114.みんなで! 温泉旅行(5)
前回の話
イスラは温泉旅行の最中、ミレイヌと親交を深めた。
本日二度目の温泉タイムを終えて部屋に戻った私達は、夜も深まってきたため、就寝の準備をしてフカフカのベッドでゆっくりと休んだ。
……という風になるはずだったのだが、
「部屋に戻ったらトランプで遊ばないかしら? 昔読んだ本の中にそういう描写があったのが印象に残っていて、少し憧れがあるの」
というレティシアの鶴の一声で急遽トランプ大会が実施されることになった。
私達一行は7人だが、全員でできるゲームが思い浮かばなかったため、トーナメント戦で一番を決める運びとなった。
そして肝心の種目だが、一対一でも遊べるものとして神経衰弱が選ばれた。
協議の末、今回はトランプ全部ではなく、1~9の数字を2枚ずつ、計18枚での短期戦となった。
「それではみなさん、クジを引いてください」
出発の時と同じように私は皆にクジを引かせた。
号車決めに使用した棒クジをアレンジして、対戦相手を決めるためのものに再利用することができた。
クジの結果、対戦カードが以下のように出そろった。
第一回戦:ラスカル対ミレイヌ
第二回戦:私対ユフィー
第三回戦:レティシア対ノイン
残ったアンリはシード枠となり三回戦の勝者と戦う流れだ。
「それでは、ラスカル様、ミレイヌさん、位置についてください」
なし崩し的に進行役は私になったので、カードを切って裏面にしたまま綺麗に並べた。
「ミレイヌさん、負けないわ~」
「こちらこそ負けませんよ~」
温泉でゆっくりした我々からしたら、遊びとはいえ今更真剣勝負というような空気にもならない。
ラスカルとミレイヌの気の抜けた掛け合いから和気藹々とした雰囲気でゲームが始まろうとしたが、それに待ったをかけたのはレティシアだった。
「勝負は真剣にやらないとつまらないわ。優勝者には特別に王族献上用のフルーツケーキを食べる権利をあげる。王族や、それに近しい最上位の貴族しか入手できなくて、私でも年に一度しか食べられないほどの希少なケーキ。とても美味しいのだけれど、みんな興味ない?」
レティシアの言葉を他の令嬢は皆静かに聞き入った。
レティシアですら年に一度しか食べることができないほどの一品。
恐らく私のような低級貴族では一生お目にかかれないような代物。
そう考えたのは他の全員も同様だったみたいだ。
「ミレイヌさん、悪いけど本気で勝たせてもらいます」
「ラスカル様、先にお詫び申し上げます。手加減できずに申し訳ありません」
ラスカルもミレイヌも先ほどとは明らかに様子が違う。
表情が一気に真剣になった。
そんな空気の中改めて第一回戦の火ぶたが切って落とされた。
先行のラスカルが引いたのは3と6。
ラスカルはその札を数秒間凝視してから元の場所に戻した。
同じようにミレイヌもカードを2枚表にしたが、それも2と9で揃わない。
ゆっくりとした立ち上がりだが、二巡目から早速動きがあった。
ラスカルが引いたのは1と3。
二枚目に引いた3は一巡目とは異なるものだ。
ラスカルが顔をしかめるのとは対照的にミレイヌはニヤリと笑った。
当然、二巡目のミレイヌが引いたのは3と3。
ミレイヌが一組先取した格好だ。
そしてペアを引けた者はもう一度札を捲ることができる。
次にミレイヌは1と5を引いた。
ここでもラスカルにヒントはない。
ラスカルは巻き返しを狙うも、次の巡で引いたのは7と5。
再びミレイヌにヒントを与えただけだった。
この後もミレイヌは順調にリードを広げて、最終的にミレイヌの勝利で終わった。
「ラスカル様、ご無礼!」
「ぐぬぬ」
ラスカルはミレイヌの勝利宣言に悔しそうな顔をしている。
この二人がこんな風なやり取りをしているのを見るのは感慨深い。
旅の空気がそうさせただけかもしれないが、こういうコミュニケーションも大事なことだ。
続いて第二回戦の私対ユフィーの対戦が始まった。
「イスラ、負けないぞ!」
「ユフィー様、申し訳ありませんが私がユフィー様に負けることなど万に一つもあり得ません」
私も多少リップサービスを乗せた煽りを入れつつ、先行の一巡目の札を引いた。
結果は1と2。
一巡目で揃わないのは当然だ。
位置だけ覚えて裏向きに直した。
そして後攻ユフィーの一巡目。
「これと、これだ!!」
ユフィーが勢いよく捲った札は7と7。
見事に一発目で揃えてきた。
「お、揃ってるな。これは私のでいいんだよな!?」
運よく先制したユフィーはご機嫌で別の2枚の札を選んで表にした。
その結果は4と4。
なんと全く情報のない状態から2連続で揃えてきた。
(そういえば、ユフィーは前世でも運が良かった)
前世でもユフィーとはポーカーとジョーカーゲームの2種類のトランプゲームで遊んだことがあったが、ユフィーは何だかんだ負けない。
天性の運の良さがあるとしか思えない。
もしかしたら、今回もこのまま完封されてしまうのだろうか?
「どんどんいくぞ~」
勢いに乗ったユフィーが引いたのは6と1。
ここでようやく私に手番が戻り、二枚の位置が明らかになった1を揃えてから連続で引いたのは9と6。
これで二枚の6の位置も分かってしまった状態でユフィーに手番が回る。
やはりついていない。
次の手番で再びユフィーは得意げにカードを捲った。
そのカードは3と2。
どうやらユフィーは2枚の6の位置が明らかになっていることに気が付いていない。
そして、ついでに2の位置も私にバラしてしまった。
私は冷静に2のペアと6のペアを連続で取り、これでユフィーと並んだ。
その後もユフィーは一度捲った札を何度も捲ったり、とれるはずの札を取れずに最初のラッキーパンチ以外はいいところなしで終わった。
「イスラはこういうゲーム得意なんだな。完敗だ!」
ユフィーは完敗だったものの、さっぱりとした笑顔で私の健闘を称えてくれた。
そして私の二回戦目の相手は見事ラスカルに勝利したミレイヌだ。
「イスラ様、このゲームの勝敗でイスラ様の真価を測らせていただきます」
「あら、あなたにそれができるかしら、ミレイヌさん」
先ほどようやく打ち解けた相手と今度はバチバチに争わなければならない。
人生とは因果なものだ。
先ほどまでと同じように18枚のカードが裏向きに配置される。
今回はミレイヌが先行だ。
運命の第一巡。
ミレイヌが引いたのは2と4。
順当に外したが、今度は私の番だ。
ミレイヌにヒントを与える展開だけは避けたい。
ミレイヌはユフィーとは違い、隙を逃すような真似はしない。
(おっ?)
私が引いた一枚目は4。
ミレイヌが一巡目で引いた4を再び表にする。
幸先よく得点を先制できた。
「やりますね、イスラ様」
しかしミレイヌは妙に余裕な態度を見せていた。
少し気がかりではあるが、ゲームはそのまま進行した。
ゲームは進み、最終盤面。
手番は私で、残ったカードは6枚3組。
現在のスコアは私もミレイヌも6枚ずつと同点だ。
私の勝利条件はほとんどこの残りの6枚を全取りすることだけだ。
もし、もう一度ミレイヌに手番を返したら、逆に全て取られて負けるだろう。
6枚のうち、情報が出ているのは2枚だけ。
残りの4枚の情報は全くない。
(圧倒的に不利な状況か……いや、違う。何かおかしい……)
負けを悟った私だったが、よく考えるとおかしいことがいくつかある。
まずは私が先制した次の手番で、ミレイヌもまたノーヒントの状態からラッキーヒットを決めた。
それだけではない。
ミレイヌは必ず私が得点した次の手番で得点している。
まるで同点になるように調整しているかのように。
(まさか……イカサマ!?)
そういえば、前世で私がミレイヌを本格的に誑かす前にやったポーカーでも彼女はイカサマを仕掛けてきた。
ミレイヌの余裕な態度も勝敗をコントロールしている立場から来るものであれば納得ができる。
圧勝しては怪しまれるから、あえて熱戦を演出しているということか。
しかし、それならばこの状況はむしろチャンスだ。
ミレイヌは好きな時に得点する術を持っているということは、私もそれを見破れば勝てるということだ。
集中して裏面のカードを凝視する。
そして僅かではあるが、それぞれに4隅に小さな傷が付いていた。
ミレイヌはいつの間にか付けた四隅の傷の具合で識別していたようだ。
種さえ分かればなんてことはない。
私も傷の具合を観察し、ミレイヌの付けた印を利用して残りの6枚の札を連続で取得して勝利した。
そして何食わぬ顔でミレイヌに言い放つ。
「あら、運が良かったわ。ミレイヌさん、ご無礼」
「やはりイスラ様は信用ならないお方ですね」
もしかしたらまたミレイヌに少し嫌われてしまったかもしれないが、今回の勝負は真剣勝負だ。
嫌われたのなら、また好かれればいい。
こうして私は無事決勝へと駒を進めた。
レティシアですらあまり食べられないという希少なケーキ。
せっかくなのでこのまま我が物にしようではないか!
次回投稿予定日:8月6日(火)
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