言葉の刃物が目に見えたら
「相手が10人居たとしてあなたは1人、10人の人が攻撃してきたらどうしますか?」
「俺だったら逃げるね」
「そうですね。じゃあ、あなたの頭の中には逃げる選択肢が無い場合とします」
「おいおいマジかよ……じゃあ戦うしか無いのか?」
「でも残念ながらあなたには相手を攻撃する武器が無いのです。でも相手は隙を見てあなたにナイフを投げて来ます。1人や2人がナイフを投げる時もあれば10人が一斉にナイフを投げる場合もあります」
「避けられるのか?」
「残念ですかそのナイフはあなたに必中します。出来る手段としては防御ですかね?」
「ちょっと待ってくれないか?いくら何でも理不尽過ぎないか?戦うどころかやられる為にいるみたいじゃないか!何だこの場所は?そこまでする価値があるのか?」
「でもここって別に戦場では無いんですよ」
「じゃあ何で相手は攻撃してくるんだ?」
「いえいえ、単にあなたが邪魔とか鬱陶しいとか出来が悪いとか玩具にして遊んでいるとかそんな感じですね。後、相手は別にあなたを殺そうとしている訳でもないです。と言うか反対に死なれると色々と困る場合もあると思います。でも居なくなっても多分どうも思わないかも知れません。それにナイフをあなたに刺している感覚も相手にはないかも知れないですねー」
「何で逃げられないんだ?」
「あなたには味方がいない訳では無いんですけどその人達はその場所には来れないんですよ。あなたがそんな目に合ってる事もよくは知らないかも知れません、あなたにとってその人達は大切な人でその大切な人の期待に応える為に戦ってるかもしれまんせん。それに逃げたら逃げたで取返しのつかない事、かっこ悪い事になるとも分かっていますね。だから逃げられないんです。ただ期間が来たらそこから解放はされます」
「つまり解放されるまで耐え続けるしかないのか?」
「では少し映像を見てみましょう」
「ナイフを持った10人と丸腰の1人か……あ、誰かがナイフを投げて突き刺さったあの子の体から血が噴き出している……それに誰かが投げた後追い打ちをかけるかのようにナイフを投げ始めたぞ」
「血まみれですね。今日はここまで見たいです。では次の日を見てみましょう」
「え?次の日もやるのか?」
「はい、では見てみましょう」
「おい!あの子、昨日のナイフが突き刺さったままだぞ?誰か止めないのか?」
「この映像ではナイフも血も見えますが本来は見えないんですよねー」
「今日も誰かがナイフを投げた……また突き刺さってる……」
「はい、次の日」
「次の日」
「一週間」
「一か月」
「半年、さすがに傷を受けすぎたのか今日は行くのをためらってますね」
「もう行かなくていいんじゃないのか?」
もう一度言いますが向こうの世界では突き刺さったナイフも血も見えていないんです。心配した大切な人も今日は様子がおかしいので心配しますがナイフも傷も血も見えてはいないんです。だから大切な人は今日も行った方が良いんじゃないか?と声をかけるのです。するとその子はまた立ち上がり戦いに向かうのです」
「なぜ話さないんだ?話したら少しは楽になるんじゃ無いのか?」
「どうやらその子は傷を見せたくないようです。大切な人に知られたくないようです。だからその子は体を包帯で巻き、大切な人の前では何ともない様に振舞うのです。では次の日です」
「もう血まみれでボロボロじゃないか……まだ終わらないのか?」
「あのナイフは人を傷つけるけどそのナイフだけでは死ぬことが出来ないです。死ぬ方法は自分自身で自分を殺すしか無いのです」
「それはつまり自殺か?」
「ええ、死にたい場合は自分の手で下す必要がありますね」
「それが出来なかったら戦うしかないのか……」
「おや?この子の映像はもう続きがなくなってるようですね……」
「ここで映像は終わりなのか続きは無いのか?」
「ええもうないみたいです。他の10人の映像なら見れますけど見ますか?」
「んー取り合えず見てみるか」
「はい、では適当にこの人を見てみましょう。どうやら素敵な人と出会えたみたいですねーとても幸せそうな顔をしています」
「そうか……」
「ではまた別の人を……この人は色々と苦労はしたみたいですけどどうやら偉くなったようです。沢山の人が祝福して喜んでいます」
「なあ……あの子の続きは?」
「何を言っているのですか?あの子にはもう続きなんて無いんですよ?」




