06.クエスト
本日二回目の投稿。
《クエスト名『少年を救え!』 種類:突発クエスト。報酬:名声度+5。
内容:危機的状況に晒された少年を救え。
対応方法によっては、クエスト報酬以外にサブ報酬が貰えたり、名声度ポイントがさらに上昇する可能性がある》
「名声度ポイント? そんなのはステータスには表示されていなかったが……」
なんて、クエスト情報に目を通していると、先ほどまで少年と遊んでいた少女が蒼白な顔持ちで駆け寄ってきた。
「ライドっ! 大丈夫だった!?」
「うっ、うぅ……ミーニャお姉ちゃぁんっ! 怖かったよぉ」
しがみ付いていた少年は私から離れ、彼の姉であろう少女に抱き着いた。
抱き着かれた少女もだんだんと顔を赤くしてゆき、目に溜めた涙を流した。
「私も怖かったもぉぉぉんっ!」
二人は抱きしめあい、少年の無事を案じた。
これは少し長くなるな、とその光景を微笑ましく思いながら眺めた。
……
…………
「お姉さん、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
泣き止んだ二人は、揃って私に頭を下げてきた。
まだ鼻を啜っているが、二人でならもう大丈夫だろう。
「顔を上げてくれ。私は当然のことをしたまでだ……次からは気を付けて遊ぶんだよ?」
微笑を浮かべながら二人の言葉に答える。
顔を上げた二人の頭をしばしの間撫でてから、私は立ち上がった。
「じゃあ、私はもう行くから」
「――あっ、えっと……まっ、待ってくださいっ!」
立ち去ろうと後ろに振り向いて数歩進んだとき、少年から静止の声が掛かった。
半身だけ振り向いて、その声に答える。
「どうした、まだ何かあるのか?」
「えっと…………そのっ、えっと……」
「………………?」
「ライド、言うなら早く言いなさいっ! お姉さんが困ってるでしょ!?」
「わっ、ごっごごごごごめんなさいっ! ……えっと、お姉さん…………これ」
少年が近づいてきて、私に手を差し出した。
その掌には、小さくて綺麗な石が置いてあって。
「……これは?」
「むっ、昔拾った綺麗な石っ! ずっと大切にしてたけど、お姉さんにあげるっ!」
少し戸惑ったが、好意を無下にするわけにはいかないだろう。
掌の小石を摘まんで取り、ぎゅっと握りしめる。
「ありがとう。大切にするよ」
それだけ言葉を残して、私はその場から立ち去った。
二人は、私の姿が見えなくなるまで手を振っていたのだった。
姿が見えなくなったのを確認してから、私は握っていた小石に目を向けた。
「鑑定」
《お守り小石 効果:所有しているだけでVIT+1。説明:助けた少年から貰った綺麗な石。特殊な能力はないが、見ると何故だか心が暖かくなる。取引不可》
「なるほど、これがサブ報酬というものか……良いものを貰ったな」
小石を大切にインベントリに仕舞ったあと、歩みを再開する。
私はギルドへの道のりを、心にほっこりしたものを抱えながら進んだのであった。
◇
光が建物の前で静止した。
その光景を遠目から確認すると、建物へと視線を移動させる。
「あれがギルドか」
基本、この街の建物が二階建てなのに比べ、ギルドと呼ばれる建物は三階建てだった。
隣接する建物たちより、二回りほどは大きいだろうか。
常に全開の扉からは、多くの人々が引っ切り無しに出入りをしている様子が伺える。
殆どの者が冒険者風の装いなので、ここがギルドで間違いないだろう。
ギルドの前に着くと、留まっていた光が私の体に吸収されるようにして消えた。
「入ってしまっても良いのだろうか……?」
私は恐る恐るといった感じで、ギルドの中へと足を踏み入れた。
すると、右上に表示されていた吹き出しが「受付嬢に話しかけよう!」に変化した。
どうやら、杞憂とは裏腹にチュートリアルが進行したようだ。
「中身はこんな感じになっているのか」
見渡してみた限り、酒屋が併設された建物のようだ。
今は昼間なので人が少ないが、夜には仕事終わりの冒険者たちで賑わいを見せることだろう。
場酔いして酒を飲むプレイヤーも少なくはないはずだ。
受付カウンターや依頼が張り出された掲示板は入口近くに設置されている。
私は空いていた受付カウンターに向かった。
受付嬢と目が合い、ニコリと笑みを浮かべられる。
「こんにちは。本日はどういったご用件でしょうか?」
「ああ、こんにちは。……えっと、冒険者になりたいのだが」
……
…………
「ふぅ~っ……意外と長かったな」
あれから三十分ほど経った後、酒場の椅子に座って一息ついていた。
冒険者への登録はすぐに終わったが、そこから先が長かった。
チュートリアルの要と言っても過言ではない、この世界についての説明だ。
とても有意義な時間であったのは間違いないが、その分膨大な情報量に充てられて知恵熱を出しかけた。
こう言ったゲームを何度かプレイしたことのある経験者ならばすぐに適用できただろうが、初めての私には少し荷が重かったようだ。
「だが、これでチュートリアルは終了だ。……やっと戦いに行けるぞぉ……!」
凝った体を解しながら、【アイディール・オンライン】が本格的に始まった喜びを噛み締めていた。
ふと掲示板に目が行き、数度目を瞬きしたあと立ち上がった。
「適当にクエストを受けておくか」
掲示板まで歩みを進め、張り出された依頼の紙に視線を送りながら、先ほど受付嬢に説明されたことを思い起こす。
クエストは大きく分けて、通常クエスト、緊急クエスト、突発クエスト、ユニーククエストの四つの種類が存在する。
通常クエストは、誰でも特定の条件を満たせば受注可能なクエストのことだ。この掲示板に張られているものや、口頭でのみ受注可能なクエストのことを指す。
緊急クエストはその名の通り、何の突拍子もなく、いきなり発生するクエストのことを指す。
発生すると、周囲にいるプレイヤーは強制的にクエストに参加させられるのだという。《出現した○○○を倒せ!》といった具合で。
突発クエストは緊急クエストとほぼ同じだが、違う点は、強制参加ではないという所だ。
その為、それがクエストだとわからずにスルーしてしまうケースが非常に多いのだとか。
ユニーククエストは、いつ、どういった条件で発生するかが明確にされていないクエストのことを指す。
クエストの内容も個々によって違い、全く一貫性がないため、どのようなクエストなのかは蓋を開けてみないとわからない。
強制参加の緊急クエストや、突然発生の突発クエストとは違い、明確な条件が存在している場合が多いため、発見は困難を極める。
その代わり、ユニーク武器や、ユニーク防具といった、通常の物とは逸脱した性能を誇る装備が手に入るのだという。
「――なぁっ!? こっ、こここここのクエストはぁぁぁぁ!?!?」
思考を巡らせながら掲示板を見ていると、私の心を非常に掻き乱す文字が目に入った。
勢いよく剥ぎ取った依頼紙には、《初心者向け:フィード草原のゴブリン討伐》と書かれている。
「……はあっ、はあっ……ごっ、ゴブリンだ……ッ! ゴブリンと言えば……そう! 醜く矮小な容姿に、鼻に劈くような悪臭を放ち、人間の雌に子を孕ませるという……女騎士の、天敵ッ!!」
思わず口内から這い出てきた涎を強引に拭い取る。
フィード草原とは、この街からそう遠くない場所に存在する初心者フィールドのことだ。
いつかは行くだろうと話半分で聞いていたが……まさか、こんな早くに行く理由が出来るとは。
「今日は訓練所に寄ってから、街を散策して終わりにしようとしていたが……予定変更だ」
依頼紙を受付まで持っていくと、叩き付けるようにして受付嬢に差し出す。
笑顔の受付嬢に不敵な笑みを浮かべながら、私は口を開いた。
「――このクエストを受けたいのだが」
こうして、私の【アイディール・オンライン】が脈動を開始した。
大きな期待に、微かな不安を抱えながら――私の物語は、始動する。
「次からは、もう少し丁寧に持ってきてくださいね」
「あっ、すみません」
おまけ話
・飲酒機能
ゲーム内でお酒を摂取すると、酔った気分になれる。
飲めば飲むほど酔っていくが、上限が設けられているためベロベロになることはない。
酔った気分になれるだけなので二十歳以下でも飲むこと自体は可能。詳細設定から酔うか酔わないかの設定が出来るようになっている。
もし少しでも作品が「面白かった!」「続きが気になる!」と思って頂けましたら、ブックマークや広告下の【☆☆☆☆☆】をタップorクリックして応援頂けると執筆の励みになります。