残された記憶 狐花
これで前世編は一旦終わりです。
次話からは、異世界に戻ります。
◆◆◆◆◆灰田義博視点◆◆◆◆◆
結局、一ノ瀬優斗は助からなかった。
顔は判別できないほどに潰れ、俺たちが飛び降りた所を目撃していなければ、身元不明死体で終わっていただろう。
あいつらは、落ちてすぐに来た。
「すまん、止めれなかった。こんな言葉で許されるとは思っていない。だが、すまなかった。」
俺はただただ、頭を下げて謝るしかなかった。
だが、あいつらはなにも反応を返さない。
やっと片方がしゃべったかと思うと出た言葉は
「そう。残念だよ。」
それだけだった。
落胆していた。
悲しむでもなく、後悔するのでもなく、落胆。
それが、誰に向けての言葉だったかはわからない。
相談せずに死んでしまった一ノ瀬優斗に向かってか、
助けられなかった俺にか。
俺は、殺気を感じ、恐怖を覚えた。
いままで、色んな化け物と遭遇してきたが、その中でも一番やばいやつと遭遇した時と、同じ予感。
あれは観測者だかなんだか言っていたが、それでも俺は、返事を返せた。
だが、これは無理だ。
俺の感情が無念や後悔から絶望一色に書き換えられていく。
あの時の夢で見た昏い、昏い黒の深淵よりも、音に連れ去られかけた時、一瞬見えた奏でられた無数の音の狂気と白とも言えない虚無の塊よりも、恐ろしい、黄衣の王よりも、深い蒼。
いや、それを全て混ぜた混沌そのもの。
「********」
もう片方が、意味の分からない、意味のない言語を発する。
そのとたん、あの人を壊す殺気が収まった。
片割れは遺体を見て、悲しそうな顔をし、帰っていく
だが、油断は出来なかった。
あれは、俺を壊そうとするに違いないからだ。
だが、俺は、あれに勝てない。
だから、命令に素直に従い、逃げるのが一番だ。
決意して、次の言葉を待つ。
しかし、あれは死体に近づき、話し始めた。
「ごめん、あそこまでやったのに…先に行ってて。後で行くから」
そう言ったあれは、死骸に何かを掛ける、そして置く。
かけられたものは何色かも分からない。
だが、液体だと直感する。
あれは、去る。
前から、以前を判断しがたい残骸の前から。
あれは、去っていく。
どうしようもない、凄惨な、残酷な、それでいて絶望を持たない事件…
事件とも呼べない場所から。
去る時、あれは俺を見た。
ことばを発した。
「すまなかった。君には迷惑をかけた。君には平穏を与えよう。ここまで頑張った対価を。もう君には会わないだろう。残念だ。」
あれはいつの間にか手に持っていたペンダントを投げる。
碧い宝石のついたペンダントだ。
宝石の中に
俺は強迫観念に襲われる。
このペンダントをつけなければならない。
ペンダントをつける。
そこで警察車両がやって来る。
やってきた同僚の中には上司もいた。
上司は、俺に休めと命じた。
後で聞くと。
俺は、頷いた。
次の日は曇だ。
昨日のことを考え、自分はおかしかったと気づく。
いつかの時に経験した、あの狂気だ。
後悔、疑問、自責。
なぜ、あいつを「あれ」と読んだ?
なぜ、あの殺気を化け物どもと同じものだと纏めた?
パラノイア、偏執病、強迫観念。
どれにせよ、俺は失敗したし、選択を間違えた。
思考を振り払う。
ペンダントをつけていることに気付く。
ペンダントを掴む。
言葉を思い出す。
あいつは嘘をいうことはめったにない。
そして、あいつの持つアイテムは全てが有用だ。
ならば、このペンダントはあいつの言葉通り、俺に平穏をもたらし、俺を守るだろう。
人を守るアイテムを外した時、何が起こるかはわかり切っている。
大体がアイテムの所有者の凄惨な死によってその話を終わる。
だから、俺は肌身離さず持っている必要がある。
思考を切り替える。
上司のもとへ向かう。
上司は何事にも公平で厳格だ。
だが、他の頭が硬い奴らよりは、融通もきくし、話を振ると乗ってくれる。
総評としては、悪いことをしなければ、いい上司だろう。
説明を求められ何があったかを報告する。
あくまで客観的に。
上司は話が進み、あいつらが出てきたところで頭を抱えだした。
上司もこういう不思議なものには理解がある。
だから、あいつらのことは知っているし、あいつらが関与するものの報告書の作成も手馴れている。
警察官になって、あいつら関連の報告書を上げるときには長い時間を使ったし、とてもストレスになる。
そのことを考えるとこの上司がどれだけ優秀かが、よくわかる。
昨日のことは、明らかに現場を荒らしたとしか言えない。
遺体に、液体をかけ、何かを置いていく。
何を置いたんだ?
上司に聞くと
「白い彼岸花だ。いろいろ検査をしたが、この近くに白い彼岸花は咲いていないのに採取して数時間ぐらいしか経っていないことを除けば普通の花だ。だが、白い彼岸花であることの理由はわからん。思い当たることはあるが言っても誰も信じない。」
「別にあんなことが起こってたんです。不思議なことでも信じれるでしょう?」
なにもないのに体を吹っ飛ばされたり、日本にいたのにいつの間にかイギリスにいたことと比べれば、どれだけ荒唐無稽なことでもまだ信じられる。
「笑うなよ」
「はい。」
なぜ、笑うななのか、それは考慮に値しない。続きを促す。
「彼岸花の花言葉は赤が悲しき思いで、情熱、諦め、独立などだ。で、白はまた逢う日まで、と思うはあなた一人など。だから、来世が~とかだな。」
笑うのをこらえる。
内容がロマンティック過ぎる。
人を殺してそうな顔で、それを大真面目に言ってるのがさらに笑いをかきたてる。
「だから言いたくなかった」
上司はぼやいてるが、仕方ないだろう。
だが、あり得る話だ。
あいつらは言葉を大切にする。
それは、花に込められたものも例外ではない。
だから、花言葉になぞらえ、花に願いを込めたのではないだろうか。
そういえば、上司は宝石にも詳しいらしい。
なら、これもわかるのでは?とネックレスを見せる。
太陽の下に連れていかれたり、白熱灯を当てたりして調べていく。
「確証には至らないが、タンザナイトの可能性が高い。」
そう、上司は言うがタンザナイトが何なのか全く知らない。
「何ですかそれ。」
わからなかったので、素直に言う。
上司が早口で説明を始めた。急に。
「タンザナイトはケイ酸塩鉱物に分類されるもので、灰簾石の中で、青から青紫色のものを指す。十二月の誕生石の一つで…」
とありがた~いお言葉を数十分にかけてお聞きした。
気になるのが石言葉。
上司によるとタンザナイトの石言葉は「誇り高き人物」「高貴」「知性」「冷静」「希望」「神秘」などで、冷静な判断ができる力を与えてくれるそうだ。
あいつが渡したものに何の力もないわけがないので、精神を安定させる効力でもあるのだろう。
上司の宝石の説明というありがたい講義を泣く泣く断り、退出する。
ペンダントのお礼と昨日の態度の詫びを入れようとあいつらに電話をいれる。
しかし、帰ってきたのは、番号が登録されていないという無機質な声だった。
嫌な予感がして、あいつらの家へ向かう。
誰もいない。
学校への電話。
そんな名前の生徒はいない。
あそこなら連絡を取れるかもしれない。
走る。
一ノ瀬優斗の家。
誰もいない。人の住んでいる形跡がない。
そうだ。思い出した。
一ノ瀬優斗、二年前に両親を交通事故で無くす。
そんな一文を資料で読んだ。
すぐ、署に戻り、資料を探す。
記憶の通りだった。
全く同じ一文が載っている。
母親が無理心中を試みたと、ネグレクトがあった可能性があると。
ならば、あれは何だった?
俺に頼んだのはいったい何だった?
違和感が残る。
それで、一連の騒動は終わり。
あいつらには二度と会えなかった。
数年後に名前を聞くことがあったが、会えはしない。
それからは、普通の俺が渇望したはずの平穏な日常。
ただし、どこか物足りない日常だった。
“あいつ”は不穏なこと言ってましたが普通に生きてます。
裏話
あなたは殺気を受け、いままで遭遇した神話生物の記憶がフラッシュバックします。
SANチェック1D20or1D100 → 1 0 0 フ ァ ン
1D100 → 37
残り6
アイデア → 2 ク リ
5/9 →探索者をその場に釘付けにしてしまうかもしれないような極度の恐怖症/一時的偏執病
アーティファクト
タンザナイトのネックレス(エルダーサイン入り)
SANチェック時、1D3以上ならば、減少量から1D10引く。
一時的狂気のアイデアロール時、アイデアを-10する。
不定の狂気に陥った時、CON×3に成功したら、続く時間を、1D10時間に変更する。
要はチートアイテム
前世の世界
基本的には現実の世界と同じですが、神話生物が存在したりしています。
ですが、神話生物の封印は、どこぞの灰田巡査がやってくれたので数百年は滅ぼされることはないでしょう。
そして、薬学、工業、生物学の分野などはこちらの世界より発展していますが、逆に化学、量子力学などの分野は、こちらより劣っています。
主な要因は、魔術の存在と、一部の天才のせいです。
一部の天才が記憶処理薬モドキを作ったりしてるので。
今回の花言葉、宝石言葉上司さんが解説してくれたので省略。
あと、前世の世界編は一旦終わりで次話から異世界に戻ります。
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