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オルドリクスの魔神器  作者: 上総海椰
22/33

5-3 星落し

空の彼方からその光は現れる。

雲を突き抜け、空から地上に向けて星が流れる。

それは光をまき散らしながら、魔神向けて一直線に向かっていった。

そして巨大な爆音の後、四度目の振動が北の地を揺らす。

ドーラが使ったのは宇宙からの隕石落下。

地面が塵を巻き上げ、大地を破壊する。

「…エルピエックの矢」

ミョテイリの自身の宮殿にてそれをエーダは見ていた。

大気の振動が彼女たちのいる場所にまで伝わってくる。

文献によればそれは大戦中にかつて人間界において一国の軍を一瞬にして葬り去ったという。

魔王軍による最大級の破壊行為とされている。

彼女は目の当たりにするのはこれが初めてである。

ミョテイリを標的にされたのならば結界ごと吹き飛ぶほどの魔法である。

「第四魔王ドーラルイ…」

その記憶を思い出し、芯から来る震えを感じていた。

彼女もまた第四次魔王戦争の際それの封印に立ち会った者の一人である。


三人の大魔女を相手にし、あの魔王は三日二晩戦い続けた。

その戦いは熾烈を極め、二人の戦いは大陸に存在する雲と言う雲をすべて吹き飛ばし、

その激突する魔力の光は夜ですら昼に変えたという。

それはさながら幻獣王同士の戦いにも見えた。

だがさすがに三日二晩という戦いでその魔王にも限界はきたのか、その怪物は大魔女カーナとの力比べに負ける。

地に堕ちたところをエーダを含む者たちが封印したのだ。

その時にエーダは立ち会っている。

それ以後も魔王と呼ばれるものは何体も生まれてきたが、圧倒的な絶望感とおぞましい寒気を覚えるほどの相手はあの者だけだった。

そんなものと魔術王や異邦の爵位持ちはこれより北の地で共闘しているという。、

巨大な光の柱や黒煙が絶え間なく上がっている。

規模からして一つ一つが都市破壊級の攻撃…もしくはそれ以上の攻撃だろう。

そんなものをまともに受けても『オルドリクス』はとてもではないが彼女の想像を遥かに超えている。

自分たちの域を超えた魔神。

「ルーシェ、…それでもあなたはまだあの男を信じられる?」

エーダは除名された極光魔法を使う友人に語りかける。

かつて第四魔王の復活を唱え、たった一人で立ち向かった女性。

そして第四魔王復活を唱え、魔王に指定された魔女。

教会は彼女を第十魔王『輝星の麗人』と呼んだ。



「…そう人間界では呼ばれているネ」

ドーラはエルンの問いかけにそう応じた。

ドーラはその部屋に戻ってくるなり、目を閉じて椅子に身を埋めている。その制御に相当神経を使ったということらしい。

話によれば数日前にこの星の衛星軌道上に待機させていたのだという。

立体映像には真っ赤な煙が上がっている。

フィリンギの許されるであるぎりぎりの範囲で隕石を落としたらしい。

概念魔法を使って補正をかけ、計算を幾つかすっ飛ばしてるとかなんとか。

これほどの攻撃魔法をクーナもフィアも知らない。

突破力と言う意味ではヴァキュラの最大攻撃すら凌駕している。

「エルピエックの矢を使えるのであれば、初めから使えば良かったのではなくて?」

エルンは不満をこぼした。

「簡単に言うなヨ。アレは力の加減が難しいんだヨ。失敗すれば地上にすら届かないカ、他の場所に落下するヨ。

もし少しでもずれてフィリンギの眷属の生息域に落ちたら僕らの命がないネ」

ドーラにして最強と言わしめるほどの最大攻撃魔法。

それに相当神経を割いたのか、ドーラは目に椅子から体を動かそうとしない。

「ああ、フィアちゃんありがと」

フィアが飲み物を持ってくるとそう言って受け取った。



衝撃波が済んだ後、その場所をヴァロは想像を絶する光景を目の当たりにする。

落下地点の周囲の地面は凍土の層ごと破壊されている。

さらに落下地点は落下の衝撃と放出された熱が辺りに放射され大地はどろどろに溶けている。

地獄のような光景を目の当たりにしてヴァロは言葉を失う。

聞けばドーラ最大の攻撃魔法だという。

おおよそただの生物がこんな破壊魔法を受けて無事でいられるわけがない。

「…さすがはドーラルイ魔法長と言ったところか」

ジーリアは感心している様子である。

その場所を包んでいた粉塵が晴れていく。

立体映像には先ほどと変わらない『オルドリクス』の影があった。

「…あの質量落下を直に受けても無傷なのかよ」

コブリの意見ももっともである。

魔族たちもさすがにこれには渋い顔をみせている。

ヴァキュラから信号弾が放たれる。

「次の作戦地点に向かうぞ」

ジーリアは大声で叫ぶと魔族たちは一斉にその場から失せる。


無傷の『オルドリクス』が真っ赤な大地の上を歩いている。

画面越しのその光景に皆言葉もない。

「この分だとこれ以上質量を上げたとしても無傷そうだネ」

ドーラは椅子に身を埋めながら状況を冷静に分析していた。

その表情にはいつもの余裕はない。

相手が異常すぎるのだ。

爆発、貫通、溶解、温度変化、電撃、振動破壊。ドーラの作戦はそれらをすべて試している。

だが凡そ考えられる物理攻撃を『オルドリクス』ははねのけ、ここまで進んできている。

そのどれもが人間ならば、いやまともな生物ならば骨すら残らないものだ。

「まだ『三次』が…」

『三次』というのは概念魔法。空間次元時間を操れるという。

「それは初めて戦った時に試しているヨ」

ドーラは椅子にうずくまりながらそれを否定する。

「…そんな、『三次』は概念魔法以上の魔法。この世の物質がそれをどうしたら防げるというの」

フィアの言っていることももっともである。

『三次』を防げる物質はこの世に存在しないと言ってもいい。

それを防げるということは既にあの装甲はこの世の物質を超越していることになる。

「簡単さ。概念魔法をはねのけるのならば、同じ概念系だよネ」

冷やかにドーラはその絶望的な答えを口にする。

「概念…」

「…正解ですわ、アレは概念武装を使ってます」

「やはりネ。道理で幻獣王ですら完全に破壊しえないわけダヨ」

「概念武装?」

クーナが疑問の声を上げる。

「概念魔法と似たようなものサ。たとえばどんなものでも断ち切る剣はあるカ。…そんな剣など存在しナイ。

物質ではそんな剣は作れナイ。そこで何でも切れるという概念だけを抽出するのダヨ。

さらに思いが強ければ強いほどそれに比例して強くなる厄介なモノダヨ」

「…」

クーナは言葉もない。

概念魔法は知っているがそこまで強いものは知らない。

「…許されない。それは世界の理を無視する行為だぞ」

ヴィズルが低く声を上げる。それもそのはずそれはこの世界の理を無視し、創造にすら匹敵する行為である。

「それが対神兵器と呼ばれる所以ダヨ。そこまで『星の民』の技術は進んだんだのサ。…だから滅ぼされたんだヨ」

ドーラは無情にそう告げる。

ドーラの言葉にエルンは険しい表情である。

「ただし、概念武装とはいえ、無欠ではありません。外界からの力も少なからず受けますわ。

現にその前のヴァキュラの光球ではダメージを受けていたはずですわ。…強固にしているのは…」

「モールだネ」

ドーラは小さく呟いた。

それは『オルドリクス』と同化した一人の魔族。

「モール…モルトーアは魔法長の候補を外された上、異邦の辺境に飛ばされても四百年間その研究をつづけたんダ。

その想いは狂気に近いだろうネ」

概念武装はその想いに比例してその強度を高めるのならばそれは最悪の組み合わせともいえる。

そしてそれはその場にいる者たちに破壊不能という絶望的な回答を示した。

「物理手段では破壊不可能と見るべきカナ」

ドーラはその言葉を口に出した。

「ドーラ…まさか『オルドリクス』の討伐をあきらめるのですか?」

「あきらめるとはいっていないヨ。ここまでは想定済みサ。物理的な破壊が不可能ならばそれ以外の方法で戦闘不能にすればイイ」

ドーラの目から光は消えていない。

それは夜の闇の中に輝く灯台の光にも見えた。


『オルドリクス』が幾たびの魔族たちの攻撃を受けながらもゆっくりとラムードに足を向ける。

無言で進むさまはおそろしく不気味ですらあった。


「次の作戦地点に到着だな」

カリアはそう言ってその場所で反転する。

他の魔族も反転し、後方の『オルドリクス』に顔を向ける。

ヴァロが魔剣の調整をしている間に魔族たちは何か行っていた様子である。

「次の作戦って…アレを破壊する手段があるのか」

隕石落下は凄まじいものがあった。

あれで破壊されなかったのなら、もうこちらに破壊する手段はないように思えた。

「人間、次はお前の出番はない。お前はそこの特等席で見ていればいい」

ジーリアの声にヴァロはそれに言い返すことはできなかった。

どうも自身がここにいるのは場違いのような気がしてならないというのもある。

「ジーリア、ゆくぞ」

ヴァキュラが空に無数の黒い塊を投げる。

ジーリアがそれを『魔弾』で『オルドリクス』に向けて放つ。

小さな粒のような塊が『オルドリクス』に次々に引っ付いていく。

ついた黒い塊が少しずつ吸収されているのがはた目からでもわかる。

ただ魔族たちが無策でやっているとは思えない

ヴァロは黙ってそれをただ眺めていた。

「コブリ」

コブリはオルドリクスの正面で膝をついている。

「ああ、行くぜ」

コブリが地面に手をあてると『オルドリクス』の足元が音をたてて崩れ出す。

『オルドリクス』は先の見えない穴に落ちていく。

その下にあるのは底すら見えない漆黒の闇。

「壊せないのなら行動不能にすればいいだけだ」

次の瞬間小さな塊のいくつかが爆発する。

一つではない、連鎖となって爆発していく。

底なしの奈落のような穴の中に落ちていく速度を加速させていく。

「まだ終わらんぞ」

ヴァキュラは印を結ぶ。

小規模な爆発が『オルドリクス』を追うように地下で引き起こされる。

穴の側面に仕掛けられた爆発物が爆発する音だ。

どうやら穴の中にあらかじめ仕掛けてあったモノらしい。

『オルドリクス』を追うかのように地中で爆発が続いてく。

大量の土砂がその穴を埋めていく。

「この星の外殻付近まである穴だ。大量の土砂とともに日の目を見ることなく、深海よりの深い地の底で眠り続けるがいい」

ジーリアが上空からそう言い放った。

穴の中に埋め、大量の土砂により『オルドリクス』行動不能にするという行為である。

壊せないのならば二度と日の目を見ることない地の底に埋めてしまえばいい。どうやらそう言う考えらしい。

地面からの爆発による振動が延々と続き、遠のいていく。

ヴァロたちが勝利を感じ始めたとき、閃光が地中から閃く。


『オルドリクス』は何事も無かったかのように地中から姿を現した。

背中のあたりから光を噴出させて、地底から帰還した。

大地に足をつけると何事も無かったかのように歩き始めた。

「飛べたのか…」

ジーリアは茫然とそれを見上げる。

どうやら『オルドリクス』は飛行能力まで有しているらしい。

「つくづく厄介じゃの」

ヴァキュラはそうつぶやくと信号弾を放った。


『オルドリクス』一歩一歩『ラムード』に近づいていた。

暑いっす。梅雨があけて絶望の日々が…。

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