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103.悪役令嬢 VS 侯爵令嬢(2)

前回の話

イスラはラスカルとレティシアへのプレゼントを選ぶ勝負をすることになった。

ラスカルに宣戦布告をした日の翌日。

私は自室でぼんやりと窓の外を眺めていた。


「プレゼント、どうしようかしら……?」


自分から喧嘩をふっかけておいてなんだけど、勝算はほどほど程度だと思っている。

前世の自分であれば、こういった勝負事ではある程度勝つための算段を立てないと気が済まなかったが、今回は半分くらい勢いで行動してしまった。


もしこのままラスカルに敗北してしまったらこの軽率な行動を後悔することになるかもしれないが、今は余計な策略なしで勝負に挑むという初めての出来事にワクワクしている自分がいる。


負けられない勝負。

相手を陥れることをしないのであれば、自分を高めるだけだ。


ひとまずは商品の選定のため、頼れる知人のもとに向かった。


「というわけで、公爵令嬢に贈り物をすることになったの。ナスル商会で手配できるお勧めの商品などあるかしら?」


私は知り合いであるナスル・マクニコルの元に押しかけ、相談を持ち掛けた。


前世でも散々世話になったナスル商会ではあるが、今世でも14歳までは前世と同じように過ごしてきたということが確認できた。


つまり、ナスル商会の成長には私のアドバイスが影響しているし、毎月一定のコンサル料も私のもとに届けられている。


ナスルは表情を変えずに淡々と返事を返した。


「事情は分かりました。商品のご紹介は可能ですが、願わくばフローリア公爵家のご令嬢に、私どもの商会のことをご紹介いただけないでしょうか?」

「ええ、もちろん」


根っからの商人であるナスルは商売のきっかけを拾う能力に長けている。

今回の私からのお願いも次の商売の機会につなげようとしているのは流石だ。

私としても、レティシアにナスル商会を勧めることにデメリットはないので、快く引き受けた。


「ありがとうございます。それではさっそく商品の資料やサンプルをご用意いたしますので、少しお待ちください」


ナスルは私の返事を満足げに聞くと、一度離席して商品紹介の準備をしてくれた。

私はその間、手持無沙汰で残されたわけだが、


(商会を、紹介……っ!!)


ナスルが意図せず発言したであろう言葉が駄洒落になっていたことに気づき、一人で笑いを堪えることになってしまった。


ナスルの元を訪れてから2週間ほど経った日のこと。

ついにラスカルとの勝負の日がやってきた。


私は前回のお茶会の時と同様にレティシアの屋敷にやって来た。


今回も他の全員は既に揃っていた。

到着した私の姿を見て、ラスカルは楽しそうに声をかけてきた。


「あら、イスラさん。逃げずに来たことだけは褒めてあげるわ」


彼女の手元には綺麗に包装された小包があり、よほど自信のあるものなのか、かなりの余裕を感じられる。

しかし私も黙って負けるわけにはいかない。


「ラスカル様こそ、初めてのお買い物はいかがでしたか? ご自分で欲しいものを買えて偉いですね」

「な“っ!!! …………まあ、いいでしょう。早く始めましょう。まずは私の番です!」


ラスカルは私の煽りに声を荒げかけたが、寸前のところで落ち着きを取り戻したみたいだ。

そのままラスカルはレティシアに手元の包みを自信満々に手渡した。


「ありがとう、ラスカル。開けてもいいかしら?」

「もちろんです。とくとご覧ください!」


レティシアはその包みを丁寧に剥がして中身を取り出した。


中から現れたのは髪飾りだった。

銀色をベースにして遠目にみても分かるほどの宝石がいくつも散りばめられた豪華絢爛な一品だ。

恐らくはかなりの高額な品であり、金額で言えば間違いなく私の用意した品など足元にも及ばない。


「本当は銀ではなく、金を使用したかったのですが、レティシア様は金髪なので映える色を選ばせていただきました。宝石も一級品だけを選んで使用した、まさにレティシア様に相応しいものをご用意させていただきました」


ラスカルはもはや勝利を確信しており、得意げに自分で選んだ贈り物の説明を始めた。

レティシアはその髪飾りを手にしたまましばらく顔を強張らせていた。


「ねえ、ラスカル。この髪飾り、高かったんじゃないかしら?」

「いえ、レティシア様が身に着けるものですから、これでも安いくらいです!!」

「そういうことではないのだけれど…………。とにかく、ありがとう。嬉しいわ。だけど、こんなに高価なものは今後は控えてね」


レティシアは言葉を選びつつもやんわりとラスカルの金の使い方を注意したが、当のラスカルはその意図に全く気付かずに私の方を見てニヤリと笑った。


前世でも、ラスカルはレティシアへの高価なプレゼントを強行してレティシアの不興を買ったという話はあった。

だから今回もどうせラスカルは自滅してくれると思っていたが、予想通りの展開となった。


そっちがお金で向かってくるなら、こちらは心で迎え撃つ。

今の私には前世で使ったような策略はない。

だけど、知識や思い出は私の中に残っている。


「レティシア様、今度は私が選んだ贈り物もご覧ください」

「ありがとう、イスラちゃん」


私も持参したプレゼントの小箱をレティシアに渡した。

レティシアはラスカルの時と同様に包みを綺麗に剥がして中身を取り出した。


「これは……栞?」

「はい」


私が選んだプレゼントは、本に挟むための栞だ。


普通に考えればプレゼントとして送るにはあまりに小さく、特別感もない。

だけど、できる限りの工夫は凝らした。


「とても綺麗な花模様ね。どこで売っていたものかしら?」

「これは市販品ではありません。私がレティシア様に合うお花を選び、押し花にしたものを加工して作った、世界で一つだけの栞です」

「私のために選んでくれたの? 嬉しいわ」


レティシアは本当に嬉しそうに私の栞を手に取ってくれた。


私が花の種類や、その花を選んだ理由、加工の際のこだわりなどを説明すると、何度も頷いてくれた。

最終的にこれにたどり着くまでには色々と紆余曲折があったが、気に入ってくれたようで良かった。


今回のプレゼント選びでは協力者のナスルに色々な商品を紹介してもらい、アクセサリ、茶葉、お菓子、インテリア、果てには馬車や家まで候補に挙がったが、そのどれもレティシアの心を掴める自信が持てなかった。


そんな中、ナスルから一つの提案があった。


「花束を添える、というのはどうでしょう?」

「花は素敵だけど、そのうち枯れてしまうのが嫌ね」

「枯れない花、ですか。……押し花などはありますが、それでは公爵令嬢への贈り物としては不適ですね」

「……いえ、案外悪くないかも」


そんなやり取りの後に押し花の加工もナスルの人脈で何とかできそうだと分かり、あまりに貧相な贈り物だと難色を示したナスルを無理やり納得させて作らせたのが、この栞だ。


自分でも安い贈り物だという自覚はあるけれど、気持ちは十分込められた。

しかし案の定ラスカルは私の説明が終わると鼻で笑った。


「イスラさん、いくらお金がないとはいえ、そんなものをレティシア様のプレゼントにするなんてあまりにお粗末ではなくて?」


その表情は嘲笑に近く、明らかに馬鹿にしたような態度だ。

反論しようと思った矢先、私より先にレティシアが口を開いた。


「ラスカル、言葉を慎みなさい。これは粗末なんかじゃない。私のためにイスラちゃんが用意してくれたものよ」

「レティシア様……?」

「申し訳ないけど、ラスカルがくれた髪飾りよりもイスラちゃんがくれた栞の方が嬉しかった」


レティシアはこの勝負が私の勝利であることを宣言してくれた。

口調こそ穏やかなままであったが、怒りを匂わせている。


ラスカルはまさか自分が負けるとは思っていなかったようで、狼狽しきっている。


「なぜですか、レティシア様!? こんな安物が嬉しかったなんて信じられません!」

「ねえ、ラスカル。あなたが用意してくれた髪飾りに付いていた宝石だけど、どうしてこの石を選んだの?」

「それは……一番高価だったので……」

「それは本当に私のことを考えて選んでくれていたと言えるのかしら?」


ラスカルは自分自身の発言で敗因を突き付けられて、それ以上は何も言い返せなかった。

勝負が私の勝ちで決まったことは喜ばしい。


だけど、このままでいいのだろうか?


「嘘……私が負ける? 子爵ごときに?」


力なく自席に座り込んだラスカルを見て思う。

きっと彼女をこのまま沈み込んだままにしてもレティシアは喜ばない。


(悪役令嬢なら、こんな時どうする?)


今の私は詐欺師ではない。

悪役令嬢だ。

ならば、それらしく振る舞うべきだろう。


私は傷心のラスカルにも聞こえるように語りかけた。


「ラスカル様、どうやら勝負は私の勝ちですわ」

「……そうね」

「これまで散々馬鹿にしてくれたこと、後悔させて差し上げます。今度、私の屋敷にいらしてください」


できるだけ居丈高な雰囲気を出すように努めたが、これはこれで悪くない気分だ。

他の令嬢たちの注目を一手に引き受けつつ、私は不敵な笑みを浮かべた。

次回投稿予定日:7月4日(木)

        作者多忙のため投稿が遅れる可能性があります。

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