《サクラ》
「可愛いね」
「将来はきっと美人さんになるね」
物心ついた頃には、すっかり聞き飽きた言葉。これを口にするのは決まって男性だった。
どうやらわたしは、男性を惹きつける容姿をしているらしい。
お陰で得することもあったけれど、大抵ははわたしを周囲から孤立させる要因となった。
男の子や男の人はみんなわたしに親切にしてくれるのに、女の子のほうは親の仇を前にしたみたいにわたしに敵意を向けて来る。わたしは昔から、同性に嫌われやすかった。
同年代の女の子の集団に入ろうとしても、必ず爪弾きにされた。あからさまな態度をとられなくとも、陰口は聞こえてきた。
「可愛いからって、調子にのっている」
「自分に自信あるんじゃない? サクラって目立ちがりなとこあるよね」
「わたし、あの子嫌ーい」
すべて身に覚えがなかった。
わたしは調子に乗ってもいないし、特別目立ちたいとも思わない。
普通にしているだけなのに、なぜ陰口を言われてしまうのだろう。まだ十歳に満たない年齢だったわたしにとって、彼女たちの態度は不可解でしかなかった。
成長するに従い、わたしは学ぶ。
彼女たちから向けらえる、突き刺さるような視線。それにはちゃんと名前がついていた。
嫉妬。
わたしはいつも、嫉妬の眼差しで見張られていた。
わたしの些細な仕草、目線、僅かな表情の変化などから、彼女たちは途方もない想像を巡らすのだった。わたしという人間が高慢で性悪であるように語る。そうしてイメージばかりがひとり歩きする。
人の目には、美は悪に映るのだと知った。
美というハンデがある限り、誰もわたしの内面を見てくれない。わたしの言葉に耳を傾けてはくれない。
それを求めれば求めるだけ、虚しさが募っていく。ならばいっそのこと己の意思で、本当の自分を隠してしまえばいい。わかってもらえないんじゃない。わからせてやらないんだ。そう思えたなら、きっと気持ちが楽になるはずだ。
穏やかな笑みを張りつかせ、決して主張はせず、凡庸さを演じる。それでも隠しきれない粗などは、マイペースな性格を装うことで、カバーする。そうしてわたしはわたしという存在を押し殺していった。
狩子になって、ひとりの女の子と出会った。
彼女とわたしとは、まるで正反対。
最初に彼女を見たとき、クレヨンを握りはじめたばかりの幼児が描くはちゃめちゃな絵を思った。カラフルで生命力に溢れ、大胆で自由。そんな印象を、わたしは彼女から受けた。
「デコです」そう名乗った後に、彼女はわたしをしげしげと見て「すごいきれいな顔。わたしきれいな人って大好き」と笑顔を見せた。
今までのわたしであれば、デコのあけすけな態度を不快に感じただろう。何か裏があるのではと、勘ぐっただろう。しかしそのときは直感的に、デコを悪い人間じゃないと判断した。
その後たまたま共に行動する機会が続いたことで、わたしとデコは距離を近くした。
デコはわたしがこれまで出会ってきた女の子たちとは違い、裏表のない性格をしていた。わたしのことを色眼鏡で見ることもなかったし、わたしに対して身勝手に劣等感を抱き、攻撃してくることもなかった。
わたしにとって、デコは唯一心の許せる人だった。
ずっとデコと一緒にいたい。
そう思っていたのに、ある日突然デコはわたしの前から去った。
デコに会いに行かなくちゃ。
早く狩子なんか辞めて、わたしはデコの行方を探さなくちゃいけない。
デコはお給料を払ってもらってないだろうし、もう孤児院に受け入れてもらえる年齢じゃないから、今頃きっと路頭に迷っているはずだ。基本的にはしっかりした子だけれど、ちょっと詰めが甘いところもあるから心配。それにデコは寂しがり屋で、ひとりでいられない性質なのだ。
わたしがデコの助けになるの。
わたしのお給料で、デコと二人仲良く暮らしていけたらいい。
きっとデコは、外の世界でわたしが来るのを待っている。
わたしは早くこんなところを出て、デコに会いに行かなきゃいけないの。
そのためなら、なんだってやってやる――。




