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123.親の心、子知らず(2)

前回の話

イスラはミレイヌの父であるキケロ男爵と会った。

王都郊外の小さな倉庫。

一見何の変哲もない倉庫なのだが、ここは実はミレイヌが新しい魔道具を開発するために使用している『研究所』なのだ。


関係者以外立ち入り禁止の看板を無視してその中に入る。

倉庫内ではミレイヌがウンウン唸りながら何かを考えているようだった。


「こんにちは、ミレイヌさん」

「イ、イスラ様!? どうしてここに!?」


声をかけられたミレイヌは大きな声を上げて驚きを示し、私の存在に目を丸くした。

私がこの場所の存在を知ったのは前世でミレイヌ本人に教えてもらったからではあるものの、今世では誰にも教えてもらっていない。

それでもあえて私はここに来た。


「ミレイヌさん、あなたは家族に対する不満を持っているわね?」

「えっ……はい、まあ」

「見返したいとは思わない?」

「はい、思います」

「なら私が協力させてもらうわ!」

「!?!?」


私はあえて間髪入れずに捲し立てたが、ミレイヌは会話のテンポに付いて来られずにアタフタしている。

あまり余計な話をして本題をうやむやにするよりは、こちらの方が分かりやすい。

ミレイヌが抱える問題を解決するためにできることをしよう。


「あの、イスラ様……?」

「何かしら、ミレイヌさん?」


ようやく理解が追い付いてきたであろうミレイヌがおずおずと私に声をかけた。

理解が追い付いた、と言っても恐らく彼女はこの状況をほとんど飲み込めていない。


「イスラ様はどうしてここの存在を知っていたのですか? それに私が家族を良く思っていないことも」

「それはミレイヌさんに教えてもらったからよ」

「えー! 私そんな話しましたっけ!? 一体いつのことでしたでしょうか……?」


ミレイヌが頭を抱えてありもしない記憶を思い出そうとしているのを見て、少しだけ申し訳ない気持ちになったが、嘘は言っていない。

気を取り直してまずはミレイヌ本人の話を聞くことにした。


「ミレイヌさん、あなたはどういう風な事業を考えているのかしら?」

「まだ具体的な構想はありません。ここで画期的なアイデアを生み出して、それを元に商売を始めようと思っているのですが……」

「発明品はどういうものを作っているの?」

「いろいろですね。最近だと自動でお茶を淹れるための魔道具なんかを作ってみました。見てみますか?」

「いえ、大丈夫」


今のミレイヌの状態は前世で私が魔動車について教える前の彼女の状態に近い。


彼女が教えてくれた自動お茶淹れ器も前世に教えてもらったことがあるし、実演で使用してもらったこともある。

筒状の魔道具で、中に茶葉と水を入れると注ぎ口からお茶が出て来る代物だが、できたお茶の味はお世辞にも美味しいとは言えなかった。


前世ではここで魔動車の原理を思いついた(思い出した?)ことがきっかけで私もミレイヌも大きなビジネスを発展させることができたし、事業の方向性が決まってからのミレイヌは驚異的な集中力で改良を重ねてくれた。


彼女にはポテンシャル自体はあると思うが、今はまだ何か画期的な発明をしたいという気持ちだけが先走っていて空回りしているように見える。


「ミレイヌさんは何のために新しい商売を考えているの?」

「それは家族を見返すために……」

「商売というのはあなたの復讐の手段であるべきではないわ。誰かのために行うことが、結果的に自分の利益になるようにするようにしないと」

「なんだか今日のイスラ様は父のようなことを言いますね」


商人についての心得を説いたらミレイヌは露骨に不機嫌そうな顔をした。

やはりキケロ男爵もミレイヌにはそういったことを伝えてはいるものの、ミレイヌ自身が反抗期で聞く耳を持たないだけのようだ。


「ミレイヌさん、聞いて。今のあなたは家族を見返すという目的だけで動いていて、そこに対する道のりが定まっていない状態なの。自分でも何がしたいか分からない。そんな状態では誰もあなたのことを認めることはないでしょう」

「じゃあ私はどうしたらいいんですか!!!」


倉庫の中にミレイヌの叫び声が響く。

ミレイヌもまた自分の気持ちに整理ができておらず、苦しんでいるのだ。


自分でもどうしたらいいか分からない。

それは優しくしてくれる誰かの操り人形になってしまいかねない危険な状態だ。

だから私はミレイヌに甘い言葉をかけることはできない。


「それはミレイヌさん自身で決めることよ」

「そんなこと言われても分からないです……」

「なら、なぜミレイヌさんは商売に拘るの? ご家族を見返すだけなら他の方法もあるでしょうに」


優しい言葉をかけることはできないが、それでも彼女の道を選ぶ助けにはなりたい。

ミレイヌは今、誰の助けもなく孤独な思いをしているに違いない。

だけど、彼女はそれを乗り越えるだけの能力を持っていると私は信じている。


「小さい頃、初めて魔道具を触った時に思ったんです。誰でも簡単に火や水を出すことのできる道具があることは素晴らしいことだ、って。大きくなってからそんな魔道具の流通に関して父が大きな功績を持っていることを知りました。その時、私もそんな商人になりたいと思ったんです」

「…………」

「魔道具のおかげで私達の生活は快適になっている。私もそんな風に誰かの役に立つようなものを作ってみたいです」


ミレイヌが静かに語ってくれた彼女の原体験。

今は家族への反抗心で濁っているが、元々は誰かのためになりたいという優しい気持ちがあったのだ。

ならばそこから始めればいい。


「ミレイヌさん、あなたの気持ちはよく分かったわ。そんなミレイヌさんに一つだけ私の持っているアイデアを教えてあげるわ」

「何ですか?」

「世界を変えることもできるほどの革命的な技術よ。だけど、それをどう使うかはミレイヌさん次第」

「えっ……?」


動揺するミレイヌに、私は魔動車の原理を教えることにした。

結局は私の知識で状況を動かすことにはなるが、どう活用するかの決断はミレイヌに託す。

今のミレイヌに対する不安はない。


数週間の日が経ち、季節もすっかり秋が深まった。


そんな折、私はミレイヌから再度あの倉庫に招待された。

何でも私が教えた魔動車の技術を改良して試作品ができたので見てほしいということだ。


それに加えて、キケロ男爵にもそれを見せるらしい。

親子でどんな会話が生まれるかも含めて、非常に楽しみだ。


私がミレイヌの『研究所』に到着すると、既にミレイヌは父親であるキケロ男爵に試作品を見せているところだった。


「これがあれば平民の移動も楽になるはずです!」

「ふむ」


ミレイヌが作ったであろう試作品は前世の時に作った初期型の魔動車よりもかなり大きめのものだった。


運転席の構造は大きく異なる点はないが、後部座席がとても多い。

十人は乗れるほどのサイズであり、多くの人を運ぶことに特化した形だ。


前世では貴族向けの2~4人ほどが乗れるサイズのものと、荷物を運ぶための荷台牽引用のものをメインで作っていたため、こういった形状のものはほとんど流通していなかった。


「あ、イスラ様! 丁度いいところにいらっしゃいました!」


ミレイヌも私の存在に気が付いたようで、声をかけてくれた。


「ミレイヌさん、これは平民が使用する想定の魔動車ね」

「はい! 街中を巡回して安価で移動できるような手段として活用することを想定しています!」


ミレイヌが考えたのは平民の移動手段としての魔動車らしい。


確かに王都の中もいくつかの区画に分かれており、徒歩で移動するのは体力を使う。

かといって馬の飼育にはコストがかかるため、今まで誰も平民のために馬車で王都内の移動手段を作ろうという者はいなかった。

維持費が馬よりも格段に安い魔動車ならではの発想だ。


「キケロ男爵はミレイヌさんのこのアイデアをどう思われますか」

「即断はできませんが、検討に値するでしょう。……これはイスラ様のアイデアなのですか?」

「いいえ。確かに魔動車の原理について少しだけ教えましたが、ここまでのビジネスモデルに発展させたのはミレイヌさん自身の努力の賜物です」

「そうでしたか……」


ミレイヌのアイデアについてキケロ男爵に意見を求めると、文句はないようで娘の成長を喜んでいる様子さえ伺わせた。


「どうですか、お父様!! 少しは私のことを見直しましたか!?!?」

「ああ。よくここまで考えたな」

「そうでしょう! もっと褒めてくれてもいいんですよ!?」

「あまり調子に乗るな。みっともない」

「酷い!」


ミレイヌもここぞとばかりに自分の努力を父親にアピールし、キケロ男爵も素直にそれを認めた。

親子の間での微笑ましい一幕。


前世でもミレイヌの色んな表情を見てきたが、今が一番輝いているかもしれない。

それほどまでに嬉しそうな顔をしている。


「時にイスラ様。今私が運営しているリベール商会ですが、新しい事業を考えているのは以前説明させていただいた通りかと思います。その成功のためにも、ミレイヌが提案してくれた事業を起こすのにも経営に携わる優秀な人間の人手が足りません。もしよろしければ我が商会に力をお貸しいただけないでしょうか?」


娘とのやり取りの中で、キケロ男爵が不意に私に一つの提案をしてきた。

彼の商会であるリベール商会の経営に関して協力をしてほしいという申し出だ。


私は前世ほどの関わりはないにしろ、ナスル商会とも関わりのある身なので、どうしたものかと思案していると、ミレイヌが私の腕に横から抱き着いてきた。


「ダメですよ、お父様。イスラ様は私の友人なんですから! 勝手に取らないでください!」

「まったく、仕方のない娘だ。……イスラ様、これからもミレイヌのことをよろしくお願いします」


紆余曲折はあったものの、困難だと思っていたミレイヌの問題も最善に近い形で解決できた。


今のミレイヌの目は前世で私に依存するだけだった時の虚ろな影は一切なく、自分の力で世界を良くしていこうという活気に満ちている。

これからもミレイヌの友人として、彼女の進む道を支えていこう。

次回投稿予定日:9月3日(火)

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