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オルドリクスの魔神器  作者: 上総海椰
26/33

6-3 悪夢の中で

戦場に赴く少し前のことだ。

カリアは誰もいない長い廊下を歩いていた。

「カリアさん」

背後から知っている声に呼ばれ、カリアは振り返る。

そこにはドレスをあしらった戦闘装束をつけた少女とクーナと呼ばれる付き人がいた。

手には金属の小手、足には金属のブーツ。

北の国の装備は普通ならば金属は用いない。おそらくは何かの魔器だろう。

長く金色に輝く髪は邪魔にならないように背後で結んでいる。

ラムードの宮廷にあった装束をヴィズルから借りたらしい。

正装したフィアの姿は女神と思えるほどにほどに美しかった。

「なんでしょう」

カリアは兜を脱ぐ。

放出される魔力を感じてカリアは少女の成長を見て取る。

その容姿もそうだが、漂う魔力が怖ろしく静かなのだ。

作戦のために数日見ていなかったが、その姿は別人かと錯覚を覚えた。

彼女は最近までドーラとの修業をしていたのだそうだ。

魔力のコントロールが格段に上がったと見ていいだろう。

「もう出陣なされるのですね」

「はい。これから」

「どうか御無事で」

「ありがとうございます」

カリアは一礼する、彼女は王族だという。クファトス王の血族なのだそうだ。

クファトス王への信仰はドーラやヴァキュラをはじめ、大戦を経験した者たちに特に多い。

カリアは若い魔族だ。クファトス王を直に目にしたことはないが、フィアに対しては別である。

ミイドリイク一件以来、カリアのフィアに抱く思慕の念は薄れない。

むしろ忠誠と言う違う形を取り、カリアの心の中でさらに大きくなっていた。

「それとこれは私の勝手な頼みなのですが…聞いてもらえますか?」

言いづらそうに彼女は切り出す。

「なんなりと」

「ヴァロを…よろしく頼みます」

やはりという思いとチクリという痛みがカリアの胸をよぎる。

魔剣をもつヴァロもまた魔族たちと行動を共にすることになっている。

カリアは忘れないミイドリイクで彼女が行った行動を。

自身の命を取引の材料にしてでも彼女はヴァロの下に駆けつけようとしたのだ。

今回も本当ならばヴァロの元へ駆けつけ、二人で戦いたいはずだ。

この戦いではそれは作戦上できない。与えられた役割があるのだ。それは彼女が一番よくわかっている。

そんな少女にカリアは跪きその小さな手を取る。

「わが命に変えてでも」

異邦の言葉を使ってそれに応じた。

それはゾプダーフにおける王に対する誓い。絶対の忠誠。

耳慣れないゾプダーフの言語にフィアはきょとんとしたあと微笑みをみせる。



その誓いがオルドリクスの攻撃にさらされた際に、彼にヴァロを護るという判断をさせる。

それは間違いだったのか、それとも正解だったのか。

その初撃の直撃を受けたのは意外にもヴァキュラとジーリア、そしてヴィズルだった。

雨のような光線もヴァロたちの方にはそれほど多くは無い。

どうやら力のある者を集中的に狙ってきたらしい。

ヴァロは傍にいたカリアの『魔装』に守られ事なきをえる。


その攻撃が終わった後、その場所は荒れ地と化していた。

攻撃が終わると次元の狭間から『オルドリクス』がその巨体を表す。

『オルドリクス』はそのまま足を止めることなくラムードへ一歩一歩向かっていった。

ヴァロはカリアに守られてどうにか無事だった。

「どうにかやり過ごしたな」

カリアの『魔装』越しにずしんずしんと魔神の足音が聞こえる。

そしてそれが遠ざかっていくのがわかる。


足音が消えるのを見計らってカリアは二人を包む『魔装』を解く。

『オルドリクス』の攻撃により地面はえぐられ、凍土がむき出しになっている。

周囲を見渡してもヴィズルやヴァキュラ達の姿は無い。

魔族たちは今の一撃で散り散りになってしまった。

不意を突かれた格好となり、被害は想像以上に甚大のようだ。

ヴァロも魔剣の障壁だけならばやられていたかもしれない。

「だれか」

呼びかけるが返事は返ってこない。

今の『オルドリクス』の攻撃により返事を返せない状況にいるのか、

もしくは返事が届いていないのどちらかだ。

もし後者なら状況は果てしなく悪いことになる。

主戦力であるヴィズルやヴァキュラが倒れた今、もう『オルドリクス』に対して抗うすべはないのだ。

「ヴァロ通信機の方はどうだ?」

ヴァロは予備で持たされた通信機を使ってみる。

「応答はない。今の攻撃が関係してるのかもしれない」

壊れていていてもおかしくはない。それほどの衝撃だった。

「さて、問題はこれからどうするかだ」

こちらの頼みの綱であるヴァキュラもヴィズルもジーリアも生死不明の状況にある。

「どうするもこうするも戦うしかないだろう」

「ヴァロ、戦力を整えてからでも…」

ヴァロの提案にカリアは声を上げる。

「だめだ。そんなことをしていたら奴はラムードに到着してしまう」

ヴァロの言葉にカリアは表情を曇らせる。

『ヴァロ、状況を見ろ。俺たちだけでどうにかできる相手じゃない。この状況では作戦も何もあったもんじゃない。

無謀と勇猛とは全くの別だ』

今度は魔剣ソリュードの管理者ラウが抗議の声を上げる。

ちなみにラウの声は持ち主であるヴァロにしか聞こえない。

『あのヴァキュラやヴィズルの攻撃ですら傷すら与えられなかったんだぞ。そんな相手に俺たちが何かできるわけない』

そう物理的手段ではかすり傷一つ与えられない。

ドーラの作戦は完璧だったし、それを行う魔族の連携も見事だった。

それでもあの魔神には全く傷を与えられてはいない。

さらに物理手段以外の方法もあの魔神は悉く踏み潰してきた。

だからこそわかる。あの魔神がどれほど外れているのかを。

ヴァロは二人に畳み掛けられる格好になる。

『どうしてお前はそこまでやれる?人間なら自分のことだけ考えて生きればいい』

ラウは畳み掛けるように声を上げる。

『ミイドリイクの時も、トラードの時もあんたは自ら進んで死地に赴いてる。幾ら俺でも死にたがりを生かそうとは思わないぞ』

ヴァロはおもむろに口を開く。

「俺も死ぬのは怖いさ。…ただあいつの前では最後まで誇れる姿でありたい」


いずれくる別れの時までは。

フィアと生きる世界が違うのはわかってる。

彼女は自分の手の届かないところで燦々と輝く太陽となり世界を照らし、導いていくだろう。

だけど今だけは彼女の前に立っていられる自分でいたい。


ヴァロのその声にラウもカリアも閉口する。

「はっはっは。全く。それなら最後まであがくとするか」

カリアは笑い声をあげおかしくて仕方ないと言った様子だ。

『馬鹿だね。どうしてうちの契約者はこういう連中ばかりなんだろうな』

ラウは呆れていた。ラウの言っているのは前の持ち主のことだろう。

「お前ら…」

ヴァロが赤面して何か言いかけたとき、ごそごそと背後で地面から手が出てきた。

ヴァロとカリアの視線がそちらに向けられる。

「まったく、穴を掘り過ぎちまったぜ」

地面の中からコブリがひょっこりと頭を出す。

コブリは地面を振動で地面を破壊して地下にもぐってどうにかやり過ごしたようだ。

地上に姿を現したコブリは周囲を見渡す。

「おいおい、ジーリアの奴もヴァキュラもここにいないってことは…やられちまったのか?」

「呼びかけてみたが反応がない。コブリ、行けそうか?」

カリアはコブリに問う。

「誰にモノを言ってるんだ、こっちは天下の男爵様よ」

コブリは豪快に笑って見せる。強がってはいるが今までの作戦で相当魔力を消費しているはずだ。

「人間、お前は」

「やるさ」

「そうこなくっちゃな」

ヴァロの答えにコブリはにやりと笑んだ。

主力として頼ってきた魔術王、ヴァキュラ、ジーリアの安否はわからないまま。

その上、エドランデも安否不明である。考え得る限りの最悪の状況といってもいい。

「見せつけてやろうぜ、俺たちの力を」

「ああ」

その魔神を前にして最悪の事実を突きつけられても、瓦礫の中から三人と一本はひるむことなく立ち向かう。

例えそれが勝ち目のない死地であろうとも。

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