5-2 公爵の力
ドーラから提案された作戦は七つ。
どれもが対象の行動を不能にするための作戦である。
己が腕に絶大ともいえる自信を持ち、一対一を是とする魔族達にとって連携は苦手とするところである。
それもドーラがうまく立ち回っていなければ今回の連携はなかったであろう。
魔族たちは初めこそ難色を示したものの、ドーラの根気強く、理にかなった作戦を試すにつれ協力的になってくれた。
次は絶対に負けることができない戦いであることが彼らの結束を促した。
『オルドリクス』が岸壁を抜けてゆっくりと歩んでいく。
『オルドリクス』は渓谷に侵入し、一路、ラムードを目指して歩み始めた。
「ドーラ殿の言うとおりだったな」
渓谷に入っていく『オルドリクス』を見てヴィズルはそう漏らした。
先の会議のことである。
「少し待て、どうして真っ直ぐに渓谷を通ることを前提に作戦が組まれているんだ?
もし迂回ルートでも使われれば作戦は成り立たないぞ」
ヴィズルの意見はもっともである。
ドーラの作戦は渓谷を通らなければ成り立たない。
「僕が奴ならこのルートを通るヨ」
「根拠は?」
ヴィズルは疑わしげな視線をドーラに向ける。
「僕が奴なら手に入れた『オルドリクス』の力を試してみようとするだろうサ。…次の決戦に向けてネ」
「ふむ」
その言葉にヴィズルとフィアは怖い表情をしている。
エルンは表情を険しくしている。
「次の決戦?」
一人それが呑み込めないのかクーナが疑問を声に出す。
その疑問にフィアが横から応じる。
「奴の目的は破壊。もしこの星を破壊するならば最大の障害は何だと思う?」
「…まさか…」
クーナははっとそれを理解する。
「この星に六体存在するという幻獣王」
幻獣王はこの星に存在し、その七体はそれぞれに魔王をはるかにしのぐ強大な力を持つとされている。
ちなみに一体いる黒竜王は次元の狭間にいるとされるため除外されている。
ラムードが陥落すれば次はこの星を破壊するつもりだという。
もしこの星を破壊することを目的とするならば、次の敵は星の実質的な支配者である六体の幻獣王となる。
それは魔術王や『爵位持ち』などをはるかに超える怪物。
現在最強の兵器とされる魔術王の神槍『エアリア』ですらも幻獣王フィリンギの力の一部にしか過ぎない。
戦闘をすればその大陸ごと消し飛ばしかねないために自ら戦うことを禁じているのだという。
『爵位持ち』がいる今の状況は奴にとって恰好の実験場所ともいえる。
「だからこそ僕らごとき正面から力でねじ伏せようとするだろうサ」
そしてそれはドーラの言った通りになった。
「…奴にとっての我々は幻獣王戦の前哨戦というわけか。ずいぶんとなめられられたものだな」
ヴィズルは立体映像の『オルドリクス』をみつめながら呟いた。
『オルドリクス』を囲むものはジーリア、エドランデ、コブリ。
その三人は『オルドリクス』との距離を保ちつつ進む。
不気味な沈黙を守ったままラムードの方角へ進行を続けている。
『オルドリクス』からの攻撃はまだない。
だがもしオルドリクスが集中してこちらを狙ってきた場合、それも各個撃破に専念された場合、
すぐさま撤退するように話を受けている。
それも作戦の遂行が著しく困難になるだけではなく、圧倒的な火力をもつであろう『オルドリクス』に対して不利になるためだ。
ヴァキュラとカリア、ヴァロは先行して進んでいた。
ヴァロはカリアの背中に乗っている。
カリアの下半身は馬のような形の黒い鎧に覆われ、それが生き物のように動いていた。
さながら神話に登場する半人半馬である。
はじめこそ驚いていたものの時間がたつにつれて慣れてきた。
ヴァキュラは走りながら背後から無数の手を出現させ、黒い塊をつくっていた。
何やら次の攻撃の準備をしているらしい。
何度か実際に話してみて話の分かる人だとも思っていたが、やはり自分たちとは違う存在なのだなと改めてヴァロは感じる。
「それにしても便利なもんだ」
機動力が魔族のそれは人間のそれと全く違うのだ。
「『魔装』はいろいろと応用が利く。『魔装』で体を覆えば奴ほどの大きさになることもできるぞ」
どこか得意気にカリア。
「…もっともそれほど巨大になったところでアレの相手にはなるとは思えんがな」
カリアは背後の『オルドリクス』の影に視線を送る。
魔族たちのあれだけの攻撃を受けても、一向に怯むようすを見せないばかりか、攻撃する様子をみせない。
甲高い音が周囲に響く。
ヴァキュラは懐から通信機を取り出す。
「ドーラか」
通信機はヴァロとヴァキュラが持っている。
波長を利用して通信するモノらしく、かつての『星の民』技術が使っていたものだとか。
ラムードには現在数台しかないという。ちなみに通信機には暗号処理がされているという。
「呼びかけは試したが反応は見られんの」
ヴァキュラはドーラと交信しているらしい。
「単に攻撃の意思がないのか、もしくは敵とみなされていないのかじゃの」
ヴァキュラは背後にいる『オルドリクス』を眺める。
「ああ、とにかくやってみるとするかの」
ヴァキュラが手元の黒い球を頭上に上げる。
それは甲高い音を立てて光の玉へと変わり、『オルドリクス』の周囲の魔族たちに次の作戦が近づいていることを知らしめた。
それを信号弾とドーラとヴァキュラは呼んでいた。
そろそろ次の作戦場所だ、各自持ち場につけ。ということらしい。
『オルドリクス』を囲む三人は一斉にその場から離れる。
『オルドリクス』の足元に黒い塊がジーリアにより射出される。
それはヴァキュラの魔力によって作られた塊。ヴァキュラの魔力は『魔粘』と『魔爆』。
ヴァキュラは魔族の中でも特異体質で二つの形状の魔力を有している上に、
桁外れの魔力量を有しているのだ。はっきり言って反則である。
ヴァキュラはその特異性とそのずばぬけた魔力量ゆえに、魔族の中でもずば抜けた戦闘能力を有しているという。
後方には氷の壁が現れ『オルドリクス』の四方は氷壁に覆われる。
エドランデ、ジーリアは上からオルドリクスが逃げないよう上空から監視している。
「コブリ」
ヴァキュラが叫ぶと『オルドリクス』の前の氷壁の上でコブリが地面に手を当てる。
眼前の氷壁が倒壊していく。
『オルドリクス』の足元には黒い粘着性の塊があり、動きを封じられているためにそれを回避できない。
氷壁の先から液体が流れてくる。『オルドリクス』のいる空間を液体が包んだ。
『オルドリクス』はなすすべなくそれに包まれる。
ドーラが魔法で生成した液体だそうだ。魔力体等を溶かす効果があるらしい。
人間がその中に入れば骨すらも跡形もなく消えるという。
地表付近にはその液体をもらさないよう魔法壁が張られている。
作戦の二番目の『溶かす』ということに主眼を置いた作戦である。
その場所にあった土や氷ですら跡形もなく溶解している。
『オルドリクス』の足元にある魔力の塊は少しづつ小さくなっていく。
ただし溶けているというよりは小さくなっているような感じをヴァロは受けた。
その考えは少なくとも間違いではなかったようだ。
「フム、魔力を吸収しよるか」
ヴァキュラは仮面の中から『オルドリクス』を見ながら感心したような声を上げた。
「ヴァキュラ」
ジーリアが上から叫ぶ。『オルドリクス』には効果は見られないということだろう。
「フム」
ヴァキュラは一人納得するように呟きを漏らす。
「コブリ」
「おう」
コブリは再び手を地面に当てる。壁が破壊され、そこから別の液体がなだれ込む。
ヴァロたちは打ち合わせ通り物陰に身をひそめる。
煙を上げ、その液体は混ざりあった。
二つの液体と液体が合わさったことで巨大な爆発が引き起こされる。
だがそれでも煙の中に人影が動いている。
冷静にヴァキュラは戦いをつぶさに観察していた。
「これでもダメージはないらしいの」
ヴァキュラはそういうと再び空に信号弾を打ち上げる。
「ここを放棄するぞ」
「はっ」
「おう」
魔族たちは一斉に次の作戦開始地点までの移動を開始した。
ヴァキュラの魔力はかなり底なしです。
なぜそんなに他の魔族と違うのか、ちょっとした設定がありますが、その話はまたいずれ。




