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オルドリクスの魔神器  作者: 上総海椰
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5-4 魔術王立つ

その日ヴァキュラは邪王アデルフィに呼ばれていた。

ゾプダーフ連邦に三人いるとされる幻獣王の一人、アデルフィ。

邪王と呼ばれ、呪軍を総括する者である。そして現在ゾプダーフ連邦の王権を握っているものである。


ヴァキュラがその場所にやってくると巨大な扉がひとりでに開く。

部屋から漏れた黒い瘴気が床を伝ってヴァキュラの足元に流れてくる。

玉座の間と呼ばれる場所である。その玉座に座るのは一人の女性。

漆黒のドレスを身に纏い、こちらを見下ろしている。

その容姿は怖ろしく整っているものの、明らかに人間ではない。

超然とした雰囲気を身に纏い、身のこなしには気品がある。

だがそれ以上に周囲には視認できるほどの濃い瘴気が漂っている。

もしただの人間がそれに触れれば気がふれてしまうほどの濃度である。

その部屋だけ完全な異界と化している。

「なんですかな主様」

ヴァキュラは黒い衣を身につけ、老人の仮面をつけている。

「主様か。皆が王とわしを呼ぶのに、お主の呼び名はいつまでも変わらんの」

射すくめるような視線をアデルフィは玉座からヴァキュラに浴びせる。

脇にいた大きな団扇をもつ二人の侍従が体をこわばらせる。

上位の魔族ですらその視線だけで気絶しかねないものである。

「その理由は主様が誰よりもご存知かと」

二人の間に短い沈黙が流れる。

「クックック、ヴァキュラ。やはりお主らしいの。今日はそなたに頼みがあって呼んだのじゃ」

アデルフィが楽しげな笑い声を上げる。

先ほどの剣呑な空気が嘘のようにその場の空気が和らぐ。

脇にいた二人の従者は再び手を動かし始める。

「隠居の許可をしていただくために呼ばれたわけではないようですじゃな。して主様がわしに頼みとは?」

「お主に『オルドリクス』の破壊を命じたい。頼めるか?」

アデルフィが頼めるかと言うヴァキュラへの許可を求めてくるときは大体は厄介ごとになる。

「…奴の場所はわかったのですかの?」

「場所は極北の地。そこに奴がいると人間界からの情報が入った」

人間界と言う言葉にヴァキュラは心当たりがあった。

出所は何となくわかる。疑う必要はない、信じるに足る情報源だ。

「お主はこの情報をどう見る?」

「…あり得ない話ではありませぬな。モルトーアは一流の魔法使い。流氷に偽装させれば我々の網をかいくぐることは可能でしょう」

「フム、わしと同じ見解じゃな」

「ほっほっほ、主様と同じとは…これは光栄ですな」

二人は示し合わせたように笑い声をあげた。

「…しかし、極北の地といえばフィリンギ殿の地ではありませぬか」

ヴァキュラは合点がいったようすである。

「フィリンギへの対応だが…奴への交渉も頼めるか?使者を送って話を通したのではやりとりに数か月かかる」

フィリンギは大戦以降ゾプダーフの三人以外は接触していない。

さらにフィリンギは極北の奥地にいるという。

「それでも頼めるか?」

「それが主様の命ならば」

ヴァキュラはその場に頭を下げ、膝をつける。

「ヴァキュラよ。これよりお主に『オルドリクス』の破壊を命じる。人選はお主にまかせる」

こうしてヴァキュラに正式な命が下りたのだ。

「人選を任せるとは。討伐メンバーはゾプダーフ全体から選べると言うことですかな?」

ゾプダーフ全体となれば選択肢はかなり広がる。

「構わぬ。ゾプダーフの王権は現在わしにある。それにこれはあの二人が見逃してきた結果でもある。

例え公爵だろうと大罪人だろうと嫌とは言わせぬよ。お主の好きに選ぶとよい。して誰を選ぶ?」

「その前に条件があります」

「申してみよ」

アデルフィはヴァキュラに目をむける。

「一つ、人語を話せるものでなければなりませぬ。

万が一人間界においてことが起きた場合対処が困難になります。


一つ、人間界にも足を踏み入れることもあるやもしれませぬ。

できるだけ目立つ容姿の者は避けたく思います。


一つ、奴は逃亡の際に子爵一名男爵二名を葬っております。

少なくとも『爵位持ち』の実力が必要となります。


一つ、『オルドリクス』は魔力を吸収するとか。

ならば魔力を吸収されやすい者はつれてはいけませぬ」

「フム」

アデルフィは頬杖を突きながらそれを聞いている。

「わしの知る限りこの条件に合致する者は三名」

「ガレフェデシタの候爵ジーリア。『魔弾』魔力を弾丸に加工し、射出するその貫通力はゾプダーフ屈指。

その上魔力の弾丸はその大きさがきわめて少ないため、『オルドリクス』との接触もわずかで済みましょう。

『オルドリクス』の装甲がいかに硬かろうが傷さえつけることができればその装甲すら破壊しえます。

口の悪さは目立ちますが、この任務においてもっとも適しているかと。


ハルベッソの子爵エドランデ。彼の者の使う『魔功』は直接攻撃が可能。

子爵でありながら現役最高峰の魔功使い。その上で探査魔力も有しております。

いささか頑固ではありますが、礼儀正しく上には従順。

さらに三人の魔族に奴の親友もいたらしく、話をちらつかせればエドランデの方から進んで志願してきましょう。


トトンガロウの男爵コブリ。奴の使う『魔振』はその振動を通した物体を破壊します。

『オルドリクス』には直接効くとは思えませぬが、その振動は地面を破壊することもできましょう。

ちと性格には難がありますが、その魔力は奇襲の際に使えるかと。


…この辺りでしょうな」

ヴァキュラはその三人の名を上げた。

いずれも爵位持ちであり、ゾプダーフでは名のある者たちである。

「さすがヴァキュラ、見事な人選じゃ。わしからも一人推薦がある」

「ほう、主様の推薦とは」

アデルフィからの思わぬ言葉にヴァキュラはそちらに目をむける。

「パルミラゾルの伯爵カリア・ノーブフォンデ」

「ほう『パオベイアの機兵』の一件を片づけたという噂の若君ですか。ダールの奴の跡目だと」

カリアは幻獣王悪魔王バルハロイの配下の者とされる。

三名の欠員が出たために急遽、伯爵に抜擢されたという実力者。

先の人間界での『パオベイアの機兵』の掃討作戦でも名を上げている。

「その若君の扱う『魔装』は守りの魔力じゃ。その面子では守りがおろそかになろう」

「ほっほっほっほ、これは一本取られましたな」

「では、その面子でお願いしたい」

二人の会話の中で出てきた四人はそれぞれ『爵位持ち』である。

その個の力は一軍にも匹敵しよう

「それとドーラルイも動いておる。ひょっとすれば人間界で奴と出会うやもしれん」

「ほう、ドーラルイ魔法長。現界されたとききましたが」

「人間に転生しているそうじゃ。我々から見れば保有する魔力は無いに等しい」

魔力を原動力にする彼らにとって魔力の有無は致命的である。

既にヒトだというに等しい。

「ドーラルイはモルトーアの友人と聞き及びます。もしこちらの邪魔をしてきた場合は?」

「お主の判断にまかせる」

冷やかな口調でアデルフィ。

目的の障害になるのなら速やかに排除せよということらしい。

「…これは骨が折れますな」

ヴァキュラは肩をすくめる。

「油断はせぬことじゃ。『オルドリクスの魔神器』は『アデンドーマの三忌』の中でも最悪といわれておる」



「さて、どうしたものかのう」

ヴァキュラは考えあぐねていた。

どれほど工夫しようと自分たちの直接攻撃は『オルドリクス』に傷を与えられない。

見通しが甘かったとは思わない。『オルドリクス』が異常すぎるのだ。

復活して以降『オルドリクス』の装甲が急激に硬くなった。

おそらくはモルトーアが同化したことでそうなってしまったという話である。

「次の地点に来たぞ。四方に散れっ」

オルドリクスの周囲にいた魔族は一斉にその場から離れる。

次の瞬間、『オルドリクス』の足元から黒いドームが発生ししそれを包み込んだ。


ドーラはそれを立体映像から見ていた。

「アレは?」

「『無限結界』。次の僕が一日かけて作った結界サ」

無限結界と呼ばれるそれは『オルドリクス』を包んでいるためにその姿が消える。

「ドーラ殿の結界術か。それでその効果は?」

「この結界は結界の力が続く限りその結界の中をさまよい続けるというものダヨ。

例えるなら丸い球の上を永遠と歩き続けると言った感じカナ」

「五感に直接働きかけるモノということですか?」

フィアがドーラに疑問をぶつける。

フィアが修業を受けていた結界のことを思い出す。

それとはまったく違うモノなのだという。

「フィアちゃんとの修行で使ったのはあくまで精神に直接働きかけるモノサ。

それに魔法が効かない以上、五感に関する魔法は受け付けないだろうサ。

この場合は中での構造変化を変化していくというたぐいのものダヨ。

あの結界の中は光、重力、音、空気そして空間があべこべなのサ。

例え魔法抵抗力の秀でたヴァロ君でもあの結界の中から自力で脱出することはできなかったヨ」

「あの男でも?」

クーナはヴァロの化け物じみた魔法抵抗力を知っている。

自身の火球ですら打ち消すほどの魔法抵抗力。

ヴァロの魔法抵抗力はクーナから見ても反則である。

そんなあの男ですら自力で脱出することは無理だということは対象への魔法干渉ではない。

つまりあの黒いドームの中での物理構造が全く異なるということだ。

どういうものか理屈はわかるが、それをどう組み立てていいのかすら想像が及ばない。

それを行うまでの膨大なルーンの配列の一辺ですら想像することは厳しい。

それをこの男は一人で構築したという。

「空を飛んだとしても?」

「無理ダヨ。光音匂いはもちろんのこと、電磁波重力ですらあの結界の中では変化し続ける、

仮に上空に真っ直ぐ飛んだとしても同じ場所を延々とまわり続けることになるのサ」

「それは怖ろしい結界だな」

ヴィズルはそう漏らした。

「…力による結界ではおそらく『オルドリクス』を閉じ込めることはできない。

ならここで発想の転換だ。結果として『オルドリクス』を結界の中から出さなければいい」

ドーラは指を回して見せる。

「なるほど…。物理的に封じ込めるってわけか…。ところでドーラさんは式はどんな基本式を使ったの?」

「それは…」

フィアはこんな場所でも向上心を失っていないようだ。

その術がどのようなものかドーラから聞き出そうとしていた。

クーナは途方もない実力差を思い知る。

クーナは苦笑いを浮かべていた。


「ヴァロは知ってるのか」

「ああ」

ヴァロはその恐ろしさを思い出していた。

数日前に魔法の実験に半刻ほど付き合わされている。

これほど大規模なものではなかったが。


さかのぼること数日前。

ヴァロはドーラに頼まれ、ラムードから少し離れた雪原にやってきていた。

「魔法抵抗力の高いヴァロ君にしか頼めないことでネ」

目の前には黒い球状のドーム。

フィアとの修行で使っていた四面体のドームとはまた別のモノらしい。

「ヴァロ君、ここに入ってくれないか?」

「魔剣の力も使っていいヨ。半刻ほどしたら結界を解く。

それまでにどんな手段を使ってもいいからその結界から出ようとして見てくれるカナ」


中に入ればそこにはどこまでも続く平原。

思い切り駆けてもかけても何処にもたどり着かない。

まるで世界に自身だけ取り残された錯覚すら覚える。

ヴァロはドーラに言われたとおりに魔剣の力を解放した。


時間が過ぎるとヴァロを覆う周囲の光景がひび割れ、元の場所に帰還した。

ヴァロは胸をなでおろす。

気が付けば結界の周囲がヴァロたちのいた場所を中心に破壊されている。

「やはり放出された際の対象の力の処理と幾何学多重次元構造が…」

ドーラは少し離れたところで一人ぶつぶつと何かを呟いている

「…ありがとう助かったヨ」

「これは?」

周囲の破壊の後を指さしヴァロはドーラに尋ねる。

「ああ。魔剣の力サ」


『オルドリクス』はその黒いドームの中から何事も無いように姿を現す。

ラムードへ向けて歩みはじめる。

「嘘だろ」

ヴァロはそうこぼした。


「僕の結界でも無理だったカ。座標軸を別に設定してあるのかもしくは…」

ドーラはただその現状を分析していた。

「ラムードしか見えていないかだな」

ヴィズルは中枢のある方角を見つめる。

奴の目的地はラムードだ。

『オルドリクス』はラムードにある『星の民』の遺産を取り込み完全体になろうとしている。

「まいったネ。本格的に追い詰められてきたヨ」

気軽にドーラはそう語るが、フィアはドーラが追い詰められたと言う言葉を使うのを聞いたことがない。

ミイドリイクであれだけの状況に置かれても追い詰められたとはドーラは一言も漏らさなかった。

状況は想像以上に悪いということをフィアは痛感する。

『オルドリクス』は間もなくラムードから見える位置までやってくる。

「エルン、渡した『オルドリクス』の欠片の解析は終わったカイ?」

ドーラの声色は今までの者とは微妙にに違っていた。

数日前に魔族たちに拾ってきてもらったものをエルンには渡してある。

「…まだ二割ほどしか解析は済んでいませんわよ?」

エルンはそっけなくそう答える。

「十分ダ。一覧を表示してクレ」

ドーラの意図が読めずエルンは首をかしげる。

空中にその式が光で示される。

たちまち見慣れない文字の羅列がその部屋全体を埋め尽くした。

「これ以上解析を進めようとするならば百年単位の時間がかかるでしょう」

「この中で『オルドリクス』の基幹部を構成している式以外を除外してクレ」

エルンが頷くとその光の文字の羅列の一部が消え去る。

「以上が『オルドリクス』の基幹となっている式ですわ」

「エルン、この中でラムードなどで使われている式を除外してクレ」

ドーラがそう言うと光の文字はさらに数個に絞られる。

「今表示されている式は『オルドリクス』のみのはずですわ」

ドーラは無言でそれをにらんでいる。

「これらの式は?」

フィアはエルンに尋ねる。

フィアたちにはドーラのやろうとしている意図が読めない。

「『オルドリクス』を構成しているとみられる理ですわ。『オルドリクス』はあらゆる物理法則を無視するように作られています。

一つの法則を無視するために『オルドリクス』は別の理がいくつも複雑に作用しあっているのです。

もっともその一つ一つの理がどんな理がどう使われているかわたくしにもわかりませんわ」

「まさかこちらも『オルドリクス』を作るということ?」

クーナはその可能性の一つを口にする。

牙には牙と言うことだろうか。

「まさか。これらを使う何万、何億通りの組み合わせをこれから試すなど正気の沙汰ではありませんし、現実味がありませんわ」

「ならなぜ?」

フィアの疑問ももっともである。使えない以上、こんな羅列に意味があるとは思えない。

「これを知ったところでどうになるとも…まさか…アレを?」

この時点で唯一エルンはドーラが何をするか理解したらしい。

エルンの表情はみるみる青ざめていく。

「ドーラルイ、あなたはこの星を滅ぼすつもりですの」

エルンは声を荒げ抗議する。それは今までとは明らかに必死さが違っている。

星を滅ぼすというのも誇張ではないだろう。

「もう手段はそれを含めて数手しか残されていナイ。目の前の危機を乗り越えないと明日は無いヨ」

「…」

無言で二人はにらみ合う。

「そんな危険なものなのなんですか?」

フィアの問いかけにドーラとエルンは何も答えない。

どうやら二人の反応から相当な手段らしいと言うことだけはわかる。

「まだ俺がいる」

ヴィズルはそう言って『神槍』を肩にかける。

「ヴィズル。本格的に君に頼ることになりそうだヨ」

「ああ、頼ってもらおう。その最終手段は使わせない。俺がいる限りこのラムードには絶対に近づけさせん」

ヴィズルは静かに闘志を燃やす。

「たのんだヨ」

ヴィズルは片手を上げて振り、その部屋を出て行った。


そして魔術王ヴィズルが出陣したのだ。

魔術王の出陣により戦闘はさらに激化の一途をたどる。


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