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オルドリクスの魔神器  作者: 上総海椰
17/33

4-2 住民避難

一人その女性は魔法の明かりをつけて本を読んでいた。

窓から見える風景はしんしんと雪が積もっている。

不意にドアを叩く音がその静寂の時を遮る。

「入れ」

「フェリコ」

ドアから顔を出したのは金髪のまだ小さな子供。

「フェリコさんをつけろ。また魔法のことで私に質問か?」

あからさまに嫌そうな顔をみせる。

「うん」

その子供はフィアと言う子供。

その子供は許可したわけでもないのに膝の上に乗ってきた。

彼女は子供は嫌いだ。

ずうずうしく人の領域に入り込んで我が物顔で闊歩する。

だが彼女はそれを口にすることは一度もなかった。

「で、それはどこだ?」

「ここ」

その子供の指さしたところは魔法に精通した自分たちでも少し考え込むところだ。

並みの魔法使いでは答えられまい。

「それはな…」

小さな光の中フェリコはその子供の問いに答えはじめる。

卓越した魔法力、歳を重ねるごとにあの方に似ていくこの子供に我々の組織は拒絶で応えた。

そのあとはどこにでもあるありふれた話だ。

後悔はしていないと何度も自分に言い聞かせ、今まで歩み続けてきた。



住民の避難が一斉に始まる。

幾つかに分かれてミョテイリまで移動することになるという。

人手不足と言うことでヴァロも暇を見つけては住民の避難を手伝っていた。

避難民の誘導は順調に進みつつあった。

「ヴァロさんでしたね」

避難指示をしていたヴァロは背後から声をかけられた。

振り返るとササンと言う料理店の店主がそこにいた。

恰幅のよい体形で顔には笑みを絶やさない。

旅人の服装で背中には大きなリュックを背負っている。

「何も話さずとも、状況は少しは理解しているつもりです」

住民全員の避難勧告など初めてのことだという。

状況は思っている以上に伝わっているらしい。

「何、幸い天候も悪くないですし、皆と一緒に避難するために不安はありませんよ。ヴァロさんは?」

「私はここに残ります」

そのヴァロの一言にササンは何かを感じ取ったようだ。

「そうですか…。王とラムードを頼みました」

小さくそう言うとササンは深々と頭を下げる。

ヴァロは何も言わず、小さな頷きを返した。


そのササンを見送ると一人の女性が背後から声をかけてきた。

「…お前があの子を救ったというフゲンガルデンの騎士か」

大きな眼鏡をかけ、髪は背後で結んである。

服装は着飾ってはいないものの、身綺麗にしてある。

挑発的で鋭い瞳。その気配からなかなかの使い手だとヴァロは直感した。

メルゴートではフェリコと呼ばれていた魔女。

ラムードでの呼び名はルジュと言うらしい。

「あんたが…」

フィアを捨てたヒトかと喉まででかかった。

「そうだ」

どうやら通じたようだ。

少し悪い気になってヴァロは難しい顔になる。

「大体言いたいことはわかる。私は自身の保身のためにあの子を捨てた」

どこか自嘲気味に笑う。

「それはそうとお前はずいぶんあの子になつかれているようだな。…少し話をしないか?」

ヴァロはルジュという魔女に言われるがままついていくことにした。

周囲を見渡せば住民たちの人影はほとんど見えない。

どうやら順調に避難は進んでいるらしい。

ルジュに導かれ、ヴァロは街を見下ろせる場所にやってくる。

「フィアは…」

「アレはどこにでもいるような普通の子供だった」

ヴァロが言い終わる前にその女性は語り始める。

どうもこの女性を前にすると心を読まれているような気がする。

「ただし一つだけ異なるのはあの娘の才は怖ろしいものがあった。

わずか五歳までには大抵の魔法を使いこなしていた。それも見よう見まねで」

ヴァロは生唾を呑み込む。

「我々の社会は魔法力によりその上下が決まる。子供のころから寝る間も惜しんで、血を吐くような努力を続ける」

魔女の社会は苛烈なまでの競争社会。魔法はその生命線でもある。

必要とされないと判断されれば、組織から容易に切り捨てられる。

組織から切り捨てられれば、はぐれ魔女として生きるか、魔法を捨てるかの二択しか残されていない。

だからこそ彼女たちは何を引き換えにしてでもそれを究めようとするのだ。

「そんなものたちをやすやすと幼子がやすやす超えていったのだ。

あの娘を引き取った数人は次々と精神を病んだ。

想像したことがあるか?年端もいかない幼女に自分の今まで培ってきた技術がやすやすと吸収されていくのを」

ヴァロはそれを想像し言葉を詰まらせる。それは一人の子供に生涯を全否定されるようなものだ。

自身たちの歩んできた道をやすやすと越えられるのだ。それを間近で見て、とても正気ではいられまい。

「そこでルベリア…メルゴートの長は…あの娘に錠をかけた。体内の魔力流を不規則にする錠を」

ヴァロはその解除作業に付き合わされている。

それがどれほど大がかりなモノだったのかはヴィヴィに聞いている。

「馬鹿げているだろう。巨大な結社と言う組織が一人の子供をおそれたのだ。

…もっともルベリアは自身のやっていることへの後ろめたさもあったんだろうがな」

そうメルゴートは第三魔王の復活を試みている。

それは時間をかけて組まれたモノであり、前メルゴートの長のサフェリナが死んでからそれは仕組まれていたと聞いている。

「…それでもあんたはフィアを引き取ることを受け入れたんだろ?」

今度はヴァロの言葉にルジュはヴァロを見る。

「サフェリナ様との約束もあったからな。本来ならば物心ついてから私に預けられるはずだった。

何処までも厳しく、徹底的に仕込んだよ。歩き方から。食事の作法に至るまでどこに出しても恥じぬように」

フィアが妙に場馴れしているのはそのこともあるのだろう。

特に交易都市ルーランでのパーティでのドレスを着たフィアの立ち振る舞いは、貴族の子弟と言われても差し支えないほどだった。

それはフィアがいくら才能があろうとも一日などで身につけられるものではない。

「アイツは俺と出会った時殺してくれといってました。厳しいだけだったのならばそうまではならないはずだ」

「殺してくれか…」

それを聞いてルジュはうつむいた。

「どうしてあなたは…」

「私たちが甘くなれるほど、世界は我々には甘くはない」

ヴァロが言い終わる前にどこか達観したような表情で彼女は言うと、それっきり何も語らなかった。


ルジュはヴァロが去ると屋根の上に視線を向ける。

「覗き見は感心しないぞ」

「人がどこで休もうと勝手ダロ。そもそも君らは後から来たんダロ」

建物の屋根の上からとんがり帽子をかぶった一人の男が屋根に座っていた。

「…本当に第四魔王ドーラルイなんだな」

「そうだヨ。意外と知られてるみたいだネ」

ドーラは至極当然のように即答する。

「単純な推測だ。私はその男を知っているし、その男が何をしようとしていたのかを知っている」

「…意外と鋭いネ」

ドーラは目を細める。

「お前がここにいるということは、その躰の前の持ち主の企ては成功したということか」

どこか感慨深げにルジュはつぶやく。

「やれやれ、初対面でお前呼ばわりカイ」

ドーラは気にするような

「ああ、すまない。性分でな」

「よくそれで宮仕えができるもんダ」

「一重に私の実力だろう」

いけしゃあしゃあと彼女はそう語る。

「フェリコ…今はルジュだったネ。たしかに君のことはこの躰の記憶にあるネ」

虚空を見上げながらドーラはぼそりとつぶやくように言う。

ドーラは持ち主の肉体からその女性の記憶を見つけたらしい。

「…へぇ。君が僕の復活方法を彼に教えたのカ」

思い出すように彼は続ける。

「ああ、その男に第四魔王の復活方法を教えたのは私だ。今となってはどうでもいいことだがな」

結果、聖都コーレスの時計台などが破壊されるという大事件に至ったわだが。

「一つ質問いいカイ?」

「なんだ?」

ルジュは屋根の上にいるドーラを見上げる。

「君だったら巨大なものが目の前に立ちふさがった時、どうする?」

「例の魔神のことか?」

「どう受け取ってもらっても構わないヨ」

ルジュは少し思案するように腕を組む。

「…そうだな。私なら一目散に逃げ出すだろうな。手に負えないものを相手にしても意味がない」

「逃げ出す…遠ざけるカ。…なるほどネ」

その答えにドーラはぶつぶつと独り言を言って考えこむ。

「私からも一つだけ質問させてもらってもいいか?」

ルジュがそう言って切り出す。

「答えられるものならネ」

ドーラはルジュと向き合う。

「あの男は言っていた。魔王とはなんなのか?と魔王に尋ねると。お前はその問いを受けたのだろう?それにどう答えたんだ」

ルジュの問いにドーラは表情を変えることはない。

「なら君がなってみればいいと答えただけサ」

ルジュの表情が固まる。

「…はっはっは。それで躰を交換したというわけか。奴らしいな」

ルジュは誰もいない街を見下ろしながら大声で笑う。

「もうひとつ…これは私の懺悔だ聞いてくれるか?」

「まあ、聞くだけならネ」

ドーラはその場に座り込む。

「私はずっと王とは我々とは違ったモノなのだと信じていた。皆を先導して歩く者のことを王なのだと。

だが、ここの王の在り方を見て考えさせられたよ。王もまた役割を演じているヒトなのだと。

魔法の探求に没頭するあまり、いつの間にか私たちの視野は狭くなっていたのだな。

もし私がアイツを見てやれれば…」

ルジュは横に首を振る。

彼女の親友はその重荷に耐えられず第三魔王の復活にすがったのだ。そして滅ぼされた。

もう終わった過去は変えられない。

そのことは誰よりも彼女が知っている。問題なのは今だ。

「お前の目からフィアはどう映る?」

「フィアちゃんはただ魔法の才能がヒトよりもあるだけのただのヒトサ。それは彼女を教えていた君が一番よくわかってるんじゃないカ」

一瞬ルジュの脳裏にフィアの子供の記憶が呼び起された。

膝の上に乗りながら無邪気にルジュに質問を投げかける姿が。

彼女は泣きそうな表情を見せる。ただし一瞬だけだ。すぐに厳格な顔に戻った。

「…私が…もっと早くお前とは会っていたら私はもっと違う選択肢をとれていただろうか?」

「それは僕に問うことカイ?」

ドーラはルジュに視線を向けることなく、無人の街を見下ろしながらそう答える。

「そうだったな」

ルジュは乾いた笑いをこぼす。どこか吹っ切れたような晴れやかな顔だ。

「私は残っている者がいないか確かめてくるとする」

「そろそろフィアちゃんが起きるころダ。僕も戻るとするカナ」

ドーラは立ち上がる。

「魔王、すまなかったな」

「僕の名は魔王ではないヨ」

ドーラの言葉にルジュは立ち止まる。

「すまない。…それではドーラルイ、助かった」

彼女を知っている者からすれば見たこともないような柔らかな笑みである。

ドーラはそれを見るとその場から消え去った。


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