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02.人類の叡智すらも乗り越えて

連続投稿です。

本日は、あと一話更新します。

「と、届いちゃった……! 遂に届いちゃった……!!」


 あれから一週間後。

 私の手元には、つい先ほど届いたばかりの紙袋が収まっていた。


「【アイディール・オンライン】……ッ! ああ、楽しみだなあ。早くやりたいなあ……!!」


 感情が起伏し、紙袋を絶対に逃すまいと勢いよく胸に抱き留めた。


 ――ゴッ!!


 硬いものと硬いものがぶつかる感触に、僅かに顔を顰める。

 ぶつかったのは当然、ゲームディスクの入ったプラスチックと――


「…………やっぱり私って、まったく無いんだな」


 先ほどまでの高揚感は若干薄れ、小さく溜息を吐いてからリビングへフラフラと向かっていった。

 リビングに続く廊下を突き進み、扉を開くと、テレビを見ている勇太の姿が偶然にも目に入る。

 その瞬間、先ほどとは異なる高揚感に再び胸の中が沸き立った。

 これが所謂――人に物を自慢したくなる気持ち、というやつなのだろう。

 初めての感情に、衝動のまま勇太へと話しかける。


「ねえねえ、勇太!!」

「……ん? お姉ちゃんどうしたの?」

「じゃーんっ! 見て見てこれ、なんだと思う?」

「――ええっ!? 【アイディール・オンライン】じゃんっ! ……どうして!?」


 ふふふっ、予想通りの反応だ。

 ちょっと大人げないかもしれないけど、これをせずにはいられなかった。


「実は買ったんだ~っ! ついさっき届いたの!」

「えぇ~っ!! 姉ちゃんだけズルい! ズルいズルいズルい!! 僕もやりたいっ!!」


 勇太はソファから立ち上がって、私の前で地団太を踏み始めた。

 じゃあ、勇太も買ったらどう? ……という訳にはいかなかった。


「ダ~メっ。十六歳を超えなきゃ、あのゲーム機を使っちゃいけないの、勇太も知ってるでしょ?」


 フルダイブ型VRゲームハード機には、明確な年齢制限が存在している。

 発売当時のことだ。このゲーム機は子供の成長への悪影響があるのではないか? という、ゲーム機発表当時からまことしやかに囁かれていた噂がネット上に加速度的に広まったのだという。

 そう言った事例は確認されない、というのが開発者たちの見解であったが、デマ情報は広がるに広がり、最終的には十八歳以上しか使用してはならないという規約が生まれたのだ。

 しかし、それを黙っていない者たちも居た。

 そう、十八歳未満の学生たちだ。

 この時代だ。ネットで同じ不満を持つ者たちを見つけるのも、それを集めるのも容易いことであった。

 メディアにそのデモが取り上げられると共に、人は一気に集まり、結果、十八歳未満で構成された大規模集団によるデモが発生したりと……まあ、色々と複雑な事情によって、現在は規約が十六歳以上に改定されたのだ。


「知ってるけどさぁ~。ズルいものはズルいんだよぉ~」

「勇太は沢山ゲームを持ってるから良いじゃない。お姉ちゃんはこれが初めてのゲームなんだもん」

「………………」


 勇太がぷぅ~と頬を膨らませてだんまりを決め込む。

 これはいつも最新のゲームを自慢してくる勇太への、ちょっとした仕返しだ。

 自慢されるたび、いつも「羨ましいな」と思うこっちの身にもなってほしい。


「じゃあお姉ちゃんは早速やってみるから……邪魔しないでね?」

「あっ! ちょっと、まだ話は終わってないって!」

「会話が止まった時点で話は終わりですよ?」


 してやったとばかりに笑みを浮かべて見せる。

 階段を上がっている間、勇太の騒ぐ声が引っ切り無しに聞こえてきたが、全て聞こえないフリをする。

 自分の部屋に入ると、既に最新のフルダイブ型VRゲームハード機とヘッドギアが置かれていた。

 【アイディール・オンライン】が今日届くことはわかっていたので、先立って準備をしておいたのだ。

 これは、康葉の父である一之瀬涼太郎(いちのせりょうたろう)の私物だった物だ。

 最近全く使っていないことは知っていたので、ちょっとおねだりしたら譲ってくれることになった。

 本体の起動も確認済みだ。


「これをこうして…………よし、準備完了!」


 説明書を読みながら細かな調整などを終えると、ヘッドギアを装着してベッドに寝転がった。

 深呼吸をしてから、ネットに書いてあったVRゲーマー基本三箇条を復唱する。


「トイレは小も大も済ませた上で水分と栄養補給を済ませる事。ガチでやる必要がない場合はベッドに横たわってプレイする事。起きてすぐ水分補給できるようにペットボトル飲料水は近くに置いておく事。

……荷物が届く少し前にご飯を食べて栄養補給した。その後にトイレも済ませた。お試しのログインだから、ベッドで横たわってのプレイ。飲料水も設置完了」


 全ての項目を既に達成していた私は、満面の笑みを浮かべる。

 そして、仮想空間へ旅立つためのキーワードを口にした。


「接続、開始」


 ◇


 フルダイブ型VRゲームハード機が最初に発売されたのは、この物語の始まる十年も前の事だった。

 当時最高峰の科学の叡智を結集させ、作成された伝説のゲームハード……その名も【レボリューション】。

 フルダイブ型VRゲームハード機というのは、その名の通り、まるで「ゲームの世界に入り込んでしまった」かのような体験が出来るものだ。

 いくつものゲームが発売され、業界は常に賑わいを見せていたが、その中でも特に賑わいを見せていたジャンルがあった。それは――VRMMORPG。

 VRMMORPGとは、Virtual(バーチャル) Reality(リアリティ) Massively(マッシブリー) Multi(マルチ) player(プレイヤー) Online(オンライン) Role(ロール)-Playing(プレイング) Game(ゲーム)の略称であり、MMORPGの進化版である。

 プレイヤーはアバターとして仮想空間にダイブし、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚と言った五感全てをアバターを通して感じることが出来る。

 そこは、ある種の異空間であり、異世界。

 現実では到底実現不可能なことを、その世界では実現させることが出来る、まさに我らの理想郷であった。


 VRMMORPGというゲームジャンルが世の中に普及し、早十年。

 満を持して登場した、完全完璧なVRMMORPG【アイディール・オンライン】が発売された。

 従来のVRMMORPGと違う点は、サーバーの管理をスーパーAIが担っており、バグやチート行為への対応、プレイヤーからの意見の反映、といった諸々の行動が全て迅速に行われるところだ。

 他には、サーバーを一つ管理するのに、超大型ビルを丸々三つも使っているため、ラグが全く存在しないことや、サーバーを一度停止してのメンテナンスが不要、と言った点が上げられるだろう。

 約三カ月前。この完全完璧なVRMMORPGの発売に、全世界のゲーマーは歓喜の雄叫びを上げた。

 発売と同時に全世界での売上本数10億本を突破し、現在では総売上本数25億本という歴代最高の偉業を成し遂げている。

 普段、ゲームをプレイしないような人々も、こぞってこのゲームを購入したのだと言う。

 その理由は単純な好奇心から、というモノが多いだろうが、もし理由を上げるとするならば、それは自由度の高さだろう。

 農業、商売、鍛冶、建設、小物作り、ファッションデザイナー、音楽家、料理、釣り、と言った上げればキリがない程の多種多様な職業が存在しており、そのどれもが一つのゲームとして販売されていてもおかしくないほどの作り込みが成されている。

 【アイディール・オンライン】のキャッチコピーである「この世界では、誰もが主人公」を掲げることが出来ているのは、このように、戦闘面だけではなく、生活面も大きく作りこまれていることなどが大きいだろう。

 このゲームの舞台となっている【ユートピア】という名の世界は、探索出来るフィールドがあまりにも広大であり、その大きさは地球以上であると、まことしやかに囁かれている。

 【ユートピア】に住まうNPCノンプレイヤーキャラクター全てに小型のAIが搭載されているため、会話しても全く違和感を感じず、PCプレイヤーキャラクターと間違えられてしまうことはよくあることだった。


 この世界は、もはやゲームの領域を超えていた。

 そんな、欠点という欠点が存在しない無敵のVRMMORPG【アイディール・オンライン】。


「ハロォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!! ニュゥゥゥゥゥゥワァァァァァァァァルドォォォォォォォ――――――――ッッッッ!!!!!!」


 その世界に、スーパーAIの頭脳を持ってしても予測不能だった超ド級の変態(イレギュラー)が降り立つのであった。

学校ではお嬢様みたいな康葉ちゃんですが、家では結構お姉ちゃんやってます。

可愛いですね。こんな子が歪んでいく姿はとても来るものがあります(変態おじさん降臨)


おまけ話

康葉ちゃんがお父さんにハード機を譲ってくれと頼んだ時、お父さんは感極まって泣いてしまったそうです。

「うちの娘がっ!? おねだりなんてしたことがなかったうちの娘が、ついにおねだりを……ッ!! ――よーし、パパ! 奮発して、最新の大型ハード機買っちゃうぞぉ~!!」

大型ハード機の購入は康葉ちゃんに止められました。


※大型ハード機。通常機はヘッドセットの形状をしているが、大型ハード機は体が丸々収まる系のアレ。

長期間プレイしてても全く体に影響がなく、逆に体の疲れが取れるという最強の機械。値段はお察し。


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