10話 大合作の夜
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するとおっかさんのねずみはいかにも心配そうにそ云いました。
「どうだったの。
気分はいいかい。」
こどものねずみはすこしもへんじもしないでまだしばらく眼をつぶったままぶるぶるぶるぶるふるえていました。
しばらくたつと活字中毒のふるえがとまり起きあがって走りだした。
「ああよくなったんだ。
ありがとうございます。
ありがとうございます。」
こどものねずみは云いました。
おっかさんのねずみもいっしょに走っていましたが、まもなくドグラマグラ太郎の前に来てしきりにおじぎをしながら
「ありがとうございますありがとうございます」
と十ばかり云いました。
ドグラマグラ太郎は何かかあいそうになって
「おい、おまえたちは塩パンはたべるのか。」
とききました。
すると野鼠はびっくりしたようにきょろきょろあたりを見まわしてから
「塩パンというものは小麦の粉をこねたりむしたりしてこしらえたものでふくふく膨らんでいておいしいものに塩をかけたそうでございます。
私どもはパン屋へなど参ったこともございません。
ましてこれほどお世話になりながらどうしてそのうえ塩パンをほおばれましょう。」
と云いました。
「いや、そのことではないんだ。
ただたべるのかときいたんだ。
ではたべるんだな。
ちょっと待てよ。
その腹の悪いこどもへやるからな。」
ドグラマグラ太郎はキイボウドを床へ置きました。
そして戸棚から楽しみにしていた塩パンひとふくろをまるごと群馬ねずみの前へ置きました。
群馬ねずみはもうまるでばかのようになって泣いたり笑ったりおじぎをしました。
それからだいじそうに塩パンひとふくろとこどもをくわえて外へ出て行きました。
「あああ。
鼠と話するのもなかなかつかれるぞ。」
ドグラマグラ太郎はねどこへどっかり倒れてすぐぐうぐうねむってしまいました。
それから六日目の晩、とうとう大合作の夜がやってきました。




