シム
* * *
タツキは意識を保っていたつもりだが、時々意識を失っていた。
気が付けば、真っ白な部屋に運び込まれていた。
「右向きに寝せるね。先に左側だけ治すから」
少年が手のひらをかざすと、タツキの左腕の怪我は治った。
どうやら、少年は治療魔法が使えるようだ。
「こっちは骨が折れてないね」
タツキの肩から左腕を触り、確認した。
タツキを右向きに寝せる。
「麻酔するから。いい夢見てね」
少年はにこりと微笑む。
そこで、タツキの意識はぶっつり切れた。
次に目が醒めた時、タツキは全身ぎっちぎちに拘束されていた。
右向きに寝せられた姿勢のまま、体は動かない。
無機質な白い壁の部屋。
タツキが起きたのに気づくと、少年はにこりと微笑んだ。
「起きた? まずは自己紹介しようか? 僕はシム。きみは?」
「タツキ」
タツキは起き上がろうと思ったが、体がまったく動かない。
「まだ動かないでね。骨が結構ひびいっちゃってるから」
「タツキは天空岩の竜人だね? 親御さんは? 連絡したいんだけど」
タツキは家族の名前を告げた。
シムは、ふむふむとメモを取る。
その様子を眺めながら、タツキはまた眠るように気を失った。
次に目が醒めた時は、部屋の電気が消えていた。
タツキの体はあいかわらず拘束されて動けないままだった。
体中のあちこちにチューブが刺さってるのがわかった。
それがどういう意味なのか、よくわからないまままた眠った。
タツキはこうして寝ては醒め、醒めては寝てを繰り返していた。
ある時は、いつぞやの黒いファッティと呼ばれていた物体が部屋の中をがさがさ動いていた。
壁を拭いたり、床を履いたり掃除してるようだ。
眠るまで、タツキは黒い物体が掃除する様を見ていた。
ある時、目が醒めたタツキは、眠るシムを見ていた。
シムは椅子に座った姿勢で寝ていた。
竜人であるタツキは、人間が眠るのをはじめて見た。
背中に翼があるタツキは、背もたれのある椅子に座るという概念がない。
その時、タツキはシムが微動だにしないことに気づいた。
人間はそうやって眠るのか――なんて思っていた。
どれくらい経っただろうか。
「骨は繋がったみたい」
シムの声が聞こえた。
「これは外すね。うつ伏せがいいかな……」
そこで眠りに落ちた。
次に目が醒めた時、タツキは起き上がれるようになっていた。
地上に落ちてから、一週間が経過していた。