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まいちゃんの消しゴム

作者: 鬼灯零個

「かえして」

「ちょっとまって」

「かえして! どろぼう!」

「どろぼうじゃないもん、ちょっとかしてっていっただけだもん」

 そう言うと、あーちゃんは消しゴムをポーンと上になげました。消しゴムは、教室の天井にあたり、目にもとまらぬはやさで、ゆかにおちたかとおもうと、ポンポンとふきそくにはねてどこかへいってしまいました。

 消しゴムは、見つかりませんでした。消しゴムがなくなったまいちゃんは、しくしくと涙を流して泣き、クラスのだれかが、担任のえい子先生を呼びに行きました。今日の休み時間の出来事です。

 そのあと、あーちゃんは先生に注意されました。まいちゃんに、あやまるように言われました。でも、あーちゃんはあやまりませんでした。はじめに、いじわるをしたのは、まいちゃんだからです。まいちゃんが、あーちゃんにだけ、消しゴムを見せてあげなかったのです。あーちゃんは、ただ、まいちゃんのにおいつきのかわいい消しゴムが見たかっただけでした。においをかいでみたかったのです。

 消しゴムが見つからないので、あーちゃんは悪者になってしまいました。えい子先生が言いました。

「じぶんの消しゴムがなくなっても、かなしくないの? わざとじゃなくてもひとにめいわくをかけたときはあやまりなさい。あなたの消しゴムがなくなっても平気なの?」

「うん。消しゴムぐらいまた買ってもらうもん」

 あーちゃんの消しゴムが家出をしたのは、その晩でした。次の日の朝、あーちゃんのふでばこから、消しゴムはいなくなっていました。でも、まいちゃんのふでばこには、あたらしいピカピカのいいにおいがするかわいい消しゴムが入っていました。

 あーちゃんは、消しゴムがなくなったことを、お母さんに言うことができません。あーちゃんのおうちは、三年前、お父さんが亡くなってから、とても節約をしていて、あーちゃんは簡単にものを買ってもらえないのです。あーちゃんの消しゴムは、お父さんのペンケースに入っていた大人用のものでした。かわいくはないけれど、よく消えるし、ほんとうは大切にしていたのです。

 それから何日たったでしょう。あーちゃんは消しゴムのない不便な日々をすごしていました。あーちゃんの消しゴムはどこをさがしても見つかりません。まいちゃんとも気まずい関係が続いていました。

 ある夜、あーちゃんの夢の中に、あーちゃんの消しゴムとまいちゃんの消しゴムが手をつないで、なかよくあらわれました。

「この方がわたしをみつけてくれたの」

 まいちゃんの消しゴムが言いました。

「これから、えい子先生のところに行ってきます」

 あーちゃんの消しゴムが言うと、二人はすうっと消えていきました。あした、まいちゃんにあやまって、なかなおりしようと、あーちゃんは思いました。


 次の日、あーちゃんとまいちゃんは職員室に呼ばれました。

「この消しゴム、朝、先生のつくえの上にあったんだけど、あなたたちの? だよね?」

 えい子先生のてのひらの真ん中で、よりそっているあーちゃんの消しゴムとまいちゃんの消しゴムは、なんだか幸せそうにみえて、あーちゃんは勇気がわいてくるのを感じました。

「ごめんなさい、いじわるしてごめんなさい」

 先に、口をひらいたのは、まいちゃんでした。まいちゃんの夢にも、消しゴムたちがあらわれたのだそうです。

「わたしのほうこそ、ごめんなさい」

 それから、あーちゃんとまいちゃんは、なかなおりをし、前よりもっとなかよくなりました。

 あーちゃんのお父さんがなかなおりさせてくれたのかもしれませんね。


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― 新着の感想 ―
[良い点] この文字数で、子供のわがままさと純粋さをうまく表現できているのには脱帽です。 [一言] 童話には、善があり、悪があり、教訓がなければならないというのは、自分が勝手に決めたルールです。自分の…
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