7話 阪神が優勝するまでは
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「何だい。
それがアイウエオかい。
おまえたちには、それではアイウエオもアカサタナも同じなんだな。」
「それはちゃう。」
「どうちがうんだ。」
「むずかしいのはこれをたくさん続けたのがあるんや。」
「つまりこうだろう。」
ドグラマグラ太郎はまたキイボウドをとって、せやなせやなせやなせやなとつづけて書きました。
すると大阪鳥はたいへんよろこんで途中からせやなせやなせやなせやなとついて書きました。
それももう一生けん命からだをまげていつまでも叫ぶよに書くのです。
ドグラマグラ太郎はとうとう手が痛くなって
「こら、いいかげんにしないか。」
と云いながらやめました。
すると大阪鳥は残念そうに眼をつりあげてまだしばらくなぞっていましたがやっと
「……やなせやなせっせっせっせっせ」
と云ってやめました。
ドグラマグラ太郎がすっかりおこってしまって、
「こらとり、もう用が済んだらかえれ」
と云いました。
「どうかもういっぺん書いてくれ。
ドグラマグラ太郎先生のはいいようやけれどもすこしちゃうんや。」
「何だと、おれがきさまに教わってるんではないんだぞ。
帰らんか。」
「どうかたったもう一ぺんおねがいや。
どうか。」
大阪鳥は頭を何べんもこんこん下げました。
「ではこれっきりだよ。」
ドグラマグラ太郎はキイボウドをかまえました。
大阪鳥は
「くっころ」
とひとつ息をしました。
「いやになっちまうなあ。」
ドグラマグラ太郎はにが笑いしながら書きはじめました。
すると大阪鳥はまたまるで本気になって
「せやなせやなせやな」
とからだをまげてじつに一生けん命書きました。
ドグラマグラ太郎ははじめはむしゃくしゃしていました。
しかしいつまでもつづけて書いているうちにふっと何だかおかしいぞとおもいました。
これは鳥の方がほんとうのアイウエオかなという気がしてきました。
どうも書けば書くほど大阪鳥の方がいいような気がするのでした。
これはいよいよおかしいとおもいました。
「えいこんなばかなことしていたらおれは大阪鳥になってしまうんじゃないか。」
とドグラマグラ太郎はいきなりぴたりとキイボウドをやめました。
すると大阪鳥はどしんと頭を叩かれたようにふらふらっとしてそれからまたさっきのように
「せやなせやなせやなせっせっせっせっせっ」
と云ってやめました。
それから恨めしそうにドグラマグラ太郎を見て
「なんでやめたんや。
ぼくらならどんな意気地ないやつでも阪神が優勝するまでは続けるで。
しばくで。」
と云いました。




