4話 バナナ
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「あばばばば、芥川竜之介作品。」
大阪猫は口を拭いて済まして云いました。
「そうか。
『あばばばば』
というのはこういうのか。」
ドグラマグラ太郎は何と思ったかまず定位置にあるティッシュを引きさいてじぶんの耳の穴へぎっしりつめました。
それからまるで嵐のようないきおいで
『ドグラマグラ』
という草案を書きはじめました。
すると大阪猫はしばらく首をまげて読んでいましたがいきなりパチパチパチッと眼をしたかと思うとぱっと扉の方へ飛びのきました。
そしていきなりどんと扉へからだをぶっつけましたが扉はあきませんでした。
大阪猫はさあこれはもう一生一代の失敗をしたという風にあわてだしました。
眼や額からあばばばばを出しました。
するとこんどは口のひげからも鼻からもあばばばばが出ました。
大阪猫はしばらくするとこれが噂の暗黒微笑かなというような顔をしました。
ドグラマグラ太郎はすっかり面白くなってますますいきおいよくやり出しました。
「ドグラマグラ太郎先生もうたくさんです。
あばばばばは。
ばがたくさんですよ。
ごしょうですからやめてください。
これからもうドグラマグラ太郎先生のバナナなんかとりませんから。」
「だまれ。
これから胎児の記憶をつかまえる所だ。」
大阪猫はくるしがってはねあがってまわったり壁にからだをくっつけたりしました。
壁のむこうからは何やらよくわからない声がきこえるばかりでした。
しまいは大阪猫はまるで風車のようにぐるぐるぐるぐるドグラマグラ太郎をまわりました。
ドグラマグラ太郎もすこしぐるぐるして来ましたので、
「さあこれで許してやるぞ」
と云いながらようようやめました。
すると猫もけろりとして
「ドグラマグラ太郎先生、こんやの投稿はどうかしてはるね。」
と云いました。
ドグラマグラ太郎はまたぐっとしゃくにさわりましたが何気ない風でバナナを一本だして口にくわえました。
それからバナナをもぐもぐたべてから云いました。
「どうだい。
具合をわるくしないかい。
口を開けてごらん。」
大阪猫はばかにしたように口をあーんとあけました。
ドグラマグラ太郎はいきなり大阪猫の口の中にバナナをつっこみました。




