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オルドリクスの魔神器  作者: 上総海椰
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1-1 少女の願い

極北の赤茶けた大地の上で、銀と黒の二つの魔力が竜巻のように立ち上っている。

二人の攻防により雪原が見る影もない荒れ地に変わっている。

その場所では魔術王ヴィズルと異邦の公爵であるヴァキュラが対峙していた。

魔術王ヴィズルは銀色の魔力に身を包み、ヴァキュラは黒の魔力をその身から解き放つ。

二人の力の解放により異様な力場が形成され、北の地を揺るがす。

それは二人に北の大地が怯えているかのようにもみえた。

お互いが己が力を最大限まで解放し、最強最後の一撃を放とうとしているのだ。

それはその舞台にいるお互いがお互いを認めあっているということでもある。

「見事なり、魔術王」

満足気にヴァキュラは叫ぶ。ヴァキュラは既にヒトのカタチではない。

巨大な黒い蜘蛛がその雪原に巨大な影を落とす。

無数の手の中心には黒い球のようなものが

「あんたもな、公爵」

対するヴィズルも槍と同化し、半身を神槍『エアリア』が覆っている。

神槍の全体が煌めき、ヴィズルはそれを振りかぶる。

お互いが必殺の一撃を叩き込もうとしている。誇りと意地が込められた一撃を。

それはどちらが勝とうとも、どちらが倒れようとも次で間違いなく勝負を決するものであることは疑いようもない。

四人の魔族たちは固唾をのんでそれを見守っていた。

『爵位持ち』とって戦いを横から邪魔されることは自身たちの矜持に反する。それは彼らの在り方。


そんな中、突如二人の間の中心付近に一人の少女が割って入ってくる。

いきなりの乱入者に二人は自身の目を疑った。

「フィア殿?」

二人の視線が一人の少女へと向けられる。

「邪魔をするな、小娘」

ヴァキュラは激しい怒気をその少女にぶつける。

遠くで見ていた魔族たちも、その乱入者に驚きを隠せない。

ヴァキュラを知る者たちは普段は見せないヴァキュラの怒気は、ジーリア以外の魔族たちを芯から震え上がらせた。


離れていてもクーナは皮膚が泡立つのを感じる。

本来ならば従者としてフィアのそばについていかなくてはならないところなのだが、彼女はフィアから遠く離れた場所にいた。

足がすくんでその場から動けない、本能が近づくことを拒否しているのだ。

魔術王とヴァキュラ公の全力の戦闘中である。

それぞれの放出される魔力が北の大地を揺るがすほどの。

大陸の中でも幻獣王と言う存在を除けば間違いなく最強格同士の戦いである。

この二人の戦いの間に割って入ることは『爵位持ち』ですら命がけになる。

ただの一介の人間界の魔法使いごときが割って入れるような状況ではない。

一刻も早くその場から逃げ出したい、クーナは湧きあがる衝動を必死で押さえつけその場にいた。


「ヴィズルさん、ヴァキュラ公、どうか私の話を聞いていただけませんか?」

二人の化け物の前に立つ少女の声に怯えは無い。

巨大な蜘蛛のような体から無数の目がフィアへと向けられる。

自身の怒気を当てられても怯えずに自身の前に毅然と立ちふさがるフィアに対し、ヴァキュラはわずかに興味を覚えた。

「フム、小娘わしと魔術王の気に当てられんとはな。…この波長どこかで…」

ヴァキュラの無数の目が目の前の小さな少女を映し出す。

「…小娘、主の母の名は?」

「サフェリナ」

ヴァキュラの周囲から怖ろしいまでの威圧が嘘のようにすうっと消え失せ、その体がみるみる元に戻っていく。

ヴァキュラの戦意が消えたことをみて、ヴィズルは手にした神槍の変形を解いた。

ヴァキュラは元の姿に戻るなり、少女の前で膝をついた。

「あな、なつかしや。そのお姿本当に似ておられる」

ヴァキュラの背後に四人の魔族が姿を現す。

ジーリア以外はそれぞれに服に戦いの痕跡があった。

「ヴァキュラどうした?」

背後に現れたジーリアは怪訝な表情でヴァキュラに尋ねる。

「ひかえよ。王族じゃ」

「王族…クファトス王のか」

ジーリアが眉をひそめた。

「それ以外に王族はおらぬ」

ジーリアは平伏すると他の三人も同様に膝をついた。

背後にいる三人も何を言っているのかわからないまま膝をついた。

「そう、この方は正しき王の血統。私もアデルフィ様もあなた様たちとの邂逅をどれほど待ち焦がれたことか…」

感極まった様子でヴァキュラは頭を下げる。

三人の大魔女はクファトス王の実子であり、フィアの母であるサフェリナはクファトスの子にあたる。

「ヴァキュラ公、一つお願いがあります」

フィアはヴァキュラに近寄る。

「なんですかな」

「ドーラさんを救ってください」

フィアの言葉にその場にいた誰もが顔を見合わせる。

「…あなたの言うドーラとはドーラルイ魔法長のことですかな」

「はい」

ヴァキュラの問いにフィアははっきりとそう答える。

「ドーラルイ魔法長、本当に復活されていたのか」

魔族たちの間でざわめきが起こる。

「なるほど、では今戦闘を行っているのはやはり魔法長ですな…。ほっほっほ、大方の合点がいきました」

北西の方角で大規模な魔法の衝突が起きている。それは遠雷のようにずっと遠くで音を上げている。

「よいでしょう。このヴァキュラ、その命確かに承りました。それに奴はわしらの同胞。見捨てることなどできませぬ」

そう言うとヴァキュラは静かに立ち上がり、ヴィズルに視線を向ける。

「魔術王、この決着は次の機会でよいか?」

「勝負のことなら構わんが、このフィリンギの地でこれ以上好き勝手するつもりか?立場としてはお主らを見過ごすことは出来んぞ」

ヴィズルは刺すような鋭い視線をヴァキュラに向ける。

「…魔術王、すべてが終わればこの老骨の首をフィリンギに差し出そう」

「ヴァキュラ公」

これにはさすがに背後の四人が一斉に声を上げる。

ヴァキュラがギロリと睨むと静まり返った。

「私に口約束を信用しろと?」

槍を手にヴィズルはヴァキュラを見据える。

「ここにいる者皆が証人じゃ。この名と王に誓おうぞ」

ヴァキュラはそう言うとどこから取り出したのか老人の仮面を再び顔に着ける。

王に誓うとこの老いた魔族は言った。それはそのモノにとっては命よりも重いこと。

それはフィアのことを王族と言う態度からもうかがい知れた。


ヴィズルの前をヴァキュラが通りさる。

「…必ず戻ってこい」

ヴィズルの呟きにヴァキュラは黙って頷き歩み去る。

「ついてまいれ」

ヴァキュラの足元の大地が割れる。ヴァキュラは魔力をその場に残して北に向かう。

背後の五人もまたそれを追うかのように次々にその場から去っていった。

五人の魔族がその場から去って行ったあと、フィアは一人その杖に寄りかかる。

緊張の糸が切れて足の力が抜けたのだ。聖堂回境師とはいえ、元は年端もいかない少女。

そんな者が大陸の列強たちと対等に渡り合ったのだ。

それは奇跡的とも言っていい。

「これが…リュミーサさんが言っていたこと…」

フィアはリュミーサの言葉を思い出しつぶやく。

「あなたは鍵。これからそれをあなたが止めなくてはならない」

その意味が少しだけわかった気がした。

もしリュミーサの言っている『予知』が本当ならばこれから第一の災厄が起きる。

リュミーサは呪われし巨人が極北の地で目覚めると言っていた。

その呪われし巨人と言うのはドーラや五人の魔族の追っているものなのだろうか?

フィアが考え込んでいると、ヴィズル槍を片手にフィアのそばに歩いてやってくる。

「まさか今は亡き大魔女サフェリナの御息女だったとは…」

「ヴィズル=ラムード。あなたも大概だと思いますが」

その言葉に背後にいたクーナは固まる。ラムードの性を名乗れるのは魔術王のみ。

ヴィズルは静かに笑う。

「魔術王?この男が?それにドーラルイって…第四魔王『異形の懐求者』じゃない。それを助けるとか意味が解らないんだけど」

「…そのことは後で説明する。それよりも私はクーナに言いたいことがある」

フィアの声には怒気のようなものが含まれていた。

穏やかな少女が初めて見せる剣幕にクーナはたじろいだ。

「ごめんなさい。私は従者として失格ね。魔術王とヴァキュラが対峙している中で従者としてついていくことができなかった」

クーナは魔術王と『異邦』の公爵の戦闘中、間に入っていけなかったことを言っている。

その件に関しては誰も責められはしない。

「そうじゃない」

フィアは首を横に振った。

「エドランデと言う魔族と戦った時、あなたはあきらめたわね」

フィアの言葉にクーナははっとさせられた。確かにあの時クーナは生をあきらめ死を覚悟した。

「あなたは私の何?」

フィアはクーナを睨む。

「従者です…」

フィアの問いにうつむきながらクーナは答える。

「私の従者だというのなら最後の最後まであきらめることは許さない。最後まで私を信じて生にしがみつきなさい」

フィアの言葉には女王が下す裁きを連想させた。

「…はい」

「それじゃ、ヴァロを助けに行ってもらえる?力を使い切って動けないでいるだろうから」

来る途中でヴァロの無事は遠目から確認している。

「はい」

クーナはフィアの言葉に従い、その場を離れヴァロの下に向かった。

「酷なことを言う。最期まで生にしがみつくことをことを強要するとはな」

終わったのを見計らうように背後からヴィズルがフィアに声をかける。

「…クーナには私の分までこの世界を見てもらいたい」

フィアはクーナの背中を見てつぶやく。

「…それは…」

ヴィズルは言いかけて首を振る。少女の横顔にヴィズルは何かを察したようだ。

ヴィズルは変わり果てた雪原を見渡す。そこには赤茶けた地面が露出していた。

大体はヴィズルの魔法によるものだが、全力の自身と互角に渡り合った相手は今までいなかった。

公爵ヴァキュラはそれほどの相手だったのだ。

ヴァキュラには及ばないもののこの他にも四人の『爵位持ちが』この地にやってきているのだという。

「異邦が五人も『爵位持ち』を動かすとは…さらにその中でもヴァキュラ公を動かすとは…。フィリンギに対して宣戦布告ともとられかねないぞ。

それほどの敵がこの大陸に幻獣王の他にいるというのか?」

「…魔術王、私たちはこれからのことを話しましょう」

魔術王ヴィズルはフィアの言葉に目を細め頷いた。

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