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墜落そして出会い

IFルートの悪魔君登場だよ。悪魔らしくクソみたいな性癖してるよ。

主人公ちゃんはMP切れで他の人からすると取るに足らない存在に見えてるよ。

 北の国の森林。森特有の空気と肌寒い気候が合わさり、独特の雰囲気を醸し出していた。

 深い森の中木漏れ日が差し込み、小さな黄色の蝶や瑠璃るり色の蝶がひらひらと飛んでいる。近くに水場があるのか、水特有の臭いがする。

 それは雨上がりの道のように、独特の臭いと土の臭いが混ざって、どことなく神秘的な光景だった。


 そこに倒れ伏す少女がいた。ところどころ焼け焦げた痕のある白いワンピースのような服を着ていて、呆けたように虚空を見つめている。虚ろな瞳には意思の光など感じられない。

 泥濘ぬかるみ抉れた道に転がっているのに不思議な事に泥一つ彼女の体にはついていない。


 「………どこだここ」


 少女の瞳に光が戻る。辺りを探るように瞳が動き、ゆっくりと体を起こす。ようやく私の意識がハッキリしてきた。魔力切れのせいで心此処に非ずといった状態になったようだ。幸いにも防御魔術を常に貼ることが出来たおかげで光速で飛行し、勢いよく着弾したのに傷一つついていない。汚れも無い、凄い。が少々寒い。

 よっこらせ。ババアみたいなかけ声を上げて立ち上がる。


 とりあえず水だ水、喉渇いたし、気分的に水浴びたい。


 幸いにも水辺はすぐ近くにあった。湖だ。周りを針葉樹みたいな木に囲まれて、上を見上げれば綺麗な月が上っていた。月光を新雪のようだと表現した昔の詩人がいたとかなんとか。

 確かに白く美しい。冷たく差し込むような、魅入られてしまうような、強く、存在感がある。思わず月に手を伸ばす。

 

「………?」


 一瞬コウモリのような翼が生えた何者かがいた気がしたが瞬きの間に消える。


 水面に映る月も美しく。この光景をカメラで撮影したかったなぁと少し残念に思った。



□□□


 ――五百年以上前の話だ。


 具体的には、悪魔達の実益と趣味を兼ねた魔力持ちとの仮契約が『悪魔隷属の儀』へと呼び名を変え、魔法使いや魔族だけでなく人間にも広まり始めた時期だった。 現世から隔離された虚数空間にも、外の世界の者達の声少しずつ届き始めた時期。その後訪れる激動の時代の前触れとも言える、小さな変化がさざなみのように起こっていた時期だった。


 その日たまたま、悪魔は虚数空間から現世の森に出た。気の趣くままに世界に転がり出てみることが 彼の日課だった。 長命の者にとって退屈は病と言っても良い。その身を蝕む退屈を凌ぐために、悪魔にしては勤勉に暇つぶしを行っていた。日によって、ただの散策であったり、人間の疑心を煽り村人達に同士討ちさせて壊滅させたり。

 特に、何か信念がある行動という訳ではない。 しかし、あえて一貫したものがあるとするなら『期待』だった。 昨日とは違う明日を求める淡い希望だ。悪魔が希望だなんて笑われてしまうが。

 全てを壊し、混乱をもたらす劇薬――悪魔は常にそれを求めていた。それこそ、邪神親衛隊なんてクソ面倒くさい部隊に所属されてから長年に渡って。

 悪魔は他者と『格が違う』と考えるものだ。己は絶対的に揺らがされることはなく、例え神の名を冠する他種族だとしても、ただの暇つぶしの道具に過ぎないという傲慢な者が多い種族。その中で、自分が混乱をもたらすのではなく、他からの影響や変化を望む彼は相当な変わり者であった。


 悪魔は欲望や魂、負の感情を糧に生きているというのに他の悪魔達は片手間の作業で魂を抜き取って食べている。

 ー辻斬りみたいに喰う事の何が楽しんだかー

 絶望にまみれた心や疑心暗鬼に陥った心。思い上がりを打ちのめされた心はとてつもなく耽美な味がするのに、食材にこだわらない他の悪魔達の無味乾燥な生き方が心底理解できなかった。


「あぁー、何か面白いこと転がってないかねぇ」


 数多の悪魔崇拝者の目を通し、飽きるほど眺めた人間達の営み。どの光景を目に映しても退屈で代わり映えのないものばかり。 異邦人なる者が大量に現れていた時代、幾度も大きな内乱が起こり、人間達がみずからの救世主を殺してしまい、自滅していく様を眺めたことがある。あれは大層愉快だった。

 しかし、そんな面白い事は数十年前からピタリと止んでしまった。

 永劫を生きる悪魔であるのにたった数十年で退屈してしまうのは堪え性がないが。そんなことを言ったって退屈なものは退屈なのだから仕方がない。


「教会の『処刑人』集団が虚数空間へのゲートこじ開けようとしてないかなあ~と」


 物騒なことを口走る。 実際に起こったとしても、そういった事件に対応せず、逃げ出すつもりなので気楽な口調だった。対岸の火事は眺めるに限る。そうだ、いけ好かない上位悪魔共が人間ごときとの争いで死んでしまえば良い。或いは怪我をするだけでも少しは気が晴れるだろう。

 どうでも良い今日が、このまま大した変化も無く終わる。つまらない。何か誑かせば退屈を潰せるかなど考え、イマイチ意欲が沸かない。


「ん?」


 ふと、見慣れた風景に異物が映った。 木々の間に紛れるように存在する小さな違和感。 僅かな期待を膨らませてそこへ降り立ち、しかしすぐに落胆した。


「なんだ、人間か……」


人間の子供だった。 年は7にも届かないだろう、幼い少女だ。 ところどころ焦げた服に身を包み、呆けたように虚空を見つめている。 心ここに在らずの状態で、仰向けに転がっていた。虚ろな瞳には意思の光など感じられない。 珍しいといえば珍しいものだった。しかし、何の力も感じない絞り滓のような生命に興味はそそられなかった。無力な子供など何をするまでもなく死に至るだろう。そう納得し、悪魔は虚数空間に帰った。

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長かった序章が終わり、遂に冒険譚(難度ルナティク)始まる予定だぜ!

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