2話 窃盗
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それは何でもない、あのごつごつしたキイボウドでした。
ドグラマグラ太郎はそれを床の上にそっと置くと、いきなり棚からバナナをとって皮をむいてもぐもぐとたべました。
それから頭を一つふって椅子へかけるとまるで虎みたいないきおいで草案を書きはじめました。
草案をめくりながら書いては考え考えては書き一生けん命しまいまで行きました。
それからまたはじめからなんべんもなんべんもごうごうごうごう書きつづけました。
夜中もとうにすぎてしまいました。
もうじぶんが書いているのかもわからないようになってしまいました。
顔もまっ赤になり眼もまるで血走ってとても物凄い顔つきになりいまにも倒れるかと思うように見えました。
そのとき誰かうしろの扉をとんとんと叩くものがありました。
「なろう民さまか。」
ドグラマグラ太郎はねぼけたように叫びました。
ところがすうと扉を押してはいって来たのはいままで五六ぺん見たことのある大きな大阪猫でした。
ドグラマグラ太郎の畑からとった半分熟したバナナをさも重そうに持って来てドグラマグラ太郎の前におろして云いました。
「ああくたびれた。
なかなかバナナの窃盗はしんどいな。」
「何だと」
ドグラマグラ太郎がききました。
「これおみやげやで。
たべてや。」
大阪猫が云いました。
ドグラマグラ太郎はまよなかのむしゃくしゃを一ぺんにどなりつけました。
「誰がきさまにバナナなど持ってこいと云った。
第一おれがおまえのバナナなど食うか。
それからそのバナナだっておれのバナナだ。
いままでもバナナを無断で鑑定したり無限アイテムボックスに好きなだけつめたのはおまえだろう。
行ってしまえ。
大阪猫め。」
すると大阪猫は肩をまるくして眼をすぼめてはいましたが口のあたりでにやにやわらって云いました。
「ドグラマグラ太郎先生。
そうお怒りになっちゃ、おからだにさわるで。
それよりドグラマグラ太郎先生。
読んだるさかい。
書いてみ。」
「何をだ。」
大阪猫は一息ためて云いました。
「吾輩は猫である、夏目漱石作品。」
大阪猫はニヤリと笑いました。




