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04.止められぬ衝動に身を任せよ

前回の話の最後に、おまけ話を追加しました。

気になる人は見に行ってみてください。

《職業を選択してください》


 先ほど同様に、大量のホロウィンドウが出現する。

 流石に二回目は驚かなかった。

 表示された職業の量は凄まじく、戦闘職以外の職業も合わせると、十ページ以上は存在しているだろう。

 ……と、言っても私がなりたい職業は決まっていたので、【タンク】の部門が表示されたホロウィンドウを目の前に持ってくる。


「【騎士】は何処かな……あった」


 やはり、ファンタジーでは王道な職業なだけあって、すぐに発見することが出来た。

 タップして詳細な情報を読み込む。


「攻略サイトで見た情報と変わりはないみたいね」


 【騎士】が他のタンク職と違う点は、パッシブスキルが優秀な点みたいだ。

 このゲームの初期職業は必ず、攻撃スキル、職業スキル、パッシブスキルを一つずつ覚えている。

 【騎士】のパッシブスキルである『騎士の誇り』は、「戦闘時にHPとVITを20%アップし、食いしばりを付与する」という破格の効果を持つ。

 食いしばりというのは、「HPが0になる攻撃を受けた時、一度だけHP1で生き残る」、というものだったはずだ。


「確か、上位職も優秀な派生が多いんだよね」

《職業を【騎士】に確定します。よろしいですか? YES/NO》


 YESをタップする。

 すると、目の前に立っていたキャラクターが光り輝き、【騎士】の初期装備を纏った。


「おおっ、女騎士って感じがする!」


 まだ駆け出し騎士の装備なので、屈強な女騎士……とは言い難かったが、それでも十分なほどにかっこよかった。

 これが私のアバターになるのかぁ……夢みたいな話だなぁ。


《プレイヤーネームを決定してください》


 最後のホロウィンドウが表示される。

 この質問に答えれば、私は晴れて【アイディール・オンライン】の世界へと旅立てる。


「ふふん。実はもう決めてあるんだなぁ~、これが」

《音声認識機能を使用しますか? YES/NO》


 YESを押して、不敵な笑みを浮かべて見せる。

 ここから始まるんだ。

 私の【アイディール・オンライン】がっ!


「アーネストッ!」

《認証しました。プレイヤーネーム:アーネスト》


 その瞬間、私の体が眩い光で包み込まれた。

 咄嗟に両腕で目元を覆って、光の奔流を遮る。

 幸いにも光はすぐに収まって行き、何事もなかったかのように消え果てた。

 覆っていた両腕を、恐る恐る外す。


 ――ガシャッ


 すると、私の両腕から謎の音が鳴り響いた。

 音の発生源に目を向けて見ると、そこには――アーネスト()が装備している、<駆け出し騎士の腕甲>があった。


「――はえ?」


 流れるように下へ目線を向けてみると、大ぶりのたわわが二つ。

 視線も、若干だが高くなっていた。

 鎧越しにペタペタ自分の体を触り、異常をその手で感じ取る。

 これは、もしかして……いやっ、もしかしなくても――


「私、女騎士に――アーネストになってるぅ!?」


 言葉に口にしてから、すぐに自身の失態に気が付いて口を覆う。

 ダメダメダメッ! 屈強な女騎士は「なってるぅ!?」なんて言わない!!

 もっと堅苦しい感じで、こう……。


「ふ、ふむ……。こっ、こんな感じ…………なの、だろう……か?」


 やっぱり、普段の喋り方とは全然違うから変な感じがする。

 でも、そのうち慣れていくだろう……最初のうちはボロが出ちゃうかもしれないけど。


《これにて、キャラクター作成の項目を終了します。次は、ゲームの詳細設定を決めてください》


 えっ? このままスタートじゃないの?

 冒険が始まるって勝手に思っていた私が、ちょっと恥ずかしくなってくる……。


《………………》


 無言の間が痛い。


「よっ、よしっ! もうひと頑張りしようかなっ……じゃなくて、もうひと頑張りだっ!!」


 ……


 …………


「ダメージグラフィックの設定は……うむ、一番リアルなやつにしよう。その方が楽しめそうだ」

《WARNING! このグラフィックは非常にショックの強い表現が含まれています。苦手な方、心臓の弱い方の使用はご控えください。使用の際は、細心の注意を払ってください》


 説明によると、私が選択した設定は、極限までにリアルさを追求したグラフィックらしい。

 通常のダメージグラフィックの場合は、攻撃を受けても赤いポリゴンが飛び散るだけだが、この設定だとまんま血肉が飛び散るそうだ。

 プレイに支障をきたすという理由で内臓までは飛び出ないみたいだが、骨までなら飛び出るらしい。

 端的に言って、とても楽しみだ。


「ふぅ~っ……あらかた終わったな」


 あれから三十分もホロウィンドウとにらめっこしていたため、もうクタクタだった。

 まさか、設定がこんなにもややこしいとは……。


「次が最後の項目か……ん? ――痛覚設定、だと?」


 ◇


 痛覚設定は、五段階のレベルによって分けられている。

 噛み砕いて説明すると、大体こんな感じだ。

 LV:1 痛みを極限まで感じなくした設定。全力で殴られても、ちょっと強めの風圧を受けた時ぐらいの痛みになる。

 LV:2 痛いのが苦手な人はもっぱらこれ。全力で殴られても、デコピンされたぐらいの痛みになる。

 LV:3 殆どのプレイヤーがこの設定にしている。全力で殴られると、普通めに殴られた時ぐらいの痛みになる。

 LV:4 よりリアルさを求めた、ごく少数のプレイヤーが使っている。全力で殴られると、強めに殴られたぐらいの痛みになる。

 

 そして――


《LV:5は、現実と全く同じ痛みを感じます。全力で殴られると、のた打ち回るほどの痛みが発生するため、痛みによるストレスが一定以上検知されると最悪の場合、装着者の安全を守るためハード機がゲームを強制終了します。この設定にする場合は、それ相応の覚悟を持って挑んでください。推奨は致しません。何かしらの後遺症等が残ったとしても、全て自己責任で――》


 私は、その言葉を聞いて絶句した。

 つまり……モンスターに腕を噛み千切られたり、全身の骨が複雑骨折したら、現実と同様の痛みを感じる訳だ。

 まさかそんな、鬼畜外道でドマゾ専用な――とんでもなく素晴らしい設定が存在するだなんてッ!!


「その設定っ、その設定でお願いしますっ!! ――ジュルッ」

《………………えっと》


 食い気味に言ったせいか、人工的な声が戸惑ったような反応を見せた。

 しまった、少し興奮しすぎてしまったようだ。

 冷静になれ、冷静に。口調が普段の喋り方に戻っていたし、女騎士は絶対に涎なんて垂らさない。

 そうだ、騎士道精神を重んじれ。もっとクールに、もっと紳士的に――


《本当によろしいですか? 大の大人が糞尿をまき散らしながら泣き喚いて、多くのプレイヤーを引退へと誘ったゴミのような設定――》

「なんだその最高の設定はっ!? 開発者は天才なのかっ――いや、神か!? 遠慮はいらん、どんと来い!! 寧ろ望むところだッ!!」


 騎士道精神なんて知ったこった、バァ――――――――――カッ!!!!

 【アイディール・オンライン】最高ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!!!!


《…………にっ、認証いたしました》


 引き気味にそう答えが返ってきて、目の前にあったホロウィンドウが消滅する。


《これにて、ゲームの詳細設定を終了します》


 乱雑に口元を拭っていると突然、私の周囲に魔法陣のようなモノが浮かび上がった。

 足が地面から離れ、徐々に体が宙へと浮かび上がってゆく。


「おっ? おおっ?」

《お疲れさまでした。全ての項目が終了した為、【アイディール・オンライン】が正式に開始されます》


 上空に巨大な門が出現し、音を立てながら、ゆっくりと扉が開かれる。

 全開した扉の向こう側には、見たこともない球体の惑星が浮かび上がっていた。


《貴方の旅路に、祝福があらんことを》


 私の体は巨大な門の中に吸い込まれ、目の前で、扉がゆっくりと閉じられてゆく。

 扉が完全に閉ざされる寸前、小さく、声が聞こえてきた。


《期待していますよ……アーネスト》


 その言葉と共に、私の視界はブラックアウトしたのだった。

おまけ話。

解説役ちゃんの最後の言葉、《期待してますよ……○○○○》というのは設定されたセリフなのだが、これを聞いて勘違いする野郎が後を絶たない。

「【速報】俺氏、解説役ちゃんに惚れられる」「期待してるって言われたンゴwww」「解説役ちゃんのファンクラブ結成します」というようなスレが乱立し、みんな言われてることを知った後で起こる殴り合いはある種の恒例行事である。

ちなみに、解説役ちゃんはその醜い争いを見てほくそ笑んでいる。


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