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03.想定外の要望

《視覚、接続完了》



《聴覚、接続完了》



《触覚、接続完了》



《嗅覚、接続完了》



《味覚、接続完了》



《五感全てとの接続が完了しました。本体を起動します》



 目を開くと、そこは、真っ黒な空間だった。

 周りを見渡しても何もない。どこまでも続く箱庭の世界。

 ここは、所謂ホーム画面というやつだ。

 現在は初期設定のため、こんな何もない殺風景な光景だが、設定を弄ればもう少しマシになることだろう。

 曰く、ゲームによってはホーム画面専用の課金追加コンテンツなどが販売されていて、ゲーム内に存在する絶景や、街中の光景をここに映し出すことが出来るみたいだ。

 他にも、ホーム画面の光景を自作する者や、自作したものを販売する者も多く存在しているそうだ。

 開いた瞬間からインターネットに繋がり、設定されたサーバーにアバターを被って出現するなどの設定も可能。

 ゲーム内以外でのフレンドとの交流はそういった、ホーム画面から接続可能なサーバーなどで行われるのが一般的らしい。

 機会があれば試してみるのも面白いかもしれない。


「ええっと……ああ、これね」


 視界の端に表示されていた謎のアイコンをタップすると、空中に浮かぶホログラムウィンドウが出現した。

 ホログラムウィンドウには様々な事が表示されていた。

 【サーバー接続】、【ゲームソフト】、【お知らせ】、【ストア】、【コミュニティ】、【設定】、【ヘルプ】。

 【ゲームソフト】の欄をタップし、父がプレイしたであろうゲームソフトを押しのけて、それが表示されていた。


 【アイディール・オンライン】。


 私は、それを迷うことなくタップした。


《【アイディール・オンライン】を起動します。よろしいですか? YES/NO》


 私はその文字を見て、つい口元を歪めると、すぐにYESをタップした。

 その瞬間、真っ黒な空間がとてつもない光の奔流に飲まれる――。


 ◇


「すっ、凄かったなあ……」


 つい先ほどまで流れていたプロローグを思い出して、感嘆の声を上げる。

 一応、ネットに載っていた世界設定の説明に目を通していたつもりではあったが、文字を追うのと、実際に見るのとでは、雲泥の差であった。

 360°見渡せる壮大なグラフィックに、何処からともなく聞こえてくる壮大なBGM。貫禄のある老人の声で語り継がれる物語は、圧巻の一言であった。


「最新のゲームって凄いなあ……なんだか、一瞬にして異世界に入り込んじゃった気分」

 

 余韻に浸っていると、目の前に表示されていた横に細長い容器が、液体で100%に満たされる。

 初めて見たが、これがロード画面というやつなのだろう。

 初めての起動なので、もっと掛かるのかと勘ぐっていたが、案に相違して二十秒ほどでロードは完了した。

 ロード画面が終了すると共に、世界に色が付け加えられる。


《ようこそ【アイディール・オンライン】の世界へ》


 人工的に作り出されたであろう、女性の声が響く。

 先ほどまで居た真っ黒な空間とは打って変わって、そこは、真っ白な空間だった。

 見上げてみると、そこら中に幾何学的な模様が浮かんでおり、常に形を変えて動き続けていた。


《キャラクターを作成してください》

「わひゃっ!?」


 突然、目の前に大量のホログラムウィンドウが表示されたので、驚いて情けない声を上げてしまった。

 ここに私以外の人がいなくてよかった……。


「まずはキャラメイクね……へえ、身長から体格まで設定出来るんだ」


 取りあえず、胸の大きさはMAXにしてと。

 それ以外の部分は……今は弄らなくてもいいかな。

 まずは外見から作っていって、それに見合う体格に調整することにしよう。

 胸以外は。


「よーしっ! こういうのは初めてだけど、頑張ってみようかな~!」


 ……


 …………


「ダメだぁ……全然っ、思い通りに行かないぃ」


 あれから小一時間格闘したが、やはり(・・・)、私にはこう言った才能が全くないらしく、納得のいくキャラクターが作成できなかった。

 どうしよう……妥協してこれでプレイするか、それとも、もう少し頑張ってみるか…………ん?


「なんだろうこれ、【キャラクター自動作成機能】……?」


 もう諦めかけて、スライムになり掛けていた……そんな時だった。

 キャラメイク画面の末端部に、そんな文字を発見したのは。

 試しにタップしてみる。


《【キャラクター自動作成機能】とは。キャラメイク初心者や、キャラメイクが苦手な人のために作られた救済措置機能です。ある程度の要望を出すと、スーパーAIが自動的に要望に見合ったキャラクターを一瞬で作成してくれます。使用しますか? YES/NO》


 その文字に目を通して、しばしの間、硬直してしまう。

 普段は絶対にしない……いや、しちゃいけない顔をしていたはずだ。

 そして――溜まっていた鬱憤が、一気に大爆発した。


「それがあるなら先に言ってよぉぉぉぉ!!」


 康葉は激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐の開発者にクレームを入れねばならぬと決意した。


「私の小一時間の苦労は一体……ッ」


 ガックリと膝を地面に付ける。

 しかし、こんなところでへこたれていてはいつまで経ってもゲームを始められない。

 なんとか正気を取り戻して、フラフラと立ち上がり、YESをタップする。


《認証しました。音声認識機能を使用しますか? YES/NO》

「音声認識機能かあ……どうしようかな」


 実を言えば、作りたいキャラクターモデルはとっくのとうに決まっていた。

 それを作成する才能がなかった、というだけで。

 しかし、私の作り出そうとしているキャラクターはあまりにも、あまりにも…………過ぎるっ……ッ!


「――いやっ、ダメだ。一之瀬康葉ッ……こんなところで止まってたら、貴方はいつまで経っても――なりたい自分になれないッ!!」


 勢いのままYESをタップし、大きく息を吸う。

 そして、口にする。

 私の“性癖(ようぼう)”を。


「化け物共に蹂躙されて、凌辱の限りを尽くされそうな……くっ殺されそうな、金髪碧眼で屈強な女騎士にしてくださいッ!!」

《………………》


 静寂が訪れる。

 この回答はスーパーAIの頭脳を持ってしても予想外過ぎる要望であった。


「…………? あっ、あれ……? 一瞬で出来上がるんじゃ……?」

《認証しました》


 一瞬だけ間をおいてから、そう返答が返ってきた。

 その言葉と共に、目の前に居たなんちゃって女騎士の姿が崩れ、新たな肉体が形成されてゆく。

 身長は現実の私より高く、肉体は引き締まり、綺麗な金髪は後ろで結ばれていた。

 凛々しく美形な顔に、全てを貫かんばかりの力強い碧眼。

 ホントに一瞬の出来事であったが、その光景は、とても幻想的な光景だった。


「うわあ、凄い……っ! これだよ、これ! 私の求めていた女騎士はっ!!」


 冷めぬ興奮に身を任せ、出来上がったキャラクターに近寄って行った。

 まさに私の求めていた、化け物に凌辱されたらとてもエロそうな女騎士――だったのだが。

 私は気づいてしまった。

 一番大事な部分が中途半端な大きさになってしまっている、という事実に。


《完成しました。キャラクターを決定しますか? YES/NO》


 私は迷うことなくNOを押した。

 体形の設定画面を開き、【胸】という項目をMAXにする。


「よし、完璧っ!」

《…………キャラクターを決定します。よろしいですか? YES/NO》

「当然ッ!!」


 今度こそYESをタップする。

 なんだか変な間があった気がするが、所謂ラグというやつだろう、と勝手に納得して次に進んだ。

え? どうして康葉ちゃんはそんなにも胸に拘っているのか、だって?

そりゃ勿論、現実世界がナイチチだから――おっと、誰か来たようだ。


おまけ話

解説を行っている人工的な女性ボイスは何を隠そう、このサーバーを管理するスーパーAIである。

あだ名は「スーパーAIちゃん」「解説役ちゃん」など。

何億という事柄を平行しても処理落ちしないことで有名なスーパーAIちゃんだが、康葉ちゃんの要望を聞いて一瞬だけ処理落ちした。

その結果、他の場所で行っていた事柄が同時に一時停止し、スレッドで結構な話題となったのだとか。

「【悲報】我らの女神が処理落ちした」「一瞬だけ解説役ちゃんとの会話止まったけど、アレなんだったの?」「大型イベントの予感がするぞぉぉぉぉ!!」


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