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オルドリクスの魔神器  作者: 上総海椰
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8-2 終結宣言

ドーラの放った『波』は世界中にゆっくりだが確実に世界の隅々まで響いていく。


魔女たちの本拠地がある場所。そこは極北の地より少し南に下った場所にある。

リュミーサは書斎でその異変を感じ取り、筆を動かす手を止める。

「…『世界振』」

ラフェミナはその言葉を発し動きを止める。ラフェミナはそれを知っている。

なぜなら彼女はその身にそれを受けた一人でもあるからだ。

「ラフェミナ様?」

横にいる従者がラフェミナの様子を訝しむ。

「なんでもないわ。トラードの引継ぎ関連の書類はこれで最後ね」

ラフェミナは何事も無かったように書類にサインつけてその従者に手渡す。

「少し疲れたわ。休むとするかしら、しばらく一人にさせて頂戴」

「はっ。何か御用があれば声をおかけください」

ラフェミナはにこりと笑うと彼女は従者たちを部屋から下がらせる。

従者が引き払うのを見計らいラフェミナは立ち上がる。

「ドーラ…あなたはそこまで」

彼女は浮かない顔でどんよりと曇った北の空を見上げる。



次にそれを感じとったのはリブネントの聖堂回境師リュミーサ。

彼女は従者たちを下がらせ、一人城のテラスに出る。

「…ドーラルイ」

かつて自身たちが到達した禁域の法。

そしてそれが彼女たちを滅ぼしたもの。

彼女は状況を正しく理解していた。

『オルドリクスの魔神器』を破壊するための手段としてそれが用いられたのだと。

ドーラはそれを使わざるえない状況だったのだと。

『オルドリクスの魔神器』が破壊されたのはいい。

だが、上にそれを知られてしまった。

それを使わなくてはならない状況に追い込んだのは自分たちでもある。

『オルドリクスの魔神器』と言う狂気の産物を生んだ『星の民』。

「…四百年の沈黙が破られる」

リュミーサは小さくそれを口にする。



初夏の夜。静かな夜にその異変は突然やってきた。

フゲンガルデンのグリフ商会の書斎。

そこにその二人はいた。

第三魔王クファトス、幻獣王『黒竜王』オルカ。

リュミーサをして『オルドリクス』倒すことが可能と言われた者たちである。

クファトスは現在フゲンガルデンにケイオスと言う一商人として存在している。

「これは…」

「『世界振』だ」

世界の理を書き換える魔法。『三次』を越えるもの。

クファトスは一度自身の娘を救うために使っている。

魔力の暴走で肉体を失った娘をよみがえらせるためにその禁域に触れたのだ。

それは呪いとなり今も彼の娘の身に宿っている。それは彼の最大の過ちでもある。

「…ドーラの奴、まさかここまで到達していたとはな」

どこか楽しげにクファトス。

「やってきますか」

オルカの問いにクファトスは空を見上げる。

「…上はそれどころではないよ」

どこかで酒宴が開かれているのだろうか。遠くから笑い声が聞こえてくる。

二人の表情は硬い。

「ただ、目はつけられた。どちらに転んでも困ったことになった」

「…」

「思っていたよりも、我々の動く時は早いかもしれないな」

それを知るクファトスは変革の時が近いことを感じていた。



「ヴィズル、終結宣言を」

ヴァロに脇を抱えられヴィズルはどうにか立てるというところだ。

ヴァロはヴィズルにそれを言うように促す。

それが発せられるまでこの戦いは終わらない。

圧倒的な不利な『オルドリクス』の力比べを制したヴィズルはすべての力を使い果たしていた。

その姿にそこにいるラムードの人々の注目が集まる。

全身は血まみれで目はうつろ。その姿はとても勝者の姿にはみえない。

だがそれが自分たちの王であることはだれも疑うことはない。

ヴィズルは口元を緩め、最後の気力を振り絞る。

「俺たちの勝利だ」

槍を天に掲げ、ヴィズルは勝利を声高に宣言した。

ヴィズルの声に歓声が一斉に湧きあがった。


その騒ぎの中、ヴァロの下にココルが駆けつける。


フィアはフェリコとクーナに肩を預け、それを聞いていた。


フィリンギはそれを遠くから眷属とともに見守る。


ヴァキュラはエドランデに背負われ背後にいた。

「終わったな」

背後からの声に二人は振り返る。

「ジーリア、生きておったか」

ジーリアの半身は既にヒトではない。触手やら目やらが多くある異形のカタチをしていた。

おそらく彼にとってはそれが本来のカタチなのだろう。

「今回ばかりは少々ダメージを負い過ぎた。回復するまでに少し時間がかかりそうだ」

「わしもここまで力を使ったのは四百年ぶりじゃ。老骨にはこたえるものがあるわい。

ヌーヴァやグロービスのように爵位を譲ってはよ隠居したいものじゃ」

そう話す二人の視線の先にはコブリがだらしなく大の字になって倒れている。

力を出し尽くしたのだろう。

それを見てヴァキュラとジーリアはお互いに顔を見合わせると深いため息をついた。

「…お互いにまだ隠居は先になりそうだな」

ジーリアは疲れたようにため息をついた。


北の地の歓声は鳴りやむことなく北の地に響き渡る。

ドーラとその女性は建物の上からそれを見下ろしていた。

「リナ、助かったヨ」

ドーラは脇にいる女性に声をかける。

「ドーラ兄からそんな言葉を聞く日が来るとはね」

「そうカイ?」

ドーラはとぼけた様子で聞き返す。その女性の怒りの火に油を注ぐ結果となった。

「ええ。そう。ドーラ兄は一人でいつも全て決めて、いつも全て背負って…」

そういうその女性は一気にまくしたてる。

「…君から説教を受けるのは懐かしいナ」

「ドーラ兄、変わったわね」

二人は笑いあう。

「…人の身になって僕も変わったってことカナ。リナ、フィアちゃんはいいのカイ?」

「あの子ならもう私無しでもやっていけます。私はその時が来るまで再び眠りにつきましょう」

見下ろす先には大勢の輪の中にいるフィアとフェリコ、クーナの姿がある。

「フィアちゃんのためにカイ?」

その女性は首肯する。

「フィアと私とが同調してしまう危険があるわ。ドーラ兄とフィアではよかったけど、私とあの子では近すぎる。

それで魂が一つになってしまっては元も子もないわ」

「あらら、僕の馬鹿弟子に聞かせてやりたい言葉ダネ。君は本当にそれでいいのカイ」

ドーラはその女性に向き合う。

「…それに私は今はあの子には自身の人生を歩んでもらいたい」

その女性はフィアに目を向ける。

「親としてカ…」

「あなたも子を持つことがあればわかるわ」

その女性はフィアと言う少女に視線を向けた。

「子ってネェ。それはそうと君はミイドリイクでヌーヴァと会ってるよネ」

「…気付いていたの。本当に抜け目ない人」

「腕を失ったヌーヴァの魔力の流れを調整した際に君の魔力の痕跡を感じたヨ。君はまだ…」

「…」

その女性は少しだけ柔らかな笑みを浮かべる。

「…ヌーヴァは昔から不器用だよネ」

「…あら、知ってたの?というかドーラ兄がそれを言う?…あら、もう時間ね。ドーラ兄、次はカーナ姉様と一緒に…」

そう言い残してその女性は消え去る。

「それは叶わないかも知れないヨ。だって僕は…」

ドーラは言いかけてやめる。

そこにあったはずのその女性の気配は既に消えていた。

「…さてと僕はあいつに会いに行くか」

ドーラはその建物の上から身を乗り出す。

重力制御など彼にとって扱うことは呼吸をするに等しい。

そして、誰もいない『オルドリクス』の残骸の跡地にドーラは一人降り立つ。



「すごかったぜ」

「嬢ちゃん、よくやった」

ラムードの人々は口々にフィアをたたえる。

人間だけではないいろいろな種族がそこには混在している。

ある者はフィアの頭を撫で、ある者は肩を叩く。

フィアも力をすでに使い果たしていて微笑むので精いっぱいだ。

「ちょっとどさくさに紛れてどこ触ってるのよ」

これはクーナ。どっと笑い声が起きる。


フェリコはフィアの肩を背負いながらその様子をみていた。

呪われし魔女などここでは関係ない。

変な王がいる変な場所だと思う。それを命がけで守った自分も相当変だともいえたが。

彼女は困ったような笑みを浮かべる。

不意にいるはずのない懐かしい声を耳にし、フェリコは振り返る。

「…サフェリナ様」

空耳かもしれない。だが確かにそれは心に残っていた。

懐かしいあのころの思いが胸からこみあげてきて、彼女の目から一筋の雫が零れ落ちる。

彼女は視線を前に向ける。もう振り返りはしない。

「フェリ…ルジュ様?」

クーナが言い直すと

「フェリコでいい」

彼女は笑ってそう答えた。

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