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オルドリクスの魔神器  作者: 上総海椰
30/33

8-1 世界振

『オルドリクス』のラムードの中枢の核なのだという。

対峙するのはフィアの手による『八相層壁』と言う絶対防御。

それはラムードに向けられた『オルドリクス』の攻撃を悉くすべてはじいていた。

「…ここで終わらせない」

魔力の行使が原因でフィアの目から血の涙がしたたり落ちる。

フェリコとラムードの住民たちはそれを見守ることしかできない。

クーナはその症状を知っている。

血の涙は体にある魔力回路の連続行使によるものだ。

フィアの内側から魔力が彼女の体をむしばんでいるのだ。

幾ら魔力があろうとも、彼女の肉体は有限。すでにフィアの体は内側から限界を迎え始めていた。

その激痛は想像を絶するものだという。並みの魔法使いならば立っていられないほどの。

フィアはすでに限界までその能力を行使している。

このままでは障壁が破壊されるより前にフィアが壊れる。

「あの男はまだ?」

クーナは焦りとともに空を見上げる。

ドーラのいるラムードの上には光が輝いている。

魔法式で造られた光だ。

まるでラムード全体を包み込むかのようにその光は光を増していた。


「行け」

ここでヴァキュラがそれを一足先に完成させる。

エドランデはヴァキュラからそれを受け取ると、一気にその跳躍で『オルドリクス』に接近する。

一気にため込んだ気を開放し、一気に距離を詰める。

『魔功』をつかったエドランデの全力の一撃は最硬の物質であるダイヤですら破壊する。

そのために彼の武器になりえる硬度を持つモノは物質界では存在しない。

ただ一つだけ例外があるとすれば同じ魔力を使ったカリアの『魔装』。

だが、エドランデの纏った『魔装』はカリアは『オルドリクス』の攻撃を直に受け、気絶したために解けていた。

それでもエドランデはそれを気にしない。

エドランデの踏み込みに地面がえぐられ、音の壁を巻き込み周囲に衝撃波を巻き起こす。

エドランデの速度は音速にすら達していた。

「倒れろ」

上空からエドランデが全身全霊を込めた渾身の一撃を繰り出す。

『魔功』で固められたはずのエドランデの右の拳が二の腕までひしゃげる。

自身の力の力と『オルドリクス』の装甲の硬さの板挟みになったためだ。

エドランデの捨て身の一撃に『オルリクス』は障壁から引きはがされ地に背をつける。

黒い塊を『オルドリクス』の胸元に置いてエドランデはその場から飛びのいた。

ヴァキュラはそれを見逃さない。それを視認するとすぐさま印を結ぶ。

次の瞬間その黒い塊は光に変わった。

エドランデの一撃により倒れた『オルドリクス』の背中に太陽がのしかかる。


『疑似太陽』


それは絶え間なく続く爆発の連鎖。何層にも分けた爆発が絶え間なく続く。

簡易的な障壁ではそれを防ぎきることは難しいだろう。

かつてヴァキュラが聖剣使いをその聖剣ともども葬った業である。

「ドーラ、後は任せたぞ」

すべての魔力をその攻撃に変えたためにヴァキュラの全魔力は空になる。

ヴァキュラは一人その場に膝を折る。

次の攻撃を繰り出す魔力は彼にはもう残されていない。

文字通りありったけの魔力を絞りつくしたのだ。


「すまないネ」

ドーラは魔法式を編むのをやめた。

その額からは汗が滝のように流れ落ちていた。

ドーラの脇には半透明な女性が黒い球の上に腰かけている。

『こちらも完成したわ』

「助かったヨ」

ドーラの周囲には球状に魔法式が幾層にもわたり展開されている。

眼下では『オルドリクス』がヴァキュラの光球に押しつぶされながらもそれを押しのけようと必死で抵抗を見せている。

「モール、終わりにするヨ」

ドーラルイはそう言うとその魔法を発動させた。

魔法式は光となり溶けるように消え去り、発された波は因子となり世界の隅々に広がっていく。

ヴァロの鼓膜に耳鳴りがした。

小さな小さな波だがそれは確実に世界を満たしていく。

だが『オルドリクス』には何の変化も見られない。

「失敗?」

『オルドリクス』ヴァキュラの光球を押しのけて立ち上がる。

『オルドリクス』は『八相層壁』に張り付き、口からその光線を出そうとする。

この至近距離ではフィアの『八相層壁』ですら防ぎきることは厳しいだろう。

ヴァロも、ヴァキュラも、ヴィズルも、もうだれもそれを止めるだけの力は残っていない。


誰もいない薄暗い部屋で立体映像をエルンは見下ろしていた。

「我々の勝ちですわね」

エルンは冷たくつぶやく。その表情は勝者のものではない。


『オルドリクス』の光線が塵に帰っていく。

『オルドリクス』の体から光が立ち上る。

それは途切れることなく立ち上り、魔術王や魔族の攻撃にすら耐えた装甲が砂のように崩れていく。

それは劇的なほどに鮮やかに、悪夢が晴れるようにその魔神の姿が光に変わっていく。


そこにいる誰もが食い入るようにその光景を眺めていた。


「世界の理の一つを書き換えた、もう『オルドリクス』はこの世界に存続できナイ」

『オルドリクス』はその技術の末端にして結晶ともいえる。

それは多くの技術が結びつき、重なり合って作られるもの。

その中の一つの歯車をドーラは壊したのだ。

それはとても小さな歯車だが、その歯車が消えたとなれば他の歯車も狂わずにはいられない。

ドミノのように『オルドリクス』を構成する要素が次々に破たんしていく。

世界の理が書き変わったということはその存在はこの世界ではもう存在できないということだ。

いかに概念武装で外装を覆ったとしても、それは基盤にある理そのもの。

理が書き換わった世界にその存在は許されない。

「…モール終わりだヨ」

ドーラはその原型すらとどめていない魔神を見下ろしながらそうつぶやいた。

『オルドリクスの魔神器』はそうして文字通り完全にこの世界から消滅したのだ。

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