことがすっかり忘れていました」
「イスラがおっちょこちょいするなんて珍しいな。まあいいや。それじゃあ全員着替えて外に集合だ!!!」
こうしてこの日もテニスをすることになり、自分の屋敷に帰る頃には心地よい疲労感に身を包まれることになったのだった。
次回投稿日:12月10日(日)予定
今まで3日に1回の投稿を目途にしていましたが、今後は週に2回の投稿にしようと思っています。
12月中は不定期の投稿になる可能性がありますが、曜日は固定化する予定です。
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