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王都への帰還

無理やりな暴力行為があります。苦手な方はご注意ください。


 近衛騎士団所有の馬車に揺られながら、私はぼんやりと窓の外を眺めるふりをしていた。

 隣には当然のように私の腰に腕を回すゼノン王太子殿下がいて、自由に身じろぐこともままならない。

 向かい側に座る私の世話役兼警護担当の女性騎士は、そんな私たちに対しても涼しい顔で任務に当たっていた。

 気づまりのする空間であることは間違いなかったが、殿下と二人きりでないだけマシだとも感じていた。


 あの、交易都市でのやりとりから既に三日が経とうとしていた。

 まもなく馬車は王都へと帰還する。


 道中、私も殿下も口数は極端に少なかった。

 話したことと言えば、私が交易都市で確保された経緯を簡単に聞いたくらいだろうか。答えてくれないかもと思っていたが、案外簡単に殿下は種を明かしてくれた。


 まず前提として、私は公的な捜査ではなく、あくまでも秘密裏に捜索されていたのだという。

 未婚の令嬢の失踪は貴族にとっては致命的な醜聞であるため、私の将来を考えた両親がそう希望したとのこと。出奔の経緯と手紙の内容から、国外脱出が意図されていることは明白だったため、関所に的を絞って捜索が行われた。


 一週間ほど進展が見られなかったが、殿下は発想を柔軟に切り替え私が望む最終的な行先(・・・・・・)について、アルフォンソお兄様と協議をしたのだという。

 親王派である我がクライン家は国外の貴族との繋がりがそれほど強くはない。直近では祖母がエイセズ王国の公爵家出身という以外には、直系筋はすべて国内の貴族に限られていた。


 また、兄が私が祖母に懐いていたことにも着目し、エイセズ王国へ向かうルートを重点的に捜索するよう手配した挙句、殿下自らも近衛騎士に扮して一番可能性の高かった交易都市のルートを押さえるべく動いた。

 すると普段とは違う動きをしている、エイセズを活動拠点とした行商人一行の記録に殿下が目を付け、最終的にそこから私のもとへと辿り着いたとのこと。


「一週間以上見つからなかった時点で、協力者がいる可能性が濃厚だった。であれば、比較的安全かつ正規のルートを使う方が結果的に成功率が高い。私ならそうすると踏んだが……あの男も同じ発想だったようだ」


 殿下はレオンさんをあの男、と呼んだ。

 レオンさん――レオンハルト王弟殿下による非公式の宣言は、それでも同じ王族であるゼノン殿下をけん制するには十分な効力を発揮した。


 国力差で言えばトランスファー王国もエイセズ王国もそこまで大差はない。

 だが、エイセズ王国は外交に強い国として有名だった。

 おまけに現国王ルードヴィッヒは他国からの信頼も厚い御仁で、我が国の国王陛下とも懇意の関係だ。


 今回のリーフィア・クライン捜索に関して陛下は直接関与しておらず、すべて殿下とクライン家が非正規かつ独断のもとに行なったことであるため、その過程で不可抗力とはいえエイセズ王国の重要人物との間に摩擦があれば、国としては慎重に動かざるを得ない。


 それに加えての、レオンさんの私への求婚だ。

 私と殿下の婚約については、他国に対して正式なお披露目がまだ済まされていない。

 もちろん国内では周知の事実として扱われているので、通常であれば起こりえないことだが、外交ルートでの求婚自体は不可能ではない、というのも事実だ。


 他国への婚約公表前に先んじてレオンさんが私に婚姻の打診をすれば、求婚側を立てるためにそれなりの発表の仕方が必要となる。

 結果はどうあれ、強行策が取りづらくなる一手だった。


 ただ、どちらの発言も実行性には乏しく、おそらくは殿下へのけん制が目的だ。

 友好国とはいえ他国で問題を起こした時点でレオンさんも同等か、それ以上の非難が及ぶ。

 それを覚悟の上で身分を明かしてくれたからこそ、今の状況があった。


 あの短時間でそこまでレオンさんが考えたのかは、わからない。

 もしかしたら、もっと前から色々と考えてくれていたのかもしれない。

 そう思うと自然と涙が込み上げてくる。

 私の意思を守ろうとしてくれている人がいること。その途方もない幸福に。


 別れ際、テオさんに肩を貸しながらレオンさんは「また会おう」と私に言った。

 それに対して私も「はい、必ず」と応えた。

 その約束が道標になって、今の私を確かに支えてくれている。



「……殿下、そろそろ王宮に着きますが、いかがなさいますか?」

「そのまま入れ。私とリーフィアが王宮に入った後は、一度解散して構わない」


 騎士の女性の発言に、殿下が即応する。私は無意識のうちに両手を強く握りしめていた。

 すると、何が面白いのか殿下がクツクツと笑みを漏らす。


「緊張しているのかい、リーフィア。大丈夫だよ、出来る限り優しくするから」


 優しく、とはどういう意味だろうか。

 私は過った疑問を口にしようとしたが、それは叶わなかった。

 馬車が停車し、外からノックの音が響く。どうやら王宮に到着したようだ。

 殿下にエスコートされる形で降りると、そのまま殿下に王宮内へと連れ込まれてしまう。

 振り向くと近衛騎士たちは恭しく頭を下げるだけで、誰も私たちを止めようとはしなかった。


 悠々と歩く殿下に引っ張られながら、私は彼が王族しか入室を許可されていない居住区エリアへと私を連れて行こうとしていることに途中で気が付いた。

 最初は人に聞かせるような話ではないため、殿下の私室を使用するのかと思った。


 だが、ふいに別の考えが脳裏をチラつく。

 そしてその予測は現実のものとなろうとしていた。


 長い廊下の先に誂えられた殿下の私室に入り、彼はそのまま室内のもう一つの扉に手を掛ける。

 そこは本来であれば殿下とその伴侶以外入ることが許されない場所――寝室。

 天蓋付きの豪奢なベッドが目に映った瞬間、視界がぐるりと反転した。


「――きゃあっ!?!」


 悲鳴を上げた私は、自分がベッドの上に仰向けに転がされたのだと理解するまでに数秒を要した。

 そこへ殿下が私の全身をすっぽり包むように覆い被さってくる。

 そしてすぐさま両腕を取られ、ベッドに縫い付けられてしまった。

 昏い光を帯びたオニキスの瞳に射抜かれながら、私たちはベッドの上で向かい合う。


「っ殿下、何故このような……っ……んぅ……!?」


 抗議の声は途中で消失する。

 最初に感じたのは、柔らかさと冷たさ。そして、煩いくらいの心臓の音。


「っふ……ん、んぅ……や、ぁあ……っ……んっ…………っ」


 息さえ奪うような口づけ。あの日のように許可を取ろうとすることなく、ただただ強引に重ねられた唇の感触と口内に入ってくる生温かな異物に身体が拒絶反応を起こす。

 私は目を瞑り、顔を背けようと必死で首を動かすが、殿下によってそれはいともたやすく阻止されてしまう。


 苦しい、嫌だ。こんなのは嫌だ。どうしてこんなことするの。やめて、たすけて――


 どのくらい塞がれていたのかも分からない。それでも一瞬、息継ぎをするように殿下の唇が離れた。私は咄嗟に首を大きく右へ振ると、目に涙を滲ませながら叫ぶ。


「ぅ……や、やだぁ!!! たすけて、れおんさん……!!!」

「っ……!!」


 殿下が息を呑む気配がする。私は両手を拘束されているため唇を拭うことも出来ず、とにかく必死で身体を丸めながら歯を食いしばった。その態度が相手にどう映るかも知らずに。


「――本当に、君は、どうして私を優しいままにさせてくれないんだろうね」


 耳元で殿下の声が聞こえてくる。


「やっと手に入れたと思ったら、勘違いして、勝手に逃げ出して。私のことを愛していると言った口で、別の男に助けを求める。――ねぇ、酷い裏切りだとは思わない?」


 私は恐怖のあまりガタガタと震えながら、それでもこれ以上なにも奪われないために必死で自分の身を守ろうとあがいた。だが、殿下の腕や身体はびくともせず、絶望感だけが降り積もっていく。

 それでも抵抗することは止めず、今度はありったけの勇気を振り絞って声を上げた。


「……殿下、もうお止めください! 私たちは、きちんと話し合うべきです……!」

「話? 話って今更なにを? 私はリーフィアを愛している。そして、君は私の唯一の婚約者だ。それ以外は必要ないだろう?」

「私は、殿下の婚約者に、この国の王妃には相応しくありません! ……お願いしますから、私の話を聞いてください!!」

「ああ、聞いてるよ? でも、聞いたからといってそれが何? 私に君を手離す気がないんだから、何を言われたところで変わらないよ」


 彼が本気で言っているのは、肌で分かった。

 同時に悟る。何を言っても、今のこの人には通じない。

 私の言葉も、意思も、なにもかもが伝わらない。

 覆せない想いは行き場を失い、あまりの悔しさに気づけば目から涙が零れていた。


「……ああ、泣かないでくれ、リーフィア。大丈夫だよ、はじめは痛いかもしれないが、終わる頃にはきちんと君にも快楽が得られるように努力するから」


 その発言に怖気が走る。このままでは強制的に純潔まで散らされてしまう。

 まるですべてが真っ黒に塗り潰されていくように。

 私という存在は、殿下にとって都合のいいように変えられてしまう。


 ――そう理解した瞬間。私は生まれて初めて、



「…………ふざけないで!!!!!!」



 怒りの感情に身を任せて、殿下の股の間に自分の右足を振り上げていた。


当然ですが殿下の行ないは決して許されるものではありません。

ご不快になられた方がいましたら謹んでお詫び申し上げます。

この話もようやくクライマックスに突入しました。

よろしければ最後までお付き合いいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本当に不快過ぎる…
[一言] 良かった大事な所を蹴れて!! ε-(´∀`*)ホッとしました。 この糞殿下!!!!既成事実作ろうと強姦仕掛けた殿下の好感度地の底に落ちた(元々低かったけど)
[良い点]  リーフィア嬢、その一撃は人類の半分には確実に効くものです‥‥‥!  真にお見事ッ‥‥‥! [一言]  ひとつの物語としては体の関係こそ許しても心の在処は絶対に明け渡さない貴族女性の在り方…
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