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17.新年会(2)

前回の話

イスラとユフィーはアバン王子の前でやらかしてしまったので、二人で改めて王城に謝罪に行くことになった。

新年会から数日後、王城から改めて招待状が届いた。

今回の登城はユフィーと一緒に行かなければならないわけだが、彼女が予想外の言動を取ることで場をかき乱すのは困る。

ただでさえアバン王子の考えが読めない以上、不確定要素は少ない方がいい。


というわけで、俺はアバン王子との面会の前にユフィーと作戦会議をすることにした。

ユフィーの家であるグリーア伯爵家の屋敷へと赴き、客間に通されるとすぐにユフィーはやってきた。


「いらっしゃい、イスラ!」

「お邪魔しております、ユフィー様」


ユフィーはいつも通りの様子で部屋に入ってきた。

いつもと違うのは着ている服くらいで、それもいつもよりも部屋着っぽいなと感じる程度の違いだ。

そういった意味で彼女と会う時は安心感すら覚える。


「この前王城から手紙が届いたんだ。イスラもか?」

「はい。私のところにも届きました。今度私たち二人でアバン王子にこの前の新年会での粗相を改めてお詫びしなければなりません」

「うん。それは分かった」


ユフィーが現状をどれだけ正確に理解できているか分からないので、できるだけかみ砕いて説明するよう心掛けているが、ここまでの話は理解できているようで一安心した。


「だけど一つ質問してもいいか?」

「はい。なんでしょう」

しかし早速ユフィーは手を挙げて疑問を口にした。


「アバン王子は私たちが肩車してたことをそんなに気にしてなかったと思うんだけど、イスラは王子に謝らせてくれ、って言ってたよな。あれは何でなんだ?」


ユフィーは俺に質問をすると首をかしげて難しそうな顔で考え始めた。

もちろんその目的は俺がアバン王子との接点を作れないか考えた末の苦肉の策だったわけだが、ユフィーにそのようなことを正直に伝えるわけにはいかない。

上手い言い訳を考えなければならないと思ったが、相手はユフィーなので適当でも大丈夫か。


「私は心配性なので、アバン王子が本当に気にしていないかを確認したかっただけです」

「そうなのか。……ということはアバン王子が謝りに来いと言ったのは、やっぱり怒ってたからなのか!?」

「そうかもしれないし、そうではないかもしれません」

「イスラの言うことは難しいな」


ユフィーは勝手にあれこれ思案しているようだが、恐らく的外れなことばかり考えている。

どんな風に物事を考えているのか一度頭の中を見てみたいくらいだ。

少しの間その様子を観察していたが、最後は何か納得したように頷いた。


「うん、やっぱり分からないな」

最終的に出た結論がそれだった。実に潔い。


「私は馬鹿だからさ、難しい話は分からないし、イスラの言う通りにするよ」

「それでいいのですか?」

「もちろん。イスラって賢そうだし、きっと大丈夫!」


ユフィーは考えるのが面倒になったのか、王子への対応を俺に丸投げした。

ある意味合理的な選択ではあるのだが、この貴族社会の中で格下の貴族相手にも偉ぶらずにこういった選択ができるのは彼女の美徳でもある。


真に愚かな者は対策を俺に考えさせた上で、その策をさも自分で考えたかのように実行して、その策の本質を理解していなかったことが原因で失敗する。

その点において俺はユフィーのことを高く評価している。


「分かりました。それでは当日の作戦をお伝えします」

「頼んだ!」

そして俺はユフィーに王子との面会における想定パターンをいくつか伝え、どのように振る舞えばいいかをレクチャーした。


「……以上になりますが、質問はございますか?」

「話がたくさんあったから忘れそうだ」

「本日帰り次第、要点をまとめた手紙を出させていただきます。当日までに覚えていただくようお願いします」


説明が終わると、ユフィーはぐったりした顔をしていた。

あまり難しい話はしないようにしたつもりだが、ユフィーにしては頑張った方なのかもしれない。


「それじゃあ難しい話も終わったことだし、遊ぼうか!」

「……はい?」


ユフィーは直前までぐったりしていたが、遊びの提案をする時には急に元気になった。

俺も今日は王子との面会の際の準備のために来ていたので、遊びに来たわけではない。

しかしユフィーは満面の笑みで俺の手を取り、部屋から連れ出すのだった。


「というわけでテニスをしよう!」

「……どういうわけなのかは分かりませんが、まあいいでしょう」


ユフィーは使用人にも声をかけ、ドレス姿の俺を動きやすい恰好に着替えさせた後に屋敷の庭の一角に備え付けられたテニスコートに移動した。

いつの間にかユフィーも着替えを済ませており、準備万端といった様子だ。


そして俺たちはコートの対角に立ち、お互いにラケットを構えた。

早速、ユフィーは手に持っていたボールを宙に投げてサーブを構えた。

そして彼女がボールを打った次の瞬間には俺の横をそのボールが過ぎ去った。


「実は私、テニス得意なんだ」

「……もう一回同じ球をお願いします……」


俺は運動がそこまで得意な方ではないが、テニスは嗜む程度にはできる。

しかしユフィーはその程度では全く相手にならないほどの実力だった。


何度か先ほどと同様の威力のサーブを打ってもらったが、かろうじて球を打ち返せても、その後が続かない。

結局一度もまともに得点となるような球を返せないまま、ユフィーは手加減モードに入ったのか、緩い球を送ってくるようになった。


それからは仲良くラリーを繰り返して数十分が経った頃にテニスは終了した。

「いやー、付き合ってくれてありがとうな」

「こちらこそお相手いただきありがとうございました。ユフィー様はテニスがお上手なのですね」

「イスラも悪くなかったぞ。まあ、私ほどではなかったけどな」


テニスの腕前を褒めると、ユフィーは上機嫌になった。

レティシアとは違って適当に褒めるだけでも嬉しそうにしてくれるので分かりやすい。


「ユフィー様はテニスがお好きだから私を誘ったのですか?」

「それもあるけど、何となくイスラにいいところを見せたかったんだ。私にもイスラに負けないところがあるんだぞ、って」

「ユフィー様は私よりも身分が高いではないですか」

「それは私たちの両親の問題だろ? 私が、イスラに勝ってるところってテニスが上手いこと以外に思いつかなかったんだ」


ユフィーは目を伏せながらラケットを手元でクルクルと回して俺から目を反らした。

彼女は上下関係をあまり気にしない性格をしていると思っていたが、一丁前にマウントを取ってきたことを少し意外に感じた。


ラスカルが居なくなった今、レティシアの取り巻きの筆頭は他でもないユフィーだ。

このまま彼女が俺への劣等感を募らせて敵対心にまで発展するのは絶対に阻止したい。

取り急ぎ、今の状況は打開せねば。


「私と比べて勝った、負けたなど、些細なことです。ユフィー様にはユフィー様の良さがあるのですから」

「……例えば?」


ユフィーは少し期待した目でこちらを見た。

暗に褒めてほしいのが伝わってくる。

ここまで分かりやすく期待されているのだから、応えてやるしかないだろう。


「ユフィー様はいつもご自分の心に素直だと思います。ユフィー様が嬉しそうにしている時、私にもそのお心が伝わってくるのです」

「そうかな?」

「はい。もちろん、他の方も自分の気持ちを顔や態度で表しますが、ユフィー様が一番自分らしさを表現していると思います。私はそんなユフィー様が好きですよ」


俺は言葉で褒めるだけではなく、ニコリと笑ってユフィーと目を合わせた。

こういう時のために笑顔の練習は日々欠かさないようにしている。


ユフィーは一瞬驚いた顔のまま固まったが、すぐに嬉しそうな顔になり、俺に抱き着いてきた。

ほんのり汗の臭いがするが、嫌な感じではない。


「やっぱりイスラは良い奴だな。よしよし」

「頭を乱暴に撫でないでください」


そして俺の頭をワシャワシャと撫で回した。

髪が乱れるからやめてほしいのだが、上機嫌なユフィーに水を差すのも躊躇われたので、一言注意するに留めた。


「ごめんごめん、つい嬉しくて」

「ユフィー様は仕方ない方ですね」


俺の注意でユフィーは素直に動きを止めた。

その間に俺はユフィーを引きはがし、手櫛で髪を整えたが、ユフィーはこちらをニコニコとした顔で見つめていた。


「ユフィー様、私の顔に何か付いていますか?」

「いや、別に?」


じっと見つめられるのは何となく気まずい。

用事も済んだわけだし、そろそろ帰ろう。


「それでは私はこれで失礼しますね」

「うん。イスラ、また遊びに来いよ」

「はい」


俺は来た時と同じ服に着替えてユフィーの屋敷を後にした。

ユフィーは俺を見送りに玄関まで来てくれて、手を振ってくれたが、その後何度か振り返っても同じように手を振り続けてくれていた。

次回投稿日:3~5日後

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