独り言(レオン視点)
またしても短いですが、レオン視点です。糖度高め。
……泣き疲れて寝たな。
俺は腕の中ですやすやと寝息を立てるリーフィアに視線を落としながら、小さく息を吐いた。
旅を始めてからたったの三日。
初めて出会ってから二週間も経っていない。
だけど、俺の中で既に気持ちは定まってしまっている。
もしかしたら、こういうのを一目惚れと言うのかもしれない。
思い返せばあの夜、彼女を抱き締めて眠ったあの夜から。
俺はこの未来を望んでいたのではないだろうか。
「……ったく、ガキでもあるまいし」
苦笑を漏らしながらも、手離す気は完全に失せていた。彼女にも説明した通り、彼女の俺に対する感情は一種の自己防衛というか、思い込みや刷り込みの類いなのかもしれない。
だが、そんなことは知ったことか。
好きな相手に裏切られたと傷ついて泣くのなら、いくらでも抱き締めて、慰めて、甘やかしてやる。
俺のことが好きだというなら、それ以上の想いを返そう。
もし奪い返しにくる者がいるのなら、何をおいても彼女を守ろう。
先に好きになった方が負けとは、良く言ったものだ。完全敗北を決め込んだ俺に出来ることは、全力で彼女の気持ちをこちらに向けさせること。
相手が王太子だろうが絶対に譲らない。
その為なら……
「……今更、生まれに感謝する日が来るかもしれないな……」
俺は茶色に染められた彼女の髪に指を滑らせる。本来の色ではないのが残念だが、それでも満足感はあった。そのまま頬を辿り、少し腫れた目元に優しく触れる。
泣き顔は初めて見たけど、やはり笑顔の方が良い。はにかむように、恥ずかしそうに、幸せそうに笑っていて欲しい。それを叶えるのが、俺でありたい。
……ふいに視界に、昨日贈った腕輪が映る。
これを贈ろうと決めたのは、単純な独占欲だ。
偽装夫婦を言い訳にして了承も得ずに身に付けさせた。その時の彼女の顔は、困惑の色だけではなく、瞳の揺らぎに、俺への特別な感情を隠しきれていなかった。そういう素直なところも可愛いと思うし、俺みたいな悪い奴に捕まってしまうのではないかと不安の種にもなる。
そこまで考えて、改めて恋愛感情の厄介さを想い知る気分だった。際限がない。どこまでも果てしなく求めてしまう。
感情のコントロールがきかなくて怖い、と彼女は言った。同感だ。もし彼女を失うことになったら、なんて想像だけでこんなにも胸が痛みを伴う。
止めよう。明日も早いし、明日こそが本当の正念場だ。
俺はすっかり馴染んだ体温に誘われるように、彼女の額に唇を寄せた。
「……おやすみ」
卑怯でも、ずるくても、構わない。
俺のことを利用するだけ利用すればいい。
最後に俺を選んでくれるのなら、他には何も要らないから。




